真編・第98話【バベルの塔】
「みんなで苺ちゃんの通る道を切り開くよー! 【パワーアップ・フィールド】!」
範囲的に味方の攻撃力を上げ、八神はサポートする。
「モンスターは気にせず行ってくれ、八坂さんッ!」
《ログモゥズ》の攻撃を槍で防ぎ、三嶋は叫ぶ。苺はそれに小さく頷いて返すと《バベルの塔》へ向かって駆け出す。
「苺さん、この先まだモンスターが現れるだろうし、途中まで僕も行くよ」
「うん、一緒に行こう……!」
みんなが協力し合って苺を終幕地点へ送り出す。
正樹は追いかけてきたモンスター達を【幻手】で追い払い、苺の後に続く。
「来い、雷公ッ! __【雷公降来・禍神鏖殺陣】!!!」
苺が【鬼神・真雷公纏】を発動すると、空が分厚く、黒い雲に覆われる。雷鳴が轟き、閃光すると地上のあらゆるモンスターに次々と獄雷が落とされる。
「また《ログモゥズ》がっ!」
「正樹君……それよりも奥に居るのって」
「……あれは、まさか!?」
向かって来る《ログモゥズ》……しかし、苺はその奥で待ち構える存在に目を奪われていた。正樹もその存在を確認する……見間違えるはずはない。
「人型だし、小さいけど……《アブソリュート・ユーベル》ッ!?」
漆黒の身体を持ち、その至る所にある眼球がギョロりと苺と正樹を睨む。《ログモゥズ》が大量出現しているのは《アブソリュート・ユーベル》が居たからなのだろう。
『……反応合致、間違いありません。形やステータスこそ変動していますが、あれは“絶対悪”…《アブソリュート・ユーベル》です!』
『◆◆◆◆●▼▼▼●▲?!』
ローゼがそう言うと、《アブソリュート・ユーベル》はノイズまみれの咆哮をして腹が斜めに大きく裂ける。そこから流れ出た真っ黒な血から《ログモゥズ》が生まれ、裂けた腹は不気味な大口となる。そして、“また会えたね”と言っているかのようにその大口の口角を上げた。
『レベルは110、量産型だと思われますが、《ログモゥズ》の生成が可能……ならユーベルウィルスも問題なく操作出来るはずです』
「くっ……正樹君、ここは2人で一気に……!」
「……いや、僕だけで大丈夫」
「え、でもっ!」
「ここで足止めされるわけにはいかない、僕に任せて先へ進んで!」
正樹はそう言うと【幻手】で《アブソリュート・ユーベル》を掴み、投げ飛ばした。それ以上何も言わず、正樹は《アブソリュート・ユーベル》へ斬りかかっていく。
「っ、ごめん正樹君! 必ず生きてッ!」
「もちろん!」
そうして、苺は正樹と《アブソリュート・ユーベル》を横目に走る。振り返らず、追ってくる《ログモゥズ》を振り切るために【解放者】を発動して血解すると、【アクセラレート】の効果でスピードを上げ、一瞬で距離を離していく。
苺は冷たい風が頬に刺さるのを我慢して終わりへ向かって走り続ける。偽神の塔は目前だ。
* * *
__《バベルの塔・第100階層》。近付いてくる希望の英雄、鬼神を見下ろし偽神は笑みを浮かべる。
「こちらも準備を進めておこう……楽しみだ、希望を壊すのは……!」
偽神はフロアを移動し、中心部に向かう。《エクス・システム》が静かに稼働し続け、心臓の鼓動音のようなものが響いている。
『出来ることをしなければ……全てを持って立ち向かわなくては、偽神を討つことは出来ない……』
《エクス・システム》は偽神の耳に聞こえないよう呟くと、1つの不可能を解錠した。……何を見ているのかわからない、偽神の虚ろな瞳を悲しげに見つめながら。
「第1階層~第99階層までのボスモンスターをエクストラモードで配置、ユーベルウィルスを投与。《エクス・システム》により能力を付与……レベル設定…完了……」
偽神が端末を操作し、ガラ空きだった《バベルの塔》にモンスターが配置されていく……こうして、苺を迎え撃つ準備が整った。
「__ 《サイハテ》の力、使わせてもらうぞ」
そう言うと、偽神は光り輝く球体…《エクス・システム》に右手を突っ込む。抵抗なくスルリと入った右手に《サイハテ》を掴むと引っ張り出し、神々しく光るそれを自分の心臓に押し当てた。
「これで全てが整った……オレは神として、人類の希望などという異物を排除するッ! クハハハハッ!!!」
グチャグチャと人間としての形が崩れていき、五島文桔は完全に崩壊する。ゆっくりと、時間をかけて新しい肉体に変わった頃には、苺は《バベルの塔》に足を踏み入れていた。
* * *
《バベルの塔・第1階層》……巨大な扉をくぐり、苺は終幕地点に辿り着く。外から見た塔の幅とは全く異なり、そこにはかなり広い空間があった。白い円形の部屋に、虹色に変化する光が部屋全体の端から端へ絶えず駆けていく。
そして、目の前には敵対するモンスターが唸っていた。
「ローゼ、行くよ!」
『はい、同期しますっ!』
レベル600、天使融合モンスター《ユミニオン・ユーベル》。偽神が作り出した天使型モンスターを全て融合させた歪な形の天使。もはや天使とは呼べない外見の怪物はノイズまじりの咆哮で威嚇し、四対八枚の白い翼を大きく広げた。
真うまはじメモ!
ー人型の《アブソリュート・ユーベル》Lv110ー
その力は以前の“絶対悪”より低いが、《ログモゥズ》の大量生成が可能。ユーベルウィルスも問題なく操作出来る。攻撃力が低い代わりに俊敏力が高く、嘲笑いながら相手を翻弄する。




