真編・第104話【神を殺す権利】
濡れて、満月の光を歪めて反射する刀身には激流が纏っていた。水圧カッターのように、《泰然たる天玄の峰角龍》の右翼に傷を負わせる。
「ハァッ!!!」
『____ッ!』
その一歩一歩が【高霎】の超スピードで、未知の金属物を形成させても苺に当たることなく地面に転がる。
苺は水流に乗って空中を移動し、峰角龍の左眼を潰す。が、それをわかっていたらしく、苺が攻撃した瞬間に左足に金属物が出現した。
「重っ……クッ、まだ落ちないよ! 絶対、私はァァァ!!」
苺は叫び、峰角龍の後頭部から尻尾にかけて斬り刻みながら走る。しかし、噴き出した血を粒子が吸収し、龍の鱗から生えるように金属物が出現していく。
「うぐっっ!?」
横腹を軽く突かれ、苺は水面へ落ちてしまう。暗い水が苺の血で紅く染まって濁らせる。
【激流凌刀・水月聖域】は発動中、刀身に正真正銘の激流を纏わせる。水圧で斬撃威力を増し、攻撃する毎に俊敏力を上昇させる。さらに月光に当たっている敵の物理防御力と、水耐性を激減させ、水面に触れている間はMPの自然回復速度が低下する。だから苺は最初に翼を斬って飛べなくしたのだが……それでも時間が経てばMPは回復する。苺の体力も持たないため、今は短期決戦が望ましい。
「っ、来る……!」
『◆◇__ッッ!!!』
圧縮されていない、全方位に広がる炎ブレスが水面に激突する。水が蒸発することはないが、炎も消えることはない。
「防ぐことも避けることも無意味ならッ!」
そう言うと、苺は【水流加速】を発動して炎へ突っ込む。
「太刀の激流を沸騰させてぇぇ……ッ!!!」
熱湯となった激流で、《泰然たる天玄の峰角龍》の巨体を斬りつけていく。その結果付与されるのは火傷の状態異常だ。
『____!!!』
これで、火傷による持続ダメージと、自身のHPを消費して作る未知の金属物で、どんどんHPが減っていくことになる。
「【無雲ノ小雨】」
小さな雨粒が水面に落ちて波紋を作る。雲はなく、星々が輝く夜空のままだ。その雨の一粒一粒が《泰然たる天玄の峰角龍》のHPを削る。
微量なダメージも、数や量が増えれば膨大となる。そして雨で水かさが増せば、MPの自然回復速度もさらに低下する。
『__ゴオオオオオオオオオオオオッッ!!!!』
まるで雷鳴……いや、間近で雷が落ちた音すら掻き消えるような咆哮音を響かせ、《泰然たる天玄の峰角龍》は空に未知の金属物を形成し始める。苺はその咆哮音を遮断しようと、思わず両耳を塞ぐ。それでも尚、咆哮音が響く。
峰角龍の咆哮で激しく揺らいだ水面が落ち着いてくると、巨大な隕石のようなものが満月を隠して映り込む。
『《泰然たる天玄の峰角龍》のHP、残り3割……最後の一撃といったところでしょうか』
「なら私もこれで決める。
【風林火山】、【正宗ノ技】!」
苺はそう言って二刀を納め、抜刀の構えを取る。
『______』
「【鏡華水月】__ッ!」
巨大で歪な形をした未知の金属物が水面に着くのは一瞬だった。そしてまた、苺が抜刀するのも一瞬だ。《泰然たる天玄の峰角龍》が狙って落とした場所に居たのは幻の苺で、その苺を潰した刹那、未知の金属物は真っ二つに斬られる。
「私は絶対に世界を終わらせる」
苺は水面に映る月を踏んで水を弾いて飛び上がり、無視出来ないよう《泰然たる天玄の峰角龍》の耳元でそう言った。
その後苺が着地すると、真横に柱が……角が水面に映る天玄を貫く。
『グォ……オオォ……』
3撃目で喉を深く斬られ、《泰然たる天玄の峰角龍》はHPがゼロになって、光の粒となり消滅した。
「やっ…た……?」
『ベリーのレベル……999、最大値に到達しました!!』
《泰然たる天玄の峰角龍》を討伐し、苺は限界を超えた先の限界地点、レベル999に到達する。そしてバグっていた職業表記が元に……
「『《神殺者》……?』」
新しい職業へ変化していた。サブの《終結者》と同じく、前の職業である《武者》の能力を引き継いでいるようだ。
『《エクス・システム》が用意したもの、でしょうか……?』
「神を殺す…権利……」
説明テキストに書かれていたのは、苺が呟いた一言のみ。
「……行こう、終わらせる時が来たよ」
『はい、再同期します!』
進めば進むほど感じる重さ。神へ近付くほど、“人”であることを忘れてしまいそうになる。それでも苺は登り続け、《バベルの塔》という最果ての地で、最果てなる存在と対峙する。
__その小柄な英雄は終わりを告げ、齎し、幕を閉じ、その瞬間を視る。運命殺しは一条鈴によって既に済まされ、神を殺す権利を獲得した今、八坂苺は必ず為せるでしょう。私はそう信じています。
そして、槙奈・フォートリアという《サイハテ》を…どうかその手に…………。
八坂苺 Lv999
メイン職業:《神殺者》
サブ職業:《終結者》
主な装備:《鬼神ノ太刀・真閻》《燈嶽ノ太刀・真閻》《霧村・雨狼》《ハックスラッシュ・リードナイフ》《鈴の形見》
ステータス値:測定不能




