EX【モンスターを食べてみよう!1】
お久しぶりです。この度拙作が5周年を迎えたので、ちょっとしたお楽しみ回となります!
本編が頭に入っていなくても楽しめる内容となっているので、久しぶりの方も、新規さんも楽しめます。
それでは前置きはこの辺にして、
Welcome to 《New Game Online 5 》!
――仮想世界、フルダイブワールドには様々な『食べ物』が存在する。
ゲーム内のリアリティーを求めて場所によって違う食文化があったり、現実にはないゲームならではの食べ物があったりと、もし《フードコレクター》のプレイヤーが居れば、そのコレクションは星の数ほどになるだろう。
そして近年話題沸騰中のフルダイブゲーム《New Game Online 5》でも、しばしばリアルを追求するがあまり細部に至るまで変態的な作り込みがされていた。
米粒ひとつを再現するのにどれほどの労力が必要なのか、和装の剣士はどんぶり飯をまじまじと眺めながら思う。
「むぅ……お米が輝いてる。あ~むっ」
難しいことはよく分からない剣士――ベリーは、このカツ丼を作ってくれた食堂のNPC、そしてデザインしてくれた開発者に感謝の意を込めてぱくりと食べた。
噛めば噛むほど甘みを感じるお米たち。
薄衣の肉厚トンカツは、サックリと衣が音を立て、ブタさんの肉汁がじゅわぁ~っと口の中に広がっていく。
「ん~っ♡ ここのカツ丼は美味しすぎるよ~!」
ベリーは笑みをこぼしながら、さらにもう一口。
掻き込む箸が止まらない。
いや、止める道理などない!
「ぷはっ、ごちそーさまでした!」
米粒ひとつ残らない綺麗などんぶりを置き、ぱちんと手を合わせて元気よく完食した。
フルダイブ……仮想にも関わらず現実と同じように咀嚼し、飲み込み、胃の中にたまっていく感覚があるのはさすがNGO5と言ったところ。
「ん~今日はどうしようかな……みんなまだログインしてないし」
食堂を出たベリーは顎に手を当て悩みうなる。
せっかくなら、今まで出来なかったことをしたい。
そう、例えば……。
「……モンスターって、美味しいのかな?」
倒してドロップするモンスター素材の中には食べられそうな物もある。
ずっと気になっていたベリーだが、ヤツメウナギのような顔をした悪魔っぽいモンスターを倒した時にパーティーメンバーから「さすがにやめとけ」と止められてからモンスター料理には手を付けていなかった。
でも、みんなが居ない今なら? それはチャンスとも言える。
だって、食べてしまえば証拠は残らないのだから。
――というわけで。
ベリーは肉焼き機を購入し、森林フィールドでドデカイお肉……もとい手頃な大型モンスターが彷徨ってないか木の上から探していた。
昔、幼馴染の鈴から借りた漫画に出てきたドデカイお肉――通称『マンガ肉』をいつか食べてみたいと憧れていたのだ。
現実ではお肉を何重にも巻いたりしてそれっぽくするしかないが、ここは仮想世界。
巨大生物は多種多様。試すなら打って付けである。
「あっドラゴンだ! こんなにすぐ見つけられるなんて、運がいいなぁ! カツ丼食べたからかな?」
今日の餌であろう大きな魚を咥えたドラゴンがその辺をうろうろしていた。
恐らくは安全な場所を探して、そこでゆっくり食事をしたいのだろう。
ポタリ――と、雫が落ちる。
雨ではない。
ベリーのヨダレだ。
「た、確かドラゴンってお店でも《竜の尻尾焼き》って売ってたし……きっと美味しいよね!」
ついさっきカツ丼を食べたばかりの少女は、巨竜を前にして腹の虫を騒がせる。
その音で、安全地帯を探して敏感になっていたドラゴンがベリーの存在に気付いた。
「グオオオオオオオーーーーッ!!!!」
気付くや否や魚を置いて、木々を揺らすほどの大咆哮で威嚇する。
ネームドボス《グランロア・ドラゴニス》――鮮やかな紅色の鱗を持つ哮轟竜だ。
四足歩行のその竜は頭が大きく、それを支えるかのように四肢も大きく発達していた。
発達した四肢は爪が太く、まるで杭を打ち付けるかのように地面に突き刺しながら歩くため、転倒――ダウンさせることが極めて難しいモンスターとされている。
「こ、この咆哮……麻痺効果があるんだっ! 」
ベリーのHPゲージの上に、麻痺アイコンが表示される。
その直後、地面から爪を引き抜いて、木に前脚をぶつけた。
巨体から繰り出される重い一撃は木をへし折るのに充分すぎるパワーを持っており、ベリーは簡単に落とされてしまう。
落下ダメージで麻痺が解除されるが、相手は既に咆哮のモーションに入っていた。
哮轟竜の名に相応しい咆哮頻度。
喰らえば今度は踏み潰される。
「なら、その前に――!」
――抜刀、鬼神ノ太刀。
ベリーは愛剣を右手に、バチバチっと火花を散らす。
左腕から燃え上がった焔がたちまちベリーの全身を包み、刹那、体は焔を掻き消すように飛び出した。
「【鬼神化】!」
火から現れた鬼の神。
額には二本の鬼の角が生え、刃は煌々と白く燃え滾る。
苺色の髪は炎のように真っ赤に染まり、毛先がちょっぴり焦げて黒ずんでいた。
「よーっし! ドラゴン食べるぞ~!」
竜を食らう鬼となりて。
ベリーは強大な敵相手に臆することなく、舌をペロリと出して立ち向かっていった。




