真編・最終話【たとえ音が響かなくても】
これで……!
「やぁぁぁぁッ!」
【スキルブレイク】で破壊されないように、苺は一度スキルを放つとすぐに切り替え、次々と発動し、スキルチェインしていく。だが、それでも偽神は隙を狙って破壊してくる。
「くっ、【全解放】……【第一形態・焔炎刃】ッ!」
『オリジナルか、だがその程度の攻撃ッ!』
【全解放】で周囲のMP保有物からMPを吸収して回復すると、炎と化した刀身を振る。さらに【第二形態・朱焔ノ手】で打撃を繰り出すが……やはりダメージは低い。
『確かにゲームシステムは厄介だが……そのおかげでモンスターとの融合を果たせた。それにレベルという明確で絶対的な差があれば反抗する者も減るだろう。お前さえ居なくなれば、結果的に良い方向へ進む』
そう言うと《クロノスフォリア・ユーベル》は苺の左腕を掴みあげ、思いっきり振りかぶって投げ飛ばす。
「【飛焔ノ翼】ッ!」
苺は空中で体勢を立て直すと、壁を蹴って炎の翼を広げる。爆速し、左手で【遠雷】を撃ちながら【高霎】をチャージする。
「ハッッッ!!」
『鈍いッ!』
《クロノスフォリア・ユーベル》は難なく太刀を受け止め、【スキルブレイク】を発動する。
「それくらい予測済みッ! 【火雷】__!」
苺は《鬼神ノ太刀・真閻》を手放し、《クロノスフォリア・ユーベル》の裂けた口に手を当てて雷を落とす。
『ゴッッ!? グゥッ……!』
体内を焼き、火傷状態にすると苺は再び太刀を握って《クロノスフォリア・ユーベル》の手を斬る。
「【村雨連閃】!」
一撃が二撃になる無数の斬撃で、《クロノスフォリア・ユーベル》の真っ白な身体に刀傷を付けていく。血は流れていないことからダメージはそれほど通っていないが、苺はその傷に狙いを定める。
「【渢龍颯天・鋼刻一閃】」
鋼すら斬り刻む風の一閃を放ち、無数の刀傷をさらに斬って肉を裂く。だが、しかし……。
『弱い弱い◆弱▲▼●●◆ッ!』
刹那……《クロノスフォリア・ユーベル》の傷からウィルスが噴き出し、部屋に満ちる。
「うっ……ゴハッ!?」
濃度の濃いユーベルウィルスを吸い込み、苺は血を吐き出す。ぐらぐらと身体が揺れるような感覚に吐き気がし、目が痛む。視界が乱れて目の前の偽神を直視出来ない。太刀を握るのがやっとの状態で、一歩でも動けば倒れてしまいそうだった。
『あの人を◆▲▼●あの人を◆■■▲あの人をッ!!! 我は、オレはァァァAァa∀ァァ!!!!』
偽神は叫び、額の角を掴むとブチブチと皮膚を裂きながら引っこ抜く。そして、もぎ取った角を捕食すると真っ白な身体がぐにゃりと変化する。
「……ぅぁ」
思考も難しくなってきた苺は、歪む偽神を見つめる。グチャグチャの塊から巨大な手が現れ、苺の頭をガッシリと掴み持ち上げる。
『◆■■◆◆◆◆◆』
苺の身体は、偽神が形を成していくに連れてどんどん上へ持ち上がっていく。先程よりも長身で、右腕が《アダマスハルパー》として固定され、真っ白な身体には鎧のように見える固体のユーベルウィルスが纏っていた。
「クロノレア……ロベリアル……」
苺がなんとか発せた言葉は偽神の第二形態の名、《クロノレア・ロベリアル》だった。
『▲▲▲▲ガッ__我●▲何を……何がしたかっ●▼●たの■だ』
(暴走…してる…?)
