真編・第95話【鬼神VS創造者】
創り出す。
「触った……」
「……まさかとは思うけど、ローゼもそこに居るの?」
「ん、【創造・スキル】……【テレポート】」
【テレポート】を発動して苺の【第二形態・朱焔ノ手】から逃れると、理乃はローゼが得た情報を見る。
理乃から触れに行くことは難しい。だから捕まった時にこの方法を思い付き、少し演技をして苺の方から触れさせたのだ。
『す、少し焦りましたが、今ので大体の情報は閲覧しました!』
「……レベル、702……HPも私の3倍以上ある……」
相手の手の内を知れたのは良いが、やはり、倒すという選択肢が無理であることが明確になる。桁外れなステータスに、無数の攻撃スキル、そしてユーベルウィルスによる凶悪化、そのどれもが脅威でしかない。
そしてもう1つ。ユーベルウィルスが普通のウィルスと同じように増殖していくなら、五島が手を下さなくてもいつか苺は林檎の時のように身体が内側から弾けて死亡する。その前に理乃は解毒薬を作らなければならないのだが……
(薬を作るには……私がウィルスに感染しないと……)
それに作っている間、苺が何もしないはずがない。全スキルの使用を制限した上で気絶させ、拘束し、その血からウィルスを採取して感染する。そこからユーベルウィルスというものを理解し、創造する。それしか道は残されていない。
「まぁ、知られてもいいんだけどね。これくらいのハンデがなきゃ理乃ちゃん私に勝てないもんねェ!」
「【創造・剣】、《エクスカリバー》……【極創術】複製ッ! さらに光と闇属性を付与、突・射の攻撃力強化! 行って……!」
数十本の《エクスカリバー》を苺に向けて放ち、理乃は《キャルヴレイグ》に光を纏わせて走る。
しかし、急所を外すように放ったのがバレているのか、苺は真っ直ぐ向かってくる。
「氷華纏ッ!」
《燈嶽ノ太刀・真閻》に氷華が纏わり、苺は軽く薙ぎ払う。すると理乃の《エクスカリバー》が全て氷結し、威力を失って地面に落ちる。
「【創造・スキル】……【フルーク】」
「【飛焔ノ翼】!」
両者共に空へ舞うと、刃と刃を交える。炎の翼を維持しているところを見ると、一瞬の浮遊ではなく、【フルーク】と同じように少しの間は自由に飛べるようになっているようだ。
「…………!」
理乃は苺に聞こえないよう小声で《エクスカリバー》を再び創り出すと、雨のように降らせる。
「アハハハ!! 脆いね!」
わかっていたのか、苺は理乃を蹴り飛ばすと頭上から降ってくる《エクスカリバー》に雷を落として砕く。《鬼神ノ太刀・真閻》に雷公を纏わせていたのだ。
「HPが……もうっ」
高い建物に激突した理乃は、血を吐きながら自分の残量HPを確認すると、赤色の危険信号が見えて心臓の鼓動を早くする。
「……【ヒール】」
すぐに回復すると、理乃はそのまま建物の壁を崩して中に逃げ込む。
「鬼ごっこかなァ? 鬼は…もちろん私だねェ! 【鬼神・真雷公纏】__!!」
全身に強力な雷公を纏い、苺は二刀を交差させる。__刹那、金色を青い閃光が街全体を照らす。
「【雷公降来・禍神鏖殺陣】ッ!!!」
苺はそう叫ぶと、《鬼神ノ太刀・真閻》を天に刺す。
『これは! 推定規模、防壁外にも及びますっ!』
「発動には時間がかかるはず! 【極創術】……スキルバインド効果を《キャルヴレイグ》に……ッ!」
理乃は凄まじい力を振るおうとしている苺を止めるため、再び飛翔して剣を振るう。
(感じるっ、この雷が落ちれば……街は崩壊…地下シェルターも持たないかもしれない……)
理乃は【加速】を無意識的に発動し、一気に苺と距離を詰める。
「全部……全部壊す気なのッ! あなたが守ろうとしたものも、全部……!」
「うんっ!」
「苺っ……!」
その瞬間、理乃は苺の太刀を折るつもりで《キャルヴレイグ》を振り上げる。すると、苺がニコリと笑って左手を理乃に向ける。
「一点集中__」
『___ッ! フィール、防御を!!!』
瞬きをする暇もなく、獄雷が防壁の天井を突き破って苺が持つ《鬼神ノ太刀・真閻》に直撃する。そのまま苺の身体を伝って《燈嶽ノ太刀・真閻》を握る左手の人差し指に集まると、レールガンのように集まった雷が放出された。
本来なら超広範囲にランダムに落ちる雷だが、苺はその範囲を無理矢理狭めて全て自分に落ちるようにし、言った通り、全火力を一点集中させたのだ。……しかし理乃も負けていない。それくらいのことは想像していた。
「……【極創術】、変更ッ!」
それを発動した時には、獄雷は理乃の鼻先に触れようとしていた。しかし、獄雷の与ダメージをMP回復に変更して理乃は撃たれる。そう、理乃はダメージを無効化すると同時に【極創術】で減ったMPを回復させたのだ。
「すごいすごい! でも忘れたわけじゃないよね? 鬼神の強みをッ!」
