第41話【焼結島】
「アイテムおっけー……装備おっけー……よし、行くか」
ベルはそう言うと船に乗り込む。
「どちらに向かいますか?」
NPCが地図を出して行き先を聞いてくる。
「焼結島でお願いします」
そう、ベルは一人で焼結島に行こうとしていた。
恐らく中心部には辿り着けないが、少し見ておこうと思ったのだ。
「焼結島は非常に危険ですが……それでも行きますか?」
と、再確認をしてくる。それほど危険なのだ。
「はい、行きます」
「わかりました、では到着までしばらくお待ちください」
その後ベルは焼結島に着くまで船の中で何かクエストが無いか探すために探索をしたり椅子でくつろいだりして過ごした。
「………ハァ、一人で来ちゃったなぁ……」
ベルが一人で焼結島に行こうとしたのには理由がある。
それは仲間が増えてきたことで自身の重要性、存在価値が欠けてきたのだ。
ソラが先頭に立ち敵の攻撃を受け、アップルが白狼などを召喚してソラのアシストや雑魚敵の処理をする。そうして出来た敵の隙を狙い、フィールとバウム、そしてベリーが攻撃をする。ベルの役割は状態異常にしたり遠くからちまちま敵を撃つ程度だ。
回復はまだポーションや初級の回復魔法で間に合うのでベルがヒーラーに回ることは無い。
貢献していると言えばしてるのだが、ベルは自身の存在価値が下がるのを怖れていた。
今はまだそんなことは無いが、一番はベリーに抜かされるというのが怖かった。
「……先輩でいなきゃ!」
皆の頼れる先輩でいれるように、ベルは強くなりたかった。
もう皆のレベルは50以上、まだまだ成長の余地はある。
ベルも成長するなら今だった。
「あれが焼結島? 凄い……ヤバそう」
窓の外に見える氷の島、吹雪が吹き荒れているのがここからでもわかる、だが不思議なことに大きな火山まであった。しかも噴火し続けており、火山周辺は燃え盛っていた。島の焼結の意味は炎のような暑さと氷のような寒さという熱と熱が共存している極地だから付けられたのだろう。
「……が、頑張ろう…いけるとこまで……」
ベルがそう呟くと、唯一焼結島で安全な場所に船は停止した。
「ここだけ草原なんだね……凄い寒いけど……」
寒さに身震いしながらメニュー画面を操作し、厚手のコートを取り出す。
「ちょっと動きづらいけど……モンスターは全く居なさそうだし、大丈夫大丈夫!」
ベルはそう言って中心に向かって歩き出した。
***
その頃ロウとハクは。
「ロウさん、まだ刀使ってるんですね」
「まぁな、あのベリーってやつがまた来るだろうし……その時までこいつを使う」
ロウはもともと狂戦士で侍では無い、ただ《妖刀・村雨》がドロップしたので試しに職業チェンジして使ってみただけなのだ。
「大剣よりは軽いが、なかなか面白いぞ」
「ボクはロウさんのアシスト担当なのでアタッカーにはなりません、それにこの子と一緒に居たいですし」
ハクはそう言ってあの黒い化け物を撫でる。
「気になってたんだが、お前のそれ……スキルなのか?」
「うーん、【ザ・シュバルツガイスト】っていうスキルではあるみたいですけど……別にこのスキル名を言わなくても出てくるんですよ」
「その杖自体がおかしいんじゃないか?」
「確かに、この杖自体がこの子なのかもしれませんね」
ハクはそう言うとまた化け物の頭を撫でた。
「っていうかその化け物のこと、この子この子って呼んでるけどよ、名前は無いのか?」
「名前……そうですねぇ、シュバルツガイストも長いですしね………《ファング》はどうでしょう!」
「おっ、いいんじゃねぇか? カッコいいしな」
化け物もといファングも喜んでいるように見えた。
「モンスター来たぞ」
「はぁーい! やっちゃいますよ! ファング!」
『グルァァァアアア!』
こうして竜島でモンスターを狩りまくっていたロウとハクだった。
***
「寒いのに……火傷の状態異常……ハァ……ハァ……」
ベルは吹雪の中、ゆっくり進んでいた。
「これ……レベル制限があるのか、それとも何かのクエストをクリアしてから進めるようになるのか……それだけでもわからないかなぁ……」
氷結状態にもなり、さらに動きづらくなり、HPも減ってきていた。
中心部にはまだ遠い。
「ハァ……ここまでかなぁ……」
と、ベルの足を止めたのは今いる場所よりも吹雪が強くなっている所だった。
これ以上進むと確実にHPが大きく減っていく。
「この辺探索してから帰るか……」
ベルはそう言うと来た道を引き返しながら探索をした。
***
「ハァ、ハァ……ダメだ、もう帰ろう……」
ベルは時間切れを悟り、すぐに帰ろうとしたその時。
「あれ、寒くない?」
寒さが、吹雪が急に無くなった。これは何かの条件をクリアして先に進めるようになった……そう思ったが違う。
周りを見渡して気づいた。
吹雪が無くなったのではない、目の前には雪が停止していた。
「これ……は……」
火山を見ると噴火し続けているはずだったのに止まっている。
噴石が停止していた。
これはあの時と同じだ。
「でもアイツは居ない……?」
しかし近くにあの魔術師は居なかった。ベルは一旦深呼吸をして、中心部を見る。
「この先に居るんだね…………また来るよ」
ベルはそう言うと船が停まっている草原へ戻っていった。
* * *
『この感じ……あいつか……』
魔術師はそう言いながら角を砕いていた。
『今すぐ向かいたいところだが……やはり私もNPCというわけか……』
不機嫌そうに魔術師は言って、角を砕き終わると角の粉末を持って消えた。




