〖ゼラニウム〗
後日談のおまけです()
――チリンチリンと、喫茶店の扉に付けられた鈴が鳴る。
落ち着いた雰囲気の店に、落ち着かない元気な声が響いた。
「あっ、大斗くんいらっしゃーい!」
エプロンを着けた苺がカウンターの向こうから笑顔でそう言った。
「よう。理乃もいるぜ」
「ん……」
「ふっふっふ、今日は二人に自慢の美味しいものをご提供してあげるよ! 退院祝いと結婚祝いにね!」
「た、退院はともかく結婚祝いって言われるとなんか恥ずいな……というかこの前ちゃんと祝ってくれたろ?」
「いやぁ祝い足りなくて〜」
「大斗……大人しく祝われよう」
「んだな」
七瀬大斗と七瀬理乃の結婚式から数日。
まだまだ祝い足りない苺は、自身が経営する《苺の樹》という喫茶店に招待していた。
……と言っても、半分以上は店主に任せっきりだが。
「あっ、もう来てたんだね。二人ともいらっしゃい」
「おっす正樹! ふーむ、様になってるな」
「そんなにじっくり見られると恥ずかしいな……」
「もっと堂々としておけよー? じゃないとそこのちっこい嫁さん守れないからな」
身長が大斗よりも高くなった正樹だが、まだまだ細い体に大斗はそう言った。
「ひ、大斗くん今ちっこいって言った!?」
「器はでっけぇから大丈夫だ」
「なら良かっ――いや良くない! 良くないよ!」
「苺……身長伸びない……」
「理乃ちゃんはモデルさんみたいで羨ましいよぉ……少しでも成長パワーを……」
苺は泣きながら理乃に抱きつき、お腹の辺りに顔を埋めて息を大きく吸い込む。
「成長期は……もう……」
「うぐっ、それ以上は言わないで……!」
理乃に頭をよしよしと撫でられながら、苺はそう言った。
* * * *
「それで、今はどんな感じなの?」
正樹作のショートケーキを食べながら、苺は大斗にそう聞いた。
現在、大斗と理乃は《エクス・システム》……槙奈の修理を行っている。
それと、ローゼが仮想世界から持ち出した《鈴のお守り》に保管されている《END・INFANT》のデータの復旧作業も並行して行っているのだ。
「槙奈の方はもうわけわかんねぇ。一応会話出来るくらいには直せたけどよ、体の方は複雑すぎる」
「ん……機械の体……材料は普通なのに、作りがこの世界のものじゃない……」
発見された空っぽの機械体はボロボロで、心臓部……槙奈本体のコアがくり抜かれたような状態だった。
過去、五島を止めようとした明芽と日凪の戦いの激しさがよくわかった。
「今はローゼが分析中。全く槙奈を作った奴は天才だよ。確か槙奈の体に彫られてた名前は《エクスバルス》とか言ったっけな。どこの国の人間かも全然わからん」
「そっか、まだ難しそうだね」
「あぁ、でもエンドインファント……じゃなくて、今は視蕾って名前が付けられたんだけどな? 槙奈が起きたから復旧作業は順調だ。体はまだ用意してやれないけど、もうしばらくしたら話せるようになるぜ」
「ほんと!? よかったぁ!」
「……ただ、知っての通りあの二人の能力はいろいろとヤバい。セキュリティは厳重にしてるけど、狙ってくる奴は居る。近々大きめの組織が潜入してくるかもって槙奈が言ってた」
「そっか……じゃあ――」
「祝われに来たついでで悪いけど、苺と正樹の二人にも手伝って欲しいってよ」
「僕は全然大丈夫。四舞さんたちは?」
「別件。関東平野に残ってる半壊した《バベルの塔》の調査中だ」
「そっちも大変そうだね」
「まぁな、でもあの人たちなら大丈夫だろ。それで苺、ユニークスキルの方は――」
その瞬間、大斗の言葉は窓が割られて遮られる。
割られた原因は銃弾だ。
店の前で、何十人も銃を武装した男が立っている。
先程大斗が言っていた、槙奈を狙ってきた者たちだろう。
「全員関係者だな? 大人しく《エクス・システム》の在り処を教えてもら――」
「……《キャルヴレイグ》」
しかし今度は男の言葉が理乃によって遮られた。
その手に出現した《キャルヴレイグ》の刃を、男の首に向ける。
「ひっ!?」
「理乃、ステイ。俺が話す」
「ん……」
理乃を制し、大斗は腰を抜かして倒れた男の前に立つ。
――現実世界と仮想世界が別々になったと言っても、各地には爪痕が残る。
《バベルの塔》も健在だ。
それと同じで、一部の人間はユニークスキルを保持したまま現実に帰還していた。
「さぁて、俺たちに真っ向勝負を挑む度胸と喧嘩は買うが……割った窓は弁償してもらうぞ」
「くっ、異物共がッ!」
男は大斗を睨みつけると、不意に腰から拳銃を取り出し銃口を向ける。
止める間もなく、発砲された――が。
大斗は咄嗟に右手を前に出し、銃弾を受ける。
「な、なんで……傷がついていない!?」
「いや、これ義手だしなぁ。あと俺たちは異物じゃねぇ」
大斗がそう言うと、エプロンを脱ぎ捨てた苺が前に立つ。
「イレギュラーだよ!」
「だ、大体一緒だろ!!」
「理乃ちゃんお願い!」
「〖極創術〗……マイセット・ベリーをロード――」
――世界が歪になったとしても、この最強すぎるパーティーメンバーたちはいつまでも変わらないだろう。
そしていつの日か、また楽しくゲームが出来る世界を目指して……。
そう、次に生まれて初めてゲームをプレイする人のために、自分たち以上に楽しくプレイしてもらうために、苺たちは戦い続ける。
ゲームを始めますか?
>Yes No




