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生まれて初めてゲームをしたらパーティーメンバーが最強すぎる件について!  作者: ゆーしゃエホーマキ
真章中編:音の無い世界

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真編・第92話【鬼神化】

鬼神・八坂苺

 熱い。《鬼神閻魔》と対峙すると、太刀の刃と刃を交えると、苺の心も身体も沸騰するように熱くなる。その目に睨まれると足がすくみそうになる。手も震えて、太刀を握るのがやっとだった。


『我は鬼神、我は閻魔……しかしその名は偽りだ。我は鬼神でも閻魔でも無い、ただの意思を持ったモンスターだ。誰が、何のために我を創り出したのか…それを知ることはないだろう』


「閻魔さんは、明芽ちゃんと日凪ちゃんを知っていますか」


『……いいや、知らぬな』


「閻魔さんはきっと、《エクス・システム》…槙奈ちゃんに作られたんだと思います」


 鬼と炎の力を束ね、鬼神の力とし、《鬼神ノ太刀》を創り、最終的にそこに宿る《鬼神閻魔》を倒すことで完全な状態まで成長する……それが槙奈の、偽神に対する最後の抵抗だ。


『では、その者に感謝せねばならない。こうして主と刃を交えることが……悲しくもあるが、それ以上に嬉しい、楽しいのだ。主よ…良くそこまで巧みに使えるようになった。良く我の炎に耐えた。良くここまで頑張った。主のこれまでをずっと傍で見てきたからこそ、我は…貴女(あなた)のために全てを捧げたいと思う』


 たとえ、その存在が偽神だとしても。苺にとって《鬼神閻魔》は唯一信じられる神だ。


「……私自身の全てを持って、全てを終わらせると誓います! あなたの力で、あの子達の力で、受け継いだ力で!! 偽神を討ちますッ!」


 空気が震える。風も音も、何も無い。境内や森は崩壊し、真っ白な空間がそこにある。精神世界と似た場所だ。そんな場所に、炎と花が咲き誇る。


「私は鬼神、私は八坂苺、私の力はみんなの想いッ! 継承した力を私の力とするために、今ここに勝利を齎すッ! 【全解放】……ッ!」


『我は鬼神、我は閻魔、我が力は炎ッ! 主のため、最大の一撃を今ここにッ! 【全解放】ッ!』


 互いのMPを吸収し合い、太刀に力を込めていく。


「【永炎解放】ッ!」


『解放系スキル発動により、サブ職業(クラス)《終結者》の効果発動を確認しました! 武器攻撃力1.8倍、ステータス値上昇! さらにスキル効果が倍加中ですっ!』


 同期状態のローゼがステータスの大変動に驚くも、冷静になってしっかりと苺に伝える。


「これが今の私の全身全霊の全力ですッ!」


 消えることの無い青い炎と、紅く熱い、魂の炎を纏う赫灼する太刀。《終結者》は解放と同時にその力を高め、未来を見据え__咲かせる。


『勝利の花よ、主に舞えッ!』


「【勝華爛漫・断斬華(タチキリバナ)】____ッッ!!!!」


 両者の一撃が衝突した瞬間、真っ白な空間に花が咲き乱れ、炎が立ち昇る。刃と刃が押し合い、どちらも一歩も引くことはない。しかし体格差と力量差に劣る苺では、この鍔迫り合いは長くは持たない。だが、一撃では終わらない。


「連続発動、八連撃ッ!!!」


 苺は力を振り絞って一瞬だけ《鬼神閻魔》を押し返すと、踏み込んで急接近し、【勝華爛漫・断斬華】をさらに8連叩き込む。

 地面に散った花弁が舞う。天へ立ち昇った炎の火花がゆっくりと降り注ぐ。汗が滴り地面に落ちると、音を立てて蒸発していった。


『……もう、我が宿る必要は無い。その太刀に宿るのは、貴女の魂だ』


 炎に焼かれながら《鬼神閻魔》は言う。《鬼神閻魔》の二振りの太刀は折られて地面に突き刺さり、苺の赫灼していた刀身は冷め、蒸気が昇っていた。


『頑張れ、苺』


 そう言って、大きな手で苺の頭をぽんぽんと撫でると、《鬼神閻魔》は光の粒と成って……火花と共に舞っていく。…仮面で見えなくとも、確かにその顔は笑っていた。


「閻魔さん……今まで、ありがとうございましたっ!!」


 空に向かって、光に向かって……苺はその神に聴こえるよう、声を張り上げた。



* * *



 しばらくして、太刀を納めた苺は、花が消えた真っ白で何も無い空間を見つめる。


『ベリー、戻りますか?』


「そうだね……やれることはやったよ。あとはもう、登るだけ__うん…? あれは……」


 その場から立ち去ろうとした苺は、《鬼神閻魔》が倒れたところに何か落ちていることに気がつく。近寄って見ると、それら小さな炎だった。


「……わっ、凄い……!」


 その小さな炎を苺が手に取ると、一瞬で大きく成長して燃え上がる。


『……! それ、ドロップアイテムのようですよ!』


「閻魔さんが残してくれたのかな……?

