〖微かに響く命の音〗
2035年……世界融合の日から1年ほどの時が経った。未だ各地には融合の爪痕が残り、《バベルの塔》の残骸周辺は進入禁止エリアとなり、対神組織 《アンフェル》によって管理されていた。
そして世界を救った英雄について、姿はわからずとも人類はローゼが解放したワールドチャットでその英雄の声を聞いていた。言葉がわからずとも必死になって戦っていることは伝わり、各国のプレイヤー達も生きる希望を得たのだ。
そんな英雄を報道陣が血眼になって探すのを組織が抑えて、苺は普段の生活に戻っていた……。
「暖かくなってきたね…鈴、林檎ちゃん、士狼さん……って、もう4月だし当たり前だよね。
――そうそう、正樹君また背が伸びたんだよ? もう大斗君に追いつきそうで……大斗君のほうはやっと義手と義足が出来たらしくて、今は慣れるために猛特訓中なんだ。理乃ちゃんはそれに付き添ってるよ。それでね、白ちゃんとは最近遊びに行ったりしてね……! その時にミナちゃんとサナちゃん、ミツルくんとハヅキちゃんに偶然ばったり会ったんだ! みんな元気そうで本当に良かったよ」
融合世界に参加出来なかった者、そしてその世界で死んでしまった者の亡骸は世界が戻っても存在せず、組織が慰霊碑を建立したことでそこに多くの人々が祈りに来ている。苺も今日この日、花を手向けに慰霊碑に来ていた。周りの人も苺と同じように膝を折り、手を合わせて悲しげな表情で祈っている。その祈りは届くと、みんな信じている。
「三嶋さんたちは……今いろいろ忙しいみたいで、最近はローゼとも全然会えてないんだ……」
日が昇り、お昼の時間になって周りの人達がお昼ご飯を食べるためか帰っていく。いつの間にか苺1人だけになっていた。
「……それじゃあ、みんな待ってるからそろそろ行くね。またね……」
苺はそう言うと立ち上がり、風に揺れる少し伸ばした髪を耳にかける。髪が風に揺れてチラリと見える布は、角が生えていた額にある傷を隠すように赤い布を巻いていた。後ろで蝶蝶結びをしているのでパッと見はただのリボンだ。
バッグの紐を肩にかけ、苺は慰霊碑を後にする。
「あっ――――」
……突然声を漏らし、苺は立ち止まる。苺が歩く先の、花弁が舞う中に居るその懐かしい姿に……涙を零して首の形見にそっと指を触れた。溢れる涙を拭おうともせず、じっとその姿を見つめる。
――チリン。と、長らく音を響かせていなかった鈴の音色が暖かく、柔らかい風に乗ってそこに響くのだった。




