真編・第89話【魘魎ノ神楽殿】
巫女達の舞を、どうぞお楽しみくだs◆◇▼__
『モンスター出現! こ、これで64体目です……!』
「__ヤアッ!」
苺の目的地、鬼神のいる神社があるはずの森に入り込んでから、苺はほとんど進めていなかった。それはモンスターの出現が多すぎるのが原因で、種類が豊富に存在する動物系のモンスターが多く、倒しても倒しても…拒むように現れてくる。恐らく、あの《黒猫の落とし物》というクエストを受けなければ神社には簡単に辿り着けないのだろう。
「ローゼ! 周囲の詳細マップを!」
『了解です! …っ! Lv230の《スカルドラゴン》出現! 気をつけてくださいっ!』
「大丈夫っ! 【閻魔】6連!」
周りの木々諸共《スカルドラゴン》を燃やして灰にすると、他のモンスターを無視して苺は走り出す。
『マップ…マップ……! あ…! そこの大きめの木を左に! その先が空白地帯です!』
「なるほど…了解だよ!」
あのクエストがユニーククエストならば、既にクリアしてしまっているのでもう受けることは出来ない。だが、その場所のデータはクリア後も残るはずだ。たとえマップ上から消されていても、そこに存在する。
「……っ? 鳥居? 前はこんなのなかったのに……」
『モンスターの反応、全消滅……? ベリー自身の反応もマップ上から消えています』
距離的に考えれば、苺は今、例の空白地帯に立っている。本来プレイヤーが入ることは出来ない場所に入ったことで、マップ上の苺の現在地を示す点は映らない。
しかし、空白地帯に入ったは良いものの、その広さはわからない。神社がどこにあるのか、歩き回って探す他ないのだが……そんな時間はない。
『一応、私は周囲を警戒しておきます』
「うん、よろしくね」
そう言うと苺は太刀を握ったまま歩き始める。周囲の木々は変な色をしており、所々に形がぐちゃぐちゃの鳥居も建っている。道無き道を進んでも進んでも同じような光景で、生命の気配が微塵もない。
見上げた空は真っ白で、見下ろす地面は黒かった。その黒い地面に苺は、《END・MACHINE》戦で昏睡した時を思い出す。あの時、明芽と日凪が助けてくれなかったら……今頃どうなっていたか。想像もしたくない。
「この臭い……火かな?」
何かが焼ける臭いに気づいた苺は、その臭いを辿っていく。次第に強い熱を感じ始め、額に汗が浮かぶ。燃える鳥居の左側をいくつもくぐり、焼けて倒れる木を横目に奥へ進む。
「____ッ!」
他よりも大きな鳥居をくぐると、刹那景色が変わり、花の匂いと焼け焦げる匂いが一気に広がる。
『待ちくたびれましたわ、私の主様の主……』
「あなたは……」
景色が変わり、苺に声をかけたのは、広い境内に建つ神に歌舞を奉納するための神楽殿。その中央に立っていた銀髪の女だった。その顔は不思議な模様をした布で隠され、犬のような耳……そして尻尾が見える。
『名を《魘魎》と言いますわ』
礼儀正しくお辞儀をした《魘魎》は15の小さな鈴が付いた、いわゆる神楽鈴を持ち、『チリリンッ』と鳴らす。
『さあ、貴女もどうぞこちらへ。共に舞を踊りましょう? ……とは言っても、貴女の鈴は鳴らないようですけど』
「……私のものはこれで充分です」
声を低くしてそう言うと、苺は神楽殿に足を踏み入れる。
『……ふふっ、もう何も言う必要はないわ。ここに来たのなら…あとはこうして互いの力を交えるだけですもの』
「【真閻解・鬼神纏】ッ!」
角を生やし、苺は炎に包まれる。目の前にいる《魘魎》というモンスターは、鈴を鳴らしつつ舞を踊る。苺からその顔は見えないが、余裕の表情を浮かべている。