 __うん、やっぱりそうだ! アイテム名、《鬼神ノ燈魂》!」


 何に使うのかはわからないが、何か意味のあるものであることは間違いない。そう思った苺がその魂をアイテムポーチに仕舞おうとすると、ローゼが思い出したように声を上げる。


『ベリー! 【喰魂者(プレデター)】ですよ! 喰魂(ぐこん)ということは、もしかしたら!』


 《焼結島》で戦った、《プレデターズ》の特殊個体の討伐報酬であるスキル【喰魂者(プレデター)】は、元の【捕食者】の効果がレベルアップしただけでなく、確率でモンスターの魂をドロップアイテムとして排出することが出来る。今まで1つもドロップしていないことから、かなり排出率は低いのだろう。


「……じゃあ、【喰魂者(プレデター)】」


 苺はスキルを発動し、《鬼神ノ燈魂》を口の中へ落とす。ゴクリと喉を鳴らして呑み込むと、その光が強くなって…やがて消えていく。


『…! れ、レベルが+100!? ベリー凄いです! 一気にレベル500に……! ……ベリー?』


 ローゼが凄まじい成長を遂げた苺のステータスを見て言うが……肝心の苺は無反応だった。何かを呟いているようだが、ローゼにも聞き取れなかった。


「うっ___ゴハッ!!?」


『ベリー!?』


 突如、苺は大量の血を吐いた。異常なレベルアップに耐えられなかった……というのは違うだろう。そもそも【解放者(リベレーター)】でレベル上限が解放されているのだから、このレベルアップは許容範囲内のはずだ。ならば、考えられるのは1つ。


『まさか……嵌められた!?』


 ……《バベルの塔》の最上階で、モニター越しに苦しむ苺を見て偽神は笑う。


「あの変なミニゲームもこうして役に立った……強くなったなぁ、八坂苺? そして、《エクス・システム》。残念だったな、オレが気付いてないとでも思っていたのか?」


『…………』


 背後にある、機械に取り込まれた宝石のような球体に向かって五島は言う。


「《プレデターズ》にちょいと手を加えて【捕食者】を【喰魂者(プレデター)】に変え……お前の最高傑作だった《鬼神閻魔》のドロップアイテムを操作し、《鬼神ノ燈魂》なんていう名前が付いただけのウィルスを喰わせる……クハハハハッ!!!」


 一度、《エクス・システム》によって苺の居場所がわからなくなった五島だが、《峰奉村》のクエストが発動したのをキッカケに居場所を特定したのだ。


「九宮林檎のおかげで人が耐えられるユーベルウィルスの限界量もわかった……限界ギリギリまでウィルスを注入された人間がどうなるのか……オレの答えはもう出ている。共に答え合わせをしようか、《エクス・システム》」


『……私は、信じていますから』


「無駄な祈りだな、まぁそこで見ていろ」


 そう言うと五島はボイスチャットを苺に繋いだ。



* * *



「あッ……ぐあぁああああッ!!!」


『べ、ベリー……っ!』


 ウィルスの浄化方法は無い。それに、こんな状態では【封解ノ術】などのスキルも発動出来ない。苺は無意識に【鬼神化】し、炎で自分を焼く。その瞬間、耳に『ボイスチャットが接続されました。』とシステムボイスが鳴る。


『___八坂苺ォ! 目の前のもの全てを! お前が守ってきたものを! 全部その手でぶち壊せッ!!!』


 苺のレベルは500。正樹達が相手になって勝てるわけが無い。その気になれば街ひとつ壊すことだって出来るほどの力を苺は持っているのだ。そんな力を持って、ユーベルウィルスが侵入した状態の苺に、偽神は命令する。


 __あとは階層を登るだけ。登って、殺すだけ。

 ……何を……? そんなの決まっている。自分に立ちはだかるもの全てだ。


 苺の紅い角が黒化し、瞳も真っ黒になる。腕に巻かれた包帯が緩んで炎と共にゆらゆらと揺れる。


『ダメっ、ダメですベリー! あなたが暴走したら、止められる人なんて誰も……!!!』


「うるさいよ」


 ローゼに向かって、ただ一言、苺は言い放った。


『___ベリーっ!!!』


「……ん? ローゼ? なぁ三嶋さん! なんか通信がオンになって__ない? ちょ、おい! どういうことだローゼ!」


『ここは……』


 間違いない。ローゼが今見ている景色は…《クインテットタウン》にある対神組織の隠れ家だ。三嶋や八神……そしてローゼの声に気付いた大斗の姿も見える。そう、ローゼは苺に弾き出されてしまったのだ。

次回__【八坂苺の暴走】











くろまきったー↓

https://twitter.com/kuromaki_yusaku?s=09

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