第22話【八神と三嶋の日常】
新キャラである八神結と三嶋竹志の話です。
修正しました。
八神結――彼女は昔からゲームが好きだった。
個性的なキャラクター、広大なフィールド、凶悪なモンスター、その全てが好きだった。
だから《NGO》で有名なこの会社……海外にある本社では無いが、ここで働くことは苦ではなかった。
「………だるい、休みたい、たこ焼き食べたい」
会社がある街の隣街、そこのあるマンションの三階が八神の自宅だった。
苦ではない……ないはずなのだが、昨日徹夜をしたせいか体がだるく、起き上がれなかった。
「…………ハッ!? そういえば今日は《ネコネコ》の発売日ッ! こうしちゃいられない! すぐ出掛けなくては!」
八神はガバッと勢いよく布団から飛び出す。
猫好きによる猫好きの為の猫ゲーム……通称は《ネコネコ》。
価格は8960円と最近のゲームならそれくらいはするだろうというような値段だが、ただ猫を眺めたりするだけのゲームだったりする。
しかし猫のクオリティはズバ抜けて高く、この値段でも好評のゲームである。
「おっしゃあああ! 待っててねネコちゃん! いってきまぁーす!」
素早く出掛ける支度をした八神は玄関でそう言いながら扉を開け……。
「待ってたぞぉ〜? 八神ぃ〜?」
玄関先で猫じゃなく三嶋が待っていた。
「アンタは待たなくていい!」
「やはり来て良かった、ネコネコの発売日だからまさかとは思ったが……ほら、早く行くぞ、会社に遅れる」
「い、イヤァァー!!! 私今日は休む! お願いします休ませて!」
「じゃあ理由を言ってみろ、風邪か? 頭が痛いのか? 電車が事故ったのか! それとも世界のピンチとでも言うか!?」
と、今まで八神の休む理由を聞かされていた三嶋は、その一つ一つを言っていく。
「え、えぇっとぉ……悪い男の人に捕まっちゃった♪ なんて――あぁぁぁぁぁ冗談です!! ごめんなさいごめんなさい!!」
八神の言葉に三嶋がにっこりと笑い、八神は必死に謝った。
逆光のせいで普段より圧が強めで、暗黒微笑とはまさにこのことだ。
「でもでも! 早期購入特典とかあるし! 忙しかったから予約出来てないんだもんっ!」
「はあぁぁ……! ったく……安心しろ、そう思って俺が予約しといたから帰りに寄ってくぞ」
「マジか! さすが竹ちゃん!」
「三嶋“さん”な、幼馴染だからまだいいけど一応会社じゃ先輩だし、歳上なんだからな?」
そう、八神結と三嶋竹志は実家がお隣さんで、幼馴染なのだ。
「歳上って言っても一歳しか違わないでしょ?」
「そうだが……歳上のことには変わりない!」
「……ふぅーん、じゃあ三嶋先輩って呼ぶね」
「それはやめろ……高校生の時、急に堅苦しくなったから喧嘩したと勘違いされただろ」
「あぁ、あはは〜そうだったねぇ〜……あれはいろいろめんどくさかった」
「お前のせいだがな……ってヤバイ電車が! 早く行くぞ!」
「えぇ!? ちょっと待ってくれぃ! 一緒にサボろうよー!」
「アホか! 今日は第二階層追加のアップデートの最終確認があるんだぞ!」
「あ、水筒忘れた」
「途中で買ってやるから! はよこい!」
急がなくていけない三嶋は、水筒を取りに戻ろうとする八神の手を引いて全力で駅へ走った。
* * *
――中学生の頃、八神は事故に遭った。
車とぶつかり、脚を骨折したし、頭を強く打ち記憶が少し飛んだ。
記憶が曖昧になり怖かったし、病院で寝たきりはとても辛かった。
それでも八神は毎日見舞いに来てくれる三嶋がいるから頑張れたのだ。
毎日持ってくるゲームも度々ジャンルが変わって飽きなかった。
「八神、俺とお前は幼馴染だ」
「それくらい覚えてるよ!」
「あ、そっか……じゃあ、あれは?」
「あれ?」
「その……お前が事故に遭う前に俺が……」