『良い炎だのぉ、思う存分燃やすが良い。妾も火起こしは得意じゃ、どうせここも灰となろうっ♪ 【妖術・閻魔】』
口調が変化した《魘魎》は手のひらに紫炎を起こし、フッと息を吹き掛ける。紫炎は徐々に膨れ上がり、苺へ放たれる頃には神楽殿の床や天井を焼いていた。姿は違えど苺と同じ炎……【閻魔】だ。
「この程度なら……っ!」
苺は二刀を交差して一瞬紫炎を防ぐと、自分の炎を燃え上がらせて焼き斬る。斬った紫炎は消えずに方向を変え、神楽殿の柱を燃やした。
『荒っぽいのねぇ? ならこちらも荒々しく、それこそ鬼神のように参りますわ』
元の口調に戻り、神楽鈴を鳴らして炎の火力を高める。
『まァ、ウチは犬っころだけどネェ!』
「【鬼神武双・烈火】ッ!」
またも口調が変化した瞬間、神楽殿を燃やしていた紫炎が《魘魎》の指先に集まる。何かしてくると予想した苺は、その前にスキルを発動して斬り掛かる。
『当たらぬ当たらぬ、そなたの動きなどあくびが出るのでな』
『今の攻撃を避けたのですか?!』
ローゼが驚愕して叫ぶ。苺の目にも、ローゼの目にも、確かに《魘魎》を斬ったように見えていたのだ。
「ローゼ、やるよ!」
『はいっ!』
苺はローゼと同期状態になり、予測演算した世界を見る。
『真・閻解ノ燈太刀__』
「っ! それも使え__!?」
『残念やなァ、こんな簡単な術にかかるとは思わんかったわァ』
何が起こったのか、苺は理解出来なかった。未来予知では確かに目の前の《魘魎》は炎の太刀をどこからか抜き出したはずだ。しかし、先手を打とうと飛び出した瞬間、真後ろから炎がぶつかって来たのだ。
「……? なにが…起こって……」
『__、___?!』
「ローゼ? どうしたの!?」
ノイズが酷く、ローゼの声が全く聴き取れない。
『ごめんなさいねぇ、未来予知は封じさせてもらったわ』
『まァ、ウチらはマボロシが効かん相手にはからっきしやからなァ』
『これもひとつの戦術じゃ。悪いの、娘よ』
間違いない。苺の前には、口調は違うが全く同じ姿の《魘魎》が3人居る。
「幻……? じゃあこれは……」
自分自身がおかしくなっているのだから、ローゼの声が聞こえなくなったのはわかる。だが目の前の相手が本当は何人なのかわからない。最初から幻を見ていた訳ではないはずだ。ローゼとの会話がそれを証明している。
『カッカッ! 何も頭を使うことはないぞ? 今の現状は__妾達は3人居て、そなたは幻術で相方の声が聞こえなくなった……それだけのことじゃ』
『……なにバラしてるんや』
『わ、妾は正々堂々……同じ立場で戦いたいのじゃっ! というか言ったところで解除は出来ぬだろう!』
『せやけどなァ……あの子、今までいろいろやらかしてるから心配やわァ』
『二人共、未来予知を封じたとしても、子供だとしても、目の前に居るのは主様の主ですわ。お喋りはそこまでにして、やりますわよ』
霧がかかり、奥にある本殿から漏れる光がぼんやりとする。幻を見ている以上、信じられるものはない。解除は出来ないと言っていたので試しに【封解ノ術】を使ってみたが、効果はなかった。そもそも目の前で会話しているのも幻聴かもしれない。
(相手の目的が混乱させることなら……何としてでもやり過ごす……!)
幻術にも時間制限があるはずだと信じて、苺は迎え撃つべく太刀に炎を纏わせる。それと同時に《魘魎》達も紫炎を起こした。
うまはじメモ!
《魘魎》Lv420
妖術、幻術を得意とする。犬の耳と尻尾を持つ銀髪の女性。同個体が3人存在する。




