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生まれて初めてゲームをしたらパーティーメンバーが最強すぎる件について!  作者: ゆーしゃエホーマキ
真章中編:音の無い世界

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真編・第88話【終結者】

終幕にはまだ早い。

 __八坂苺は徒花だ。

 それは、たとえ実を結んだとしても、もうそれを後継する者が存在しないということである。この花はここで咲き、ここで散る。それによって(もたら)すのは終わりではなく始まりであると、苺は信じている。

 そう、目の前の相手にも信じられている。


「うぐあっっ!?」


 重い一撃が苺を襲う。終幕の剣 《END・SWORD》の刃だ。今の一撃でHPが二割ほど持っていかれたが、触れたことでローゼがその情報を見ることが出来た。

 常時発動スキル【終幕顕現(シュウマクケンゲン)】__スキルも含めたあらゆる攻撃の過程を完全省略化する。結果反映スキルだ。つまりは、ローゼとの同期による未来予知でも見ることが出来るのは斬られたという未来だけなのだ。

 ローゼは得た情報をすぐさま同期状態の苺に伝え、予測演算で出来うる限りの予知を行う。


「っ、加えてこれ……!」


 そう言うと苺は、予知で見えた《無数ノ冒涜》の風の刃を回避する。


『二刀流とは見た目だけだ。この黒剣は動かさずとも君を斬る。そして近づかなくとも《無数ノ冒涜》は牙を剥く』


 悲しげな表情で、ツァールは苺と一定の距離を保ちながら攻撃をする。左手にある《END・SWORD》は軽く握られているだけで微動だにせず、ツァールは片手が塞がったような状態で《無数ノ冒涜》を振る。


『保っている距離は3メートル程度……それに意味があるはずです!』


「……なら、一気に詰めて!」


 苺は【解放者(リベレーター)】で血解し、【赫灼ノ陽魂】を発動すると、《無数ノ冒涜》の刃を避けながらツァールに接近する。途中、《END・SWORD》に斬られてもお構い無しに突撃した。


『詠唱省略、【エンド・レス・ノワール】……ッ!』


 懐に潜り込まれたツァールはスキルを発動する。【終幕顕現】により省略され、攻撃された結果だけが現れる。


「ガハッ!? がッ……あ__」


  全身に突き刺すような痛みが走り、苺は吐血する。吐血量が多かったのか、血を必要とする血解の効果が失われてしまう。【フルカウンター】の自動カウンターは反応出来ず、【ダメージカット】のギリギリを抜けられた。


『これで君の強みを1つ封じたな。【エンド・レス・ノワール】は10連撃だが、それを同時に喰らったんだ……しばらく動けないだろう。それに、流血の状態異常を促進させる効果もある。傷が癒えるのも時間がかかる』


「くっ…ふ……まずいっっ」


 苺は逃げ場無く放たれた《無数ノ冒涜》の刃を予知し、呟いた。


『死ぬなよ、苺クン』


 ツァールがそう言った瞬間、《無数ノ冒涜》が振られる。


「アアアアアッッ!!!」


 咆哮し、無理矢理に身体をよじって、まず一撃回避する。そのまま地面を転がり、ニ撃目と三撃目も避ける。赫灼した《燈嶽ノ太刀・真閻》を地面に突き刺して爆発させると、苺はその爆風で吹き飛んでさらに攻撃を回避する。


「ーーーーーッ!」


 回避はしたが、転がっている最中に右腕は《END・SWORD》に斬られて、もうほとんど動かない。だから吹き飛んだ時に《鬼神ノ太刀・真閻》を口に咥え、落下スピードに乗せてツァールの首を狙う。

 その間、殺らねばという気持ちと、もっと話していたいという気持ちがせめぎ合う。やっと打ち解けてきたというのに、第一階層に着いた途端に敵になってしまった。ツァールは本気だ。殺らなければ殺られる。……だが、殺ってしまえば…苺は__


(私はどうなっちゃうんだろう……)


