第43話【鬼神とタルタロス】
『派生ルート検索……完了、インストールします………完了しました。これより《鬼神ノ太刀・烈火》を《鬼神ノ太刀・閻解》に進化させます』
何処からともなく機械的な声が聞こえたと思ったら鬼神ノ太刀は形を少し変えていく。
「き、鬼神ノ太刀……閻解!」
進化し、“閻解”の名を持った事により、ベリーの姿も少し変化が見れる。
ベリーのピンクに近い赤い目と髪は黒に近い赤となり、防具の《霧雨》も白い部分が黒となる。
「す、凄い……! 力が湧いてくるよ!」
その理由は【鬼神化】をした状態でさらに強化、新しいスキル【閻解】を使用する事で今の姿となり、ステータスも今まで以上にパワーアップし、さらにスキルが追加された。
「よし、【火炎吸収】!」
新しいスキル、【火炎吸収】はその名の通り周りの炎を吸収した。それにより攻撃力が上がる。
「……よし! 【閻撃】ッ!」
そして【鬼撃】の進化バージョンだろうか、【閻撃】というスキルを《タルタロス》に撃ち込む。
『グォォゴァァァァ!?』
《タルタロス》のHPは大きく削れ、残りHPもHPバーが一本となる。
「連続発動【閻魔斬り】!」
さらにベリーは【閻魔斬り】を7発放ち、またも《タルタロス》のHPを大きく削る。
「これで終わらせる! 【閻解ノ大太刀】ッ!」
ベリーは最後に大技、【閻解ノ大太刀】を発動し……ようとした。
発動しようとしたが、それは《タルタロス》の咆哮によってキャンセルされる。
『ゴアォォ……グッ、ガァァァアアア!!!』
「うきゃあ!?」
ベリーは尻もちをつくと、すぐに起き上がり状況を確認した。
『【タルタロス】ッッ!』
ベリーの脳に直接聞こえてくる声を発し、《タルタロス》は空へ舞うとベリーの上空を回るように飛ぶ。
「な、何が起こるの……?」
そう言った瞬間、ベリーの真横の地面が無くなっていた。
正確には、谷になっていたのだ。
ベリーは上空を飛び回る《タルタロス》を見ると、《タルタロス》は飛びながらこちらに魔法の塊を放った。
魔法の塊は剣のような形をしており、ベリーは難なくそれを避けるが、すぐに谷が現れた理由がわかった。
「こ、これはまずい!」
ベリーはそう叫ぶと全力で走る。
その瞬間、《タルタロス》は大量に魔法の塊を放つ。
軽く数えるだけでも10はあるだろう。
魔法の塊はそれぞれ地面に到達すると、大きな谷を作って消滅していく。
「【霧雨】! 【霧雨ノ舞】! 【見切り】、【絶対回避】ッ!」
ベリーは一度【鬼神化】、【閻解】を解除すると、【霧雨】を発動して回避出来るスキルを全て発動させる。
『ゴォォオオオオオオオオオ!!!!!』
《タルタロス》は叫び、さらに火球をいくつも飛ばしてくる。
「ハッ……ハッ……まずいよぉ、フィールドがどんどん小さくなっくよぉ!」
ベリーは息を上げながら、フィールドを見て言った。
フィールドのほとんどは谷になり、ベリーが歩けるところが限られてきた。
そしてその場所を狙って火球が飛んでくる。
「くっ! どうしたら降りてきてくれるのかなぁ!」
ベリーは火球を【見切り】で防ぐと、【霧雨ノ太刀・一】を放ってみる。
しかし速度が足りないので飛び回る《タルタロス》には当たらない。
そしてまたも火球により【絶対回避】が発動する。残りは【霧雨ノ舞】の無敵時間だけだが《タルタロス》の攻撃が止む気配が無い。
「何か……何かあるはず!」
ベリーはそう思考を巡らせ、考えながら走る。
すると、打開策を思い付いた。思い付いたというよりは走ってる最中に見つけた、不発した魔法の塊だ。
「よっ! っと、よし拾えた!」
ベリーが魔法の塊を拾うと、色を失っていた塊は真っ赤に燃え上がり、矢の形に変化する。
「こ、これを当てるの!?」
止まることを許されないこの状況で、さらに敵は空を飛び回る。
