真編・第90話【禁足地にて鬼は待つ】
禁足地です。
神楽殿の一部が焼け落ちた瞬間、双方は動き出す。
「真・閻解ノ燈閻真太刀・鬼神全真纏__ッ!」
『なっ!? いきなりかいな!』
『妾に任せい、【妖術・封陣】ッ!』
《魘魎》の1人が、苺を中心に光る陣を形成する。さらに一際大きく光ると苺の身体は何かに押さえ付けられたかのようにズシッと重くなり、スキルを強制中断させられる。
「ぐっっうぅっ……!」
『【妖術・焔ノ風】、驚かしてくれたお返しやァ』
そう言うと紫炎が燃え上がり、突風と共に動けずうつ伏せに倒れる苺を襲う。断続的にダメージが重なり、火属性に耐性があってもかなりのダメージを受けてしまった。
『【妖術・紫炎ノ剣】……切り刻みますわ!』
「……っ!」
苺は名の通りの紫炎で作られた剣を振りかざす《魘魎》の動きをしっかりと見て、力を振り絞って降り下ろされた剣を避けて陣から抜け出す。
(近距離と中距離……あとは妨害……それぞれ得意分野が違う?)
苺はそう予想しつつ、【赫灼ノ陽魂】を発動する。ここで手間取っていては鬼神閻魔と対峙した時、手も足も出ないだろう。何とかして幻術を解除して攻撃を当て、この地獄の番犬達を倒さなければならない。
「……はぁッ!」
『わかりやすい攻撃ですわ、そんなものが当たるとでも__』
「___ッ! 【遠雷】、【一発雷】、【雷槌】ッ! 【霧村】……!」
『のじゃあっ!?』
『くぅッ!!?』
紫炎の剣を握る《魘魎》に《鬼神ノ太刀・真閻》を向け、攻撃すると見せかけて一瞬で【真閻解・雷公纏】にチェンジ。左手の人差し指から【遠雷】を放ち、陣を形成していた《魘魎》に命中させると、怯んだところを狙い、続けて【一発雷】も放つ。そして、その隣に立っている風を起こした《魘魎》を、【雷槌】を発動して殴る。
雷のスピードでそれらを行って苺は【真閻解・雷公纏】を解除すると、【霧村】を発動した。
「【霧雨ノ矢】ッ!」
太刀を納刀して《果ての弓》を取り出し、空に向かって矢を放つ。霧雨の如く降り注ぐ矢は、神楽殿の屋根を突き破って紫炎の剣を握る《魘魎》を貫く。
『きゃあああああっ!』
【霧村】の効果で与えた分だけHPとMPを吸収し、苺は相手のHPがかなり低いことを知る。
「そういえばHPゲージも見えない……HPの低さを知られたくなかったのかな……」
『まァ…そうやなァ……』
「た、耐えた!?」
『そこの古臭い言葉使う奴に守ってもらったらしいわァ……まァ、相当…効いちまったかねェ……』
1人の《魘魎》がギリギリ耐えたらしく、ゆっくりと立ち上がる。
『ウチらは別個体やなくて、同個体……ドッペルゲンガーって、知ってるやろ? その場に全く同じ者が並ぶと、自分が本物なのか、偽物なのかわからんくなる。最終的には殺し合いや……せやから……目的がわかってたウチらは出会った瞬間、互いの顔を隠し…口調を変え…目の前に居るのは別人だと思い込むようにした……』
《魘魎》がそう話している間、振り鳴らしていないはずの神楽鈴から音が響く。
『……まァ昔の話はええわァ……何が言いたいかっちゅーとなァ……同個体やから、1人でも残っていればええんやわァ!』
『『【妖術・閻魔】ッ!』』
「なっ、復活して……!?」
不意を突かれ、苺は背後から2つの炎を受ける。躊躇なく、《魘魎》諸共焼き払われ、神楽殿はほぼ半壊する。……そして、神楽鈴が響く。
『__ふゥ……ありがとォな、お二人さん』
『それより、早くトドメを刺しますわよ』
『もっと遊びたかったのぉ…主様の主がこの程度とは思わなかったぞ……』
半壊した神楽殿から落ち、紫炎に焼かれる苺は何をする訳でもなく、ただ倒れ込む。
『……あら? 動きませんわね』
『あの程度で死ぬほど柔くはないはずじゃが……』
《魘魎》達はそう言いながら神楽殿から降りて、トドメを刺すためにうつ伏せに倒れて燃える苺に近寄る。
『……ん? 何か聞こえんか?』
『何かとは何じゃ?』
『んー、なんや弾けるよーな音が……』
『弾け……ってまさか雷__!?』
《魘魎》は自分達の紫炎で苺が隠れてしまい、気づけなかった。【真閻解・雷公纏】を再度発動した苺は、雷鏖降災陣をチャージしていた。
