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生まれて初めてゲームをしたらパーティーメンバーが最強すぎる件について!  作者: ゆーしゃエホーマキ
真章後編:君ありて幸福

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真編・第101話【天の痕跡】

 寝ている間、明芽と日凪に会うことはなく苺は意識を覚醒させる。身体が重く感じるが膝に手をつきながら立ち上がり、装備状態を確認すると上へ向かう。


「ローゼ、みんなは?」


『戦闘中です。バウムの体力の消耗が激しいですが……』


 階段を上りながら苺はローゼに聞く。心配ではあるが、それでも信じて、最上階を目指す。



* * *



 ……苺が眠りから覚めて数十分後。正樹は太刀を握り締め、常に周囲を警戒しながら《アブソリュート・ユーベル》の攻撃を受け流す。見ることの出来ない幻の手を使い、ちまちまとダメージを与え続けてやっとHPの半分を切ることが出来たが、長期戦はこちらが不利であることはわかっている。


『■■●▼▼▼◆▲▼!!』


「【旋風】ッ!」


 正樹自身はただ攻撃を回避することだけを考える。しかしそれは、決定打になる攻撃を撃てないということでもある。《アブソリュート・ユーベル》の攻撃は全てユーベルウィルスが含まれている。その攻撃を受けて、体内へ侵入を許してしまえば死は免れない。だから距離を置いて【幻手】で攻撃しているのだが……


(このままじゃ、いつか僕が倒れる……アイツもそれをわかって攻撃してくるんだッ)


 着々とHPを減らされている《アブソリュート・ユーベル》は胴体の口をニヤニヤと気持ち悪く変化させながら縦横無尽に攻撃している。


「っ、ハァッ!!」


『○□◇◆◆w』


 正樹は隙を見て刃を突き出す。が、それを予測されていたらしく、《アブソリュート・ユーベル》は軽やかに避け、砂利を掴んで投げつける。《アブソリュート・ユーベル》の攻撃を見続け、回避しなければならなかった正樹にはその目眩しが有効で、砂利が顔に当たって砂が目に入ってしまう。


「くっ!? この……ッ!」


『■■■■■■■■■■■■■■』


 それでも正樹は太刀を振り上げ、先程までそこに居たであろう場所に向けて振り下ろす。……しかし斬るのは空気で、カツンと乾いた地面に刃先が当たる。刹那、左脇腹を蹴り飛ばされて正樹は体勢を崩す。


「ガッ…は…!?」


 __血の味がする。


「苺…さ……」


『●●●●●ッ!!!』


 《アブソリュート・ユーベル》は起き上がろうとする正樹の頭を強く踏みつけ、硬い地面に顔を擦り付けさせる。

 息がしずらい。目も砂が取れず、開けることが出来ない。


(……冷たい)


 自分の頭を踏みつける《アブソリュート・ユーベル》の脚が冷たく感じる。正樹の体温が下がっていき、眠気に襲われる。


「あ……ぁ……」


『◆◆◆◆▼▲』


 何度も何度も何度も踏みつけられ、地面が正樹の血で紅く染まる。気が遠くなっていき、声も出せなくなってくる。


 __でも、どうしてコイツは、ウィルスで僕にトドメを刺さない。


 その瞬間、少し飛んでいた正樹の意識が戻る。そう、この“絶対悪”は自分自身の力を信じ、躊躇いなくその力を弱者に振るう。だが今はどうだ。人間のような身体で人間のように動き、ウィルスのことなんて忘れたように怒り狂っている。


(ユーベルウィルスはコイツにとって象徴のようなもの、自分以外の全てを否定し殺す絶対悪の……)


『T■■▼sk__◆◆▼◇□テ●◆■ッ!!!』


「___ッ!」


 腕を剣のような形に変え、刺突をしてきた《アブソリュート・ユーベル》の攻撃を正樹は転がって避ける。


「まさか、五島は……」


『▲k■R○▲◇□■siT■▼▼▼?』


 ノイズに紛れる“声”。耳を澄まして、その音を言葉と思って聞かなければわからないような小さな声を正樹は聞く。…わかった。わかってしまった。出来ることなら、わかりたくなかった。


「一体()()()()()()()取り込んだんだ……!」


 目の前の敵は“絶対悪”であって絶対悪ではない。恐らくは壊滅したどこかの街の人々の魂。もしくは、現実と仮想が融合した際に、この世界に入ることが出来なかった行方不明者達。……いや、行方不明者達はこの世界に入ることが出来なかったのではない。身体が入ることを拒み、中身…魂だけが入ったのだ。