矢を当てるのは至難の技だが、やるしかない。
「【閻解】ッ!」
【霧雨ノ舞】の効果時間も終わったので、ベリーは【閻解】を発動し、《果ての弓》を構える。
「果てまで飛んでけぇぇぇ!」
ベリーは矢を放つと、矢は真っ直ぐ《タルタロス》のほうへ向かい、瞬間に爆音をたてて空を割った。
『グォォォォ…………』
《タルタロス》のHPは0になり、光の粒となって消えていった。
フィールドも元に戻り、お爺さんが現れる。
「まさかあれを倒すとはのぉ……」
「凄い大変でしたぁ……」
ベリーは【閻解】を解除し、疲れから地面に座り込む。
「良いだろう、お主にはこいつをやろう」
そう言ってお爺さんが渡してきたのはチケットだった。
「これは?」
「報酬はこのドラゴンの素材詰め合わせセットなんじゃが……わしは感動した! あれほどの強敵に一歩も引くこと無い勇気! お主は最後のクエスト……《五老人ミニゲーム・ファイナル》を受ける権利があると見た、このチケットはその為の挑戦権じゃよ」
こうしてベリーは《五老人ミニゲーム・ファイナル》の挑戦権と、ドラゴンの素材詰め合わせセットを受けとり街に戻っていった。
***
「ついにベリーちゃんが……《五老人ミニゲーム・ファイナル》の挑戦権を手に入れた……」
「俺達がお遊びで作ったクエストだったのにな、今じゃ重要なクエストだよ……」
「というか社長もよく許可出したよな」
八神や三嶋が居るNGO制作チームは日本だが、社長の居る本社はアメリカにあり、大体は社長の指示でモンスターの追加などのアップデートをする。
「お前ら仕事しろよ! 何プレイ映像見てんだよ!」
三嶋はパソコンのキーボードを打ちながらチームの仲間達に向かって叫ぶ。
「おーい三嶋ー! 電話だぞー!」
そう八神が三嶋に知らせる。
「ったく、珍しく八神が働いてると思ったらこれだよ……はいもしもし、三嶋です」
三嶋はそう言いながら電話を変わる。
「あぁ、三嶋君、私だ」
「しゃ、社長!?」
「「「社長っ!?」」」
八神以外の全員がそう驚くとなぜか電話から距離を置く。
「え、えーと……五島社長直々にお電話されるということは……何か問題がありましたか?」
アメリカにあるNGOの本社、その社長の名は五島文桔今年で苺のお爺ちゃん、重郎や鈴のお爺ちゃん、雅信と同じ60歳になる。
「いやいや、今日は秘書が風邪で休んでいるからな」
「あ、あぁ! そうなんですね! それでご用件は?」
「あぁ、前々からやろうと思っていた自動クエスト生成システムが完成した、データを送っておいたから確認して、不具合が無ければ次のアップデートで導入してくれ」
「はい、わかりました……ではこれで」
三嶋は受話器をそっと置くと、自分の椅子に座り無言でパソコンを弄る。
「三嶋さん……緊張したんだな」
「俺……ちょっとコンビニ行って何か買ってくるわ」
と、同僚達はそれぞれ動くが八神だけは。
「ねぇねぇ見せてよ!」
「お前………もういい、勝手に見てろ」
「やったー!」
そして三嶋と八神はその自動クエスト生成システムを見て驚いた。
「『成長するAIで行い、プレイヤー達と接触することでより最適なクエストを生成する』……スゲーな……」
三嶋は説明文を読み上げてそう呟く。
「『また自然に接するようにこの事はプレイヤー達には秘密にする』……だってさ」
「なるほど、よし、さっさと不具合無いか確認するぞ、手伝え」
「えー、私これから休憩するから他の人に言ってー」
「他なら飯を買いに行ってくれたぞ」
「なんでさぁぁぁぁ!!!」
その後帰ってきた同僚によると、八神は泣きながらパソコンのキーボードを打っていたそうだ。
タルタロスっていう谷でそれ自体が神様みたいです。 (詳しくは知らない)