「雷鏖降災陣ッ!」
『だが当たらぬぞ!』
広範囲に、ランダムに落ちる雷に打たれた1人の《魘魎》はフッと消える。幻なのか、それとも避けて見せたのか。苺に知る術はないが……
「私が見ているのが幻なら……見なければいい!」
そう言うと苺は視覚を遮断する。当時に周囲の音も無視して、自分自身を感じ取り……ローゼと同期する。瞳を閉じれば未来は見えない。だが確実に予測演算は働いている。それを感じ取れれば、見えなくても未来が解る。
「【燈灯線】ッ!!」
『【妖術・煙霧】じゃッ!』
『【妖術・紫炎ノ剣】!』
《魘魎》は煙に隠れ、苺の燈灯線を回避する。それと同時に背後から《魘魎》が剣を薙ぎ払う。
「……【真・閻解ノ燈太刀・氷華纏・渢龍纏】ッ!」
苺はその剣を《燈嶽ノ太刀・真閻》で受けると、《鬼神ノ太刀・真閻》に氷華と渢龍を当時に纏わせる。
「【吹雪】ッ!」
振り返る遠心力を利用し、苺は薙ぎ払う。雪と風が荒れ狂い、燃えていた神楽殿が鎮火されて境内にうっすら雪が積もる。間近にいた紫炎の剣を持つ《魘魎》は斬られた腹部が氷結し、吹き飛ばされる。【妖術・煙霧】の煙も消し去った。
苺は休む間もなく激流を纏い、他2人の未来の姿を感じ取る。
「【真・閻解ノ燈太刀・激流纏・三途川】ッ! 」
『うぐっ、やりおるのぉ……!』
『チッ! またウチが最後かァ! 鈴よ、鳴り響け!』
《魘魎》を斬り捨て、苺はすぐに最後の1人の元へ向かう。だが接近し、斬る頃にはまた復活されてしまうだろう。
「五連高霎__ッ!」
『無茶苦茶やなァ…!』
【真・閻解ノ燈太刀・激流纏・高霎】を《魘魎》に2連撃当てると、その先の木の幹を踏み台に、神楽殿に向かって3連目を放つ。
「ヤッ! ハァッ!」
『次は私ですか!?』
4、5連と斬り、また最後の1人を残す。
「【大閻解】……纏え、雷公ッ!」
天に掲げた《鬼神ノ太刀・真閻》は超大太刀と成り、部分的に雷公が纏う。凄まじい重さに地面にヒビが入り、神楽殿が崩れ落ちる。しかし、既に神楽鈴が響いて2人復活している。
『やはり3人同時には倒せんようじゃの』
『でもこれは防げへんよォ?』
『私が引き付けます。2人はその隙を狙って___』
「【飛焔ノ翼】ッッ!!!」
どれほど重量があろうと、苺は炎の翼で飛び上がる。だがこれで終わりではない。この程度の大きさでは、また1人だけ逃げられてしまう。だから__
「【更・大閻解】だーーァァァ!!!」
『は…あぁ……!!?』
『まずいぞ! こやつ本殿ごと妾達を潰すつもりじゃ!』
『あァ全く! 止めるしかないやろっ!』
未来予知で感じ取った通りだ。必ず《魘魎》は背後にある本殿を守る。それが使命だからだ。そして過去最大まで巨大化した太刀を受け止めるには、絶対に全員で受けなければならない。バラバラに散って同時に倒せないのならば、一箇所にまとめればいいのだ。
守りに集中するためか、幻術も解かれて未来をハッキリと見ることが出来るようになる。そして耳にノイズが走り、ローゼの声を聞くことが出来るようになった。
『ベリー! 《魘魎》の周囲に防御結界が展開されました!』
「問題ないよ! __【真・閻解ノ燈閻真太刀・鬼神全真纏・華炎刀墜】ッ!!!」
【大閻解】二重掛けに、雷公の部分纏い。それに加えて華炎刀墜を発動した苺は、炎と雷を纏った超大太刀を墜とす。
『流石…主様の主…ですわっ!』
『ウチら3人の結界を……砕きよるッ!』
『カカッ! 良い戦いであったぞ! 八坂苺よっ!』
……刹那、轟音と共に禁足地に太刀が墜ちた。
「はぁッ……くっ、結構…HP減らされちゃった……」
『ポーションはまだあります。今のうちに回復を!』
ローゼに言われ、苺は太刀を元の大きさに戻すとポーチからポーションを取り出して飲み干し、HPを回復させる。
……そして重い空気の中、準備を整えて超大太刀で大穴が空いてほぼ半壊状態の本殿に正面から入る。
「……来ました」
正座をして微動だにしない、紅い皮膚とそこに浮かぶ金色の模様……そして、赫灼する一本の角を持ち、顔全体を覆う仮面を着けた巨大な鬼……《鬼神閻魔》に向かって苺は言った。
次回、遂に《鬼神閻魔》戦ッ!