「身体を失った魂を五島は回収した……理乃さんのお父さんとお母さんの魂をモンスターへ定着させることが出来たのも回収した魂で実験したからかッ!」


 正樹は《バベルの塔》を見上げて、そう叫んだ。五島が今、何をしているのかはわからない。聞いているのかすらこちらからはわからない。

 せめて、この世界で死んだ者の魂が回収されていないことを強く願う。


「あなたは何がしたいんですか、五島さん……っ」


 うるさく笑う《アブソリュート・ユーベル》の声も、理解するとよくわかる。魂達の声が何重にもなって混ざり合い、ぐちゃぐちゃにされている。だから複数の魂が同じ言葉を話した時、ようやく正樹が声として聞き取ることが出来たのだ。


『O●▼▲nE▼■■■ガI■▲!!!』


「う……くっ、僕じゃ…助けられない、殺すことだって出来ない……ごめんッ、ごめんなさいっ!」


 《アブソリュート・ユーベル》の攻撃を避け、正樹はそれに背を向けて逃げ出す。そこに居る人がどこの誰なのかもわからないのに、その人を殺すことなんて正樹には出来ない。


 __でも苺さんは…自分が死んでしまうかもしれないのに敵の本拠地へ1人で行った。


「……六山さんに九宮さん…一条さんが居なくなって……つらいはずなのに戦って……なのに僕は逃げるのか」


 元よりこの世界に逃げ道などない。人類に残された選択は服従か、無謀にも足掻くかのどちらかしかない。そして正樹は足掻く方を選んだのだ。


「そんな……そんなカッコ悪いこと、したくない」


 確かに一度は“絶対悪”から逃げた。だがその結果、大斗は右腕に続いて右足を失い、九宮林檎と一条鈴という大切な仲間も失った。


「逃げることは許さない。僕が、僕自身にそう命令する」


 正樹は振り返り、《アブソリュート・ユーベル》の姿を凝視しながら言う。


「そして殺さない。苺さんなら絶対に助けようとするはずだから! だから必ず助けるんだ……!!」


 正樹は意思を叫ぶ。__そして、それは聞き届けられた。


『プレイヤー・バウ△◇…二ノ葉正樹に対し、第四神属性スキル【天痕】を授与しました。』


 システムボイス…《エクス・システム》の声が正樹の脳内に響く。【ラグナロク】【エレボス】【デイモス】に続き、《NGO5》に四つ存在する神属性スキルのひとつ。天の痕跡を辿るそれは、他の何よりも神らしくない。

 戦争、幽冥、恐怖、天痕。なぜ五島はそれらを特別なユニークスキルとしたのか……正樹はその思考を捨て、今は目の前の《アブソリュート・ユーベル》に囚われた魂を解放することだけを考える。


(なぜ今取得したのかとかはあとだ……! 今はただ、与えられた力で成せることを成すッ!)


 正樹の残量HPと残量MPの半分が一気に減る。同時に最大値が1割削られてしまうが、正樹は《アブソリュート・ユーベル》を見据える。


「魂を天へ還す。【天痕】ッ!!!」


 光が刀身に纏い、正樹は【幻手】で《アブソリュート・ユーベル》の攻撃を誘導すると背後に回って刃を振るう。


『▼■▲▼a■r●■▲▼gA▲●●●と◆◆○□□!!?』


 斬った瞬間、強い光が《アブソリュート・ユーベル》を呑み込んで地から天へ昇る。光は高く高く昇り、魂を還す。

 【天痕】__その効果は一時的に肉体を無視した攻撃を可能とし、強制的に天へ導く。つまりは防御不能の一撃必殺スキルだ。ただのスキル、それでこの“絶対悪”に囚われた魂達が解放されたのかは、《アブソリュート・ユーベル》の断末魔の叫びに紛れて聞こえた「ありがとう」という声から、きっと救うことが出来たのだと正樹は信じる。


「はァ……うっ、HP消費は結構痛い……それに、武器も……」


 一撃必殺の代償は大きく、光を纏った太刀はヒビ割れ崩壊してしまう。愛刀だった《月輝刀》を失ったのは少し残念だが、《アブソリュート・ユーベル》を討ち、魂も解放出来た。

 まだモンスターの侵攻は止まらないし、終わってもいないが、正樹は自分の行いを誇り、ぼやけた視界で塔を見る。


「僕……やったよ、苺さん……」


 《バベルの塔》を見上げた正樹はそう呟くと、手足に力が入らなくなり、血を吐いて地面に倒れた。

真うまはじメモ!


【天痕】

 《NGO5》に四つ存在する神属性スキルのひとつ。

 残量HPとMPの半分を消費し、その最大値を1割削る。その光が対象に触れると肉体を無視して強制的に魂を天へ導く一撃必殺スキル。

 ただし発動後、光が纏っていたものは崩壊する。

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