よく見れば、心臓部の《サイハテ》…槙奈の光が強くなっていた。感情が爆発し、それすら力と変えて失っていく。相手の暴走……好機である場合もあるが、今はまずい。苺はユーベルウィルスを吸い込みすぎて身動きが取れない。このまま頭蓋を握り潰されでもしたら終わりだ。
『神……殺■▲●●●ッ!』
「……ッ」
口を大きく開け、苺を口元に持ってくる。捕食する気らしい。苺は思わず目をギュッと瞑ってしまう。
(私は……何も……出来なかっ___)
諦めかけた、その刹那。突如響く轟音が苺を叩き起こした。
「……これは、理乃ちゃんの!?」
恐る恐る目を開けると、目の前の《クロノレア・ロベリアル》の頭に理乃の剣、《キャルヴレイグ》が突き刺さっていた。偽神の握力が弱まり、苺は床に落ちる。横に目をやれば、見事に壁が壊されていた。
『ベリー! 良かった…間に合いました!』
『ん、苺。それがあればウィルスを浄化出来るから……』
「こ、ここまで投げたの理乃ちゃん?」
『みんなで……三嶋さんが投げて……八神さんと白が【テレポート】で距離を短縮して、正樹が【幻手】で壁を壊した……』
『んでもって、こっちのほうも間に合ったぞ!』
苺は《キャルヴレイグ》を引き抜くと、その浄化の光で体内に蓄積したユーベルウィルスを消していく。そう……間に合ったのだ。大斗は解読されたパスワードを入力し、ローゼに託す。
『パスワード入力、完了! ……《エクス・システム》とのリンク、開始しますッ!』
『◆▼▼!?』
「っ、邪魔はさせない! 【閻魔】ッ!」
心臓部の光に触れようとした《クロノレア・ロベリアル》に【閻魔】を放つ。《エクス・システム》とのリンク……それはつまり、《サイハテ》の強奪だ。
苺は《HS・リードナイフ》を抜き、《クロノレアス・ロベリアル》の手に思いっきり強く突き刺す。直後ナイフは発熱し、その手を焼いていった。
「……ありがとう」
苺の耳に誰かの声が聴こえると、ローゼが叫ぶ。
『《エクス・システム》リンク完了! プレイヤー・ベリーに全権限を移行! これで……!』
『__権限移行を承認しました。』
『エク●◆ス●▼▼▼▲ァァァ!!!』
《クロノレア・ロベリアル》が咆哮し、苺の炎を無視して心臓部に手を触れる。__が、直後光が消えて苺に光が降り注ぐ。暖かく、心地よい光はやがて苺の中へ消えていく。
『八坂苺、偽神の防御力をゼロに引き下げました。どうかその手で終わらせてください』
「あなたは……うん、わかったよ!」
聞こえる声はローゼではなく、よく聞いていたシステムボイス……槙奈・フォートリアの声だった。《サイハテ》を失い、“偽神”を維持出来なくなった《クロノレア・ロベリアル》は身体が溶けていくが、それでも右腕の剣を振り下ろす。
「一始・無鬼……二強・青騎……三解・谷獄……四勝・雨狼……五真・熾天……六成・幻視……七友・晶龍……八克・解鬼……九閻・燈閻……十終・神殺……鬼神ノ太刀、全詠唱完了ッ!!」
《クロノレア・ロベリアル》の攻撃を避けながら詠唱し、苺は太刀に想いを込める。
「咲け、響け! この太刀に、私の全力を……!
【開闢スル勝華爛漫】___ッ!!!」
想いが集い、炎と変わり、赫灼する。世界を終わらせるべく、鬼神・八坂苺の刃が振り下ろされる。斬撃の軌跡には花が咲き誇り、身に付けている《鈴の形見》に灯した火がバチバチと火花を激しく散らす。そして熱き炎が広がって、《神殺者》の能力により、崩壊しかけていた偽神にトドメを刺した。
『◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆___ッ!!!??』
眩しい光が天へ昇り、弾けて世界を照らす。同時に《バベルの塔》が衝撃に耐えられず、壁や床にヒビが入っていく。
『何故だ、何故だ何故だ▼何故だァァァ! おのれ八坂……! これだけは、使いたくなかったというのにッ!!!』
偽神の身体から抜け落ちた五島は、メニュー画面を表示させると何かを操作する。
「八坂苺のゲームデータを削除、HPをゼロにッ! 《サイハテ》諸共消えてしまえッ!!」
確認ボタンを押し、五島は苺の全データを削除する。苺が《エクス・システム》によって全権限を持ったとしても、その全てを削除させることは可能だった。五島は可能としていた。
「お前の力だ、《エクス・システム》! 無差別に不可能を可能とするお前のなァ!! クハハハハハハ!!!」
五島は笑う。……が、しかし__
「それはこっちも同じことです!」
データは消され、《鬼神ノ太刀・真閻》も消えて苺の角も無くなった。装備も無くなり、ボロ布のような服たった1枚だ。それでも、八坂苺は諦めない。
「まさか……もうその力を扱えるというのか!?」
五島は《アダマスハルパー》を具現化し、身構える。
苺は逆手を打ち、抜刀するような構えを取ると、虚無を掴む。
「〖鬼神ノ生太刀 -八坂- 〗……ッ!」
虚無から引き抜き顕現させた浮遊する八つの太刀。苺はそれを二刀手に取り、二刀流となる。
「〖鬼神化〗ァァァァァァァアアッッ!!!!!」
苺は鬼神と化し、いつもの紅く赫灼する二角ではなく、生物らしい黒い鬼の角が生える。髪は紅く、黒い瞳で五島を睨む。ボロ布が消滅し、紅い装束に身を包む。
「グゥッ___!!?」
恐るべき速さで五島の左腕を斬る。