「竹ちゃんが?」
「……いや、覚えてないならいい。それより今はリハビリ頑張らなくちゃな!」
結局、三嶋は22歳になった今でもその事を話さない。
だが、いつか話してくれる日が来ると八神は信じている。
「……がみ……八神ッ! ボーッとしてないでこっち手伝え!」
「うへぇ!? 無理だよぉ! こっちも手が追い付かないよ!」
追い付いてないと言う八神だが、昔のことを思い出していたせいで全く仕事が進んでない。
「みんな! メンテナンス終了時刻まであと一時間だ! 頑張れ!」
三嶋の一言で、一気に作業ペースは加速する。
この場の全員が思うことはただ一つ……早くこの忙しさから開放されたい、ということだ。
「帰ったらネコネコやろう……あ、ミスった」
「おい八神! あぁもう、俺がまとめて修正するから!」
三嶋はこのチームのリーダーなだけあって、三人分の作業をこなしていた。
「そ、そっち手伝おうか?」
「俺がお前を手伝ってんだ! 手伝いたいなら自分の仕事を終わらせてから言え!」
「は、はひ……頑張りましゅ……」
……その後、メンテナンスが終了した直後に全員がぐったりと椅子の背にもたれかかるのは言うまでもない。
「あああぁぁ疲れたぁぁあ! 指がぁ! 指がぁぁあ!」
「やめろうるさい……ああ〜飲み物くれ八神〜」
「は〜いお茶」
「うぃ〜、ありっす」
三嶋は八神が投げたお茶を受け取るとキャップを開けて飲む。
「ぷはぁ〜! うまい、あれこのお茶……」
「ん〜? あ、それ私んだわ、ごめんごめん間違えた」
「……まぁ、いいかぁ。よ〜しお前ら〜! 飲み行くぞ〜!」
その言葉にチームの皆、三嶋と八神以外の数人が「お〜、やったー」と疲れて気力の無い返事をし、ヨロヨロと立ち上がる。
「お前ら……無理しなくていいんだぞ? 帰って寝てもいいんだぞ?」
「いや、三嶋さん……俺は自分にご褒美が欲しいっす」
「俺も……というか終電過ぎてます……」
「ま、マジか……よーし、じゃあ始発まで飲むか! 俺の奢りだー!」
と、その三嶋の言葉にチームメンバーたちはピシッと姿勢を正し、45度の礼をした。
「「「「ありがとうございます!」」」」
「おう、行くぞ八神」
「え、私は帰ってネコネコを……」
「まあまあ、俺の奢りだから」
「いや男女比よ! 女一人とかさすがに……!」
「大丈夫だ問題ない。コイツらはもう酒を飲むことしか考えてない……それに、さすがに他も呼ぶ」
「いや問題あるよ、もうちょっと何か考えろよ……」
こう言って拒んだ八神だが、最終的に一番酒を飲み、酔いつぶれて寝たところを三嶋が家まで運んだ。
「はぁ、こいつの隣の部屋買って良かった……」
そう言って八神をベッドに寝かせ、水を汲んで飲む。
「ん〜? なぜ家に竹ちゃんが?」
「起きたか、ほれ水だ」
目を覚ました八神に水を飲ます。
「……ねえ竹ちゃん」
「三嶋さんと呼べ、なんだ?」
「入院してた時のあれ……」
「……あー、それは少し待て、またやり直すから」
「や、やり直す?」
「まぁな〜……」
「……竹ちゃん」
ふいに八神はそう呟くと口を紡いで、三嶋にゆっくり近付く。
今にもキスしそうなほどに、二人の距離がじわじわと縮まり――。
「吐きそう」
八神は顔を青くしてそう言った。
それはもう、今にもリバースしそうな表情だ。
「今の流れで!? おまっ! やめっ、やめろ!! 今はリバースカードをオープンする時じゃない!」
「むりぃ……オープンしちゃうぅ……」
「うぉぉ!!? 華麗に回避っ……あっ、ちょっ、放せッ! やめろぉぉぉ! 俺に近寄るなァァァァ!!!」
この日、三嶋は誓った。
もうこいつに酒を奢らないと。
そして翌朝――。
「頭痛い……」
「だろうな」
ちなみに遊戯王は詳しく無いです。