「初撃を回避出来れば……問題ない……【反撃者】」
今の一撃で大体の攻撃速度は把握した。ならば、理乃はもうダメージを喰らうことはない。連続で放たれた獄雷をしっかりと目視し、タイミングを見計らってスキルを発動する。
「__【スキルカウンター】!」
「__ッ!」
理乃は放たれた全ての獄雷を、的確に【スキルカウンター】を発動して弾き返す。20発以上を弾くが、苺はそれを避けてしまう。避けられた雷は消えずに防壁に衝突していく。
「……【鬼神・真嘷虎纏】ッ!!」
「【カウンター】……!」
嘷虎を纏った苺の太刀を受け、理乃はまたも【カウンター】を発動する。
「【極創術】、《キャルヴレイグ》にカウンターダメージ量の上昇と睡眠属性を付与……」
「【一閃】ッ!」
「【カウンター】」
カウンターのダメージ量が上昇し、弾いた【一閃】が苺に命中するとかなりダメージを喰らったようで顔を歪める。
「もう……苺は私に勝てない。どれだけの時間…苺と一緒に居たと思ってるの……!」
「私の動き、全部読まれてるのか……」
見たことのない攻撃は、初撃さえ回避すればどういうものかわかるのですぐに反撃出来る。
「リキャスト短縮効果付与……」
理乃は小声で【極創術】を発動して、スキルのリキャストタイムを早める。【カウンター】のリキャストタイムは非常に短いが、それでも、苺の連続攻撃を全て弾くには遅すぎる。【スキルカウンター】も多用することになるだろう。
理乃の攻撃力は高いが苺のHPを削るには低い。だから攻撃ではなく、反撃。苺自身の攻撃をそのまま返すことで高いHPを削っていく。
(命の危機が迫れば……どんな生物でも焦る。その隙を見て、なんとか……)
「読まれてるのかァ、そっかそっか! じゃあ……もっと速くッ!」
「……うぐっっ!?」
何が起こったのか一瞬理解出来なかった。背中を斬られ、理乃は血を流す。苺の動きが全く見えなかった。【スピードアップ】、【アクセルブースト】、【加速】、【神速】……俊敏力を上昇させるスキルを何重に合わせても、【テレポート】の瞬間移動並には至らないはずなのに……。
『まさか、血解の【アクセラレート】の効果だけで……!?』
「お返しだよォ! “118連、勝華爛漫”ッ!」
理乃がその言葉を聞き終える頃には、既に連撃を半分喰らっていた。《キャルヴローグ》がなんとか持ちこたえさせているが……理乃は死を直感していた。防具耐久値もどんどん減っていく。これを耐えても、すぐに鎧を再創造しなくてはならない。
「死んじゃえェェェェェ!!!」
「……【フルーク】、解除……」
HPが残りわずかの中、飛行能力を失った理乃は地面に向かって落ちる。こうすることで苺の攻撃を回避したのだが、苺もそれを追ってくる。
「仕方ないですね……【ライトショット】ッ!」
「ッ! なァんだ、白ちゃんも居たんだね」
「今のを避けますか……無駄に強くなって帰ってきましたね。まぁ、そうでなきゃ偽神を討つことは出来ないので良かったですが」
建物の影から【ライトショット】を撃った白はその姿を現す。理乃の落下地点には既に【バインド】を設置していた。
「苺、あなたの相手が理乃とローゼだけだと思っていたんですか? 困りましたね……わたしのこと覚えてないんでしょうか」
「安心してっ、覚えてるよー! だからあとでちゃんと殺してあげるから! 壊してあげるから! そこで大人しく待っててくれないかなァ?」
「……そんなこと、全力で拒否するに決まってるじゃないですか。これでもわたしは怒っているんですよ? あなたを信じて、預けた剣……既に原型はなくても、太刀に植え付けられた士狼さんの炎を……あなたは士狼が守ったものを壊すために使おうとしている」
苺を睨みながら、白は言う。正直、白には何の策もない。心配になって出てきてみれば理乃の瀕死直前を目撃して手を出してしまっただけなのだ。加勢したところで、死体が増えるだけかもしれない。
「……私1人じゃ……押さえ込めない」
【Calvraig・ModeⅠ】の効果で、《キャルヴレイグ》から放出される光の粒子がHPを回復させていく中、理乃は呟く。
「白……! 数秒でいい…苺の攻撃から私を守って……!」
「ま、マジですか。自信ないんですけど……やるしかないですね! ファング、出番ですよ!」
『グォォォオオオオオオオッッッ!!!!』
白の杖から出現した無数の触手をうねらせる黒き獣、ファングの咆哮を聞くと、理乃は永遠の灯望剣 《キャルヴレイグ》を納刀して両膝を地面に着く。
「集中……イメージし、再現し、結果を予測する……【創造】ッ!」
そう叫んだ瞬間、祈るポーズで瞳を閉じる理乃を中心に巨大な魔法陣が形成される。……理乃・スフィールの職業《創造者》の熟練度は最大値だ。ならば、“アレ”をすることが出来る。