八刀顕現により、一刀一刀の攻撃力は現状HPの2.25倍。さらに攻撃力を1秒間の連撃の18倍。八刀を操り、連続してクリティカルヒットさせるとHPとMPを最大値の20%回復する。限界を無視して回復していくので、その最大値はどんどん上昇していく。
「まだオレは、グォオオオッ!!」
五島は《アダマスハルパー》で薙ぎ払い、苺は腹部を深く斬られる。だが。
「ハッ!!」
受けたダメージの6倍をカウンターで返す。それがクリティカルヒットすることで、さらにクリティカル率が上昇していく。
「たとえ音が響かなくても、私はこの世界を終わらせるんだァァァァァ!!」
数秒の間に1万以上HPを回復させることで、次回の攻撃で相手の防御力を無視する。七刀を飛ばして五島の身体を貫き、抜き取ることなくそのまま引っ張って壁に拘束すると、床に突き刺していた《キャルヴレイグ》を抜いて投擲する。灯望剣が五島の心臓に突き刺さると同時に苺は七刀を消す。一刀権限によりその攻撃は現状HPの18倍だ。
「_______ッ!!!」
素早く《キャルヴレイグ》を五島から引き抜いて、太刀を振りかざす。鬼神の如く力強く刃を落とし、斬る。ボロボロだった《バベルの塔》も五島と一緒に斬り壊し、その衝撃で五島は塔の壁を抜け、空中に放り出される。《バベルの塔》は第1階層まで全てバラバラに崩壊していた。
「この、威力……! 《サイハテ》をその身に宿したからなのか……!? だが、まだ……もう一度HPをゼロにッ!」
『__させませんよ、偽神』
「お前は…《サイハテ》ッ!」
自身の脳内に響く声に五島は叫ぶ。
『私は《サイハテ》でも《エクス・システム》でもない。私は槙奈という名を貰ったのだから……だから、あの2人の仇を討たせてもらいます』
「何を……ッ!」
苺のHP変更画面を変え、槙奈は五島を【テレポート】させる。五島は第五階層の空から第三階層の空へ転移すると、槙奈によって変えられた画面を操作してしまい、火山の温度を急激に上昇させた。
『どうぞ、ご自身で用意した神の領域で焼かれてください!』
槙奈の言葉を最後に、五島は《焼結島》の火山に落ちる。その瞬間、噴火で天を貫くように炎が打ち上がり、五島の存在は焼き払われて崩壊していき、やがて消滅した__。
……そして、偽神消滅とほぼ同時に世界が揺れ、現実と仮想は乖離していく。光が空から降り注ぎ、全てを照らして包み込む。ローゼは再び橋となり、槙奈によって世界は元の状態へ修復されていくのだった。
▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
__何か、不思議な夢を見ていた気がする。
光から解放され、八坂苺は目を覚ました。
「……ここは」
自分の部屋だった。どうやら融合直前に居た場所に戻ってきたようだ。
「パジャマのままだ……着替えなきゃ」
苺は着替え、外に出る。…いつも見ていた景色だ。本当にあの世界は終わり、元に戻ったと再確認出来た。
「あ、みんな……みんなは!?」
ボーっとしていた頭が急に冴え、苺は飛び出す。…と、すぐに道に立っている見覚えのある後ろ姿を見つける。しかしその姿は……。
「え、ローゼ……!?」
「ベリー! あの、この姿は……私にもわからなくて……」
「これ……もしかして」
やはりそうだ。周りをよく見てみれば所々に《クインテットタウン》の痕跡が歪な形で残っており、建物に別の建物がおかしな角度でめり込んでいたり、木が壁を貫いていたりしていた。さらに《バベルの塔》の一部が離れたところに見える。
「すみません…世界融合の影響を全て消し去ることは出来なかったようです。……それに、ゲームアバターとしての身体を持たないはずの私が、まさか肉体を持ってこの世界に居ることが出来るとは……私にも何が何だかわからないんです」
ローゼの言葉を聞いて、苺はふと自分の手を見る。火傷した両腕にはまだ太刀を握っていた感覚が残っている。あの世界は決して夢ではない。
「槙奈ちゃんは?」
「……《エクス・システム》は破損、修復は難しい状態ですが…一応データは私が居た端末内に保存してあります。それと……これを」
そう言ってローゼは《鈴の形見》を苺に手渡す。
「すみません、こちら側に持ってくることが出来たのはこれだけで……」
「ううん、謝ることはないよ…ありがとうローゼ!」
苺はそれを握りしめ、瞳に涙を浮かべて言う。
その中に眠る《END・INFANT》との約束を果たすためにも、必ず槙奈を直してみせる。苺は心の中で強くそう思った。
「爪痕は残ったけど。それでも私達は成し遂げたんだから……世界は終わったんだから……またここから、前を向いて歩いていこう。ローゼも、ね?」
「私も、ここで生きていいのでしょうか……」
「ローゼも仲間、親友だからね!」
「ベリー……いえ、ありがとうございます、苺!」
__現実と仮想の融合から解き放たれた世界は、新たなる世界へ変わる。そして、その変わりゆく世界に生きる人々はきっと力強い一歩で道を歩んで行くだろう。
一輪の花が風に揺れ、3枚の花弁が空へ舞っていく。苺は手を伸ばし、そのひとつを掴むのだった。
……ッッッッ!!!( ◜ ࿀ ◝ )
と、言う訳で!!! 遂に、遂に完結ですッ!
2年間、本当にありがとうございました!!!