 必死の一撃を防御され、苺はそう思いながら後退する。

 なぜ《エクス・システム》はツァールを最後に選んだのだろう。苺は考えるが、答えは出ない。


『その身体で避けるか……』


 肩の力を抜いてツァールは苺にゆっくりと近づいていく。


『ベリー、辛いのはわかります。ですがここで躊躇していては…偽神を討てないと《エクス・システム》も、今、目の前で対峙しているあの人もわかっている……』


「うん、私だってわかってる……これはやらなきゃいけないんだって、わかってる……だから怖い。殺さなきゃいけないって思ってる自分が怖いよっ!」


 そんな苺を見て、ツァールは口を開く。


『人の領域とは__』


 そう言うと、《無数ノ冒涜》で地面の砂に円を描く。


『砂地に描いた円と同じだ。やろうと思えば円を消すことも出来るし、飛び越えることも出来る。子供だろうと、老人だろうとね』


 ツァールはその円を踏み付ける。


『例えばここに水を流しても、円は何も防いではくれない。だが、水は円を出ることはない。理性という見えない壁が出ることを許さない』


 《無数ノ冒涜》を振り、ツァールは苺を中心に円を描く。


『君の状態はまさにそれだ。大量の水が広がることなくそこに留まっている。まぁ僕は最初から人の領域なんて持っていないから、これは本当に例えなんだけどね』


 なんとなくだが、苺はわかってきた。水…力が人にとっての異物だとしたら、円が人の領域ならば、見えない壁により水が円柱のようになった状態は、普通の人間と言えるのか。


「私は今、ちゃんとヒトですか?」


『違うだろうな。そんな力を持って、普通の人間とは言えない。現実と仮想の境が無くなってしまった世界で生きているなら尚更だ』


 ツァールは即答する。


「じゃあ…私は……」


『……君は紛れもない、八坂苺という名の少女だ。だから八坂苺という名を持つ者としての領域を越えなくてはならない。君の領域はどの程度の広さと深さを持つのか、自分と向き合って考えるんだ』


「私は__!」


 刹那、炎が苺とツァールを中に閉じ込めて、渦を巻いて燃え盛る。


『……この炎の円が君の領域か? 僕も入れて…随分大きいんだな』


「正直に言うと……私は頭が悪いから、難しいことはこれっぽっちもわかりません。だから! 領域だとか、そんなの関係ない! 人の領域がどれくらいの広さとか知らないですし、それはきっと個人で変わってくるはずです。なら私は、私が思うように、自由に円を描きます!」


 そう言うと苺は炎の円から出る。


「私が描いた円の中で、みんなが笑っていてくれるなら。私は安心して前へ進めるんです」


『……人の領域を出て、五島文桔と同じ場に立たなければ勝つことは出来ない』


「こうして出れたじゃないですか。みんなのためなら私は自分の領域を置いていきます。みんなに預けて、もっともっと先へ行きます」


 炎の円の中に居るツァールに向かって、苺は言った。それはつまり、ツァールのためにも人でなくなると言っているようなものだ。


『君は……誰かのために、人でなくなることを選ぶのか?』


「誰かを殺してまで五島さんを止めたいなんて思いません。私が受け継いだのは“鬼神”の力……なら、今の五島さんと同じようなものです」


 確かに、人を殺す覚悟がないのに五島と対峙しても躊躇して自分が終わるだろう。だが、今の五島は人ではない。偽神だ。そして、苺もまた人ではなくなり、鬼神の力を持った偽神なのだ。


『それが君の答えか…苺クン』


「はい。だからちゃんと生きて……見咲さんのお説教を受けてくださいっ!」


『……そうか。友の死を乗り越え、ここまで這い上がってきてくれて…感謝する』


 ツァールは静かにそう言うと、《無数ノ冒涜》、《END・SWORD》を交差させる。


『《ナイトメア・クラウン》、補助は任せた』


『あー、ハイハイ。もう好きにして。……っとぉっ! その前に! おいそこのちびっ子! お前、あの時の奴の仲間だよな!? 次会ったら正々堂々やってやるって伝えといてくれよ!』


「え、あっ、わ…わかった」


『よぉーっし! これでいい。そんじゃ宿主の全パワーを引き出すかな。王冠使いが荒いよ全く……』


 ブツブツとそう言いながらも、《ナイトメア・クラウン》は《ツァール・エイト》の能力を強制的に引き出す。


『……大丈夫。僕とはもう会えないだろうが、また会えるさ』


「それってどういう……」


 その瞬間……未来予知の景色が真っ白に光り輝く。超広範囲に光の刃が放たれているようだ。


『ベリー!』


「ローゼ、せめて最後に__」


『……わかりました。同期、解除します!』


 苺はローゼとの同期を解除すると、太刀を構える。


『行くぞ英雄ッ! __我が魂は(イチ)、我が剣は()…! 世界終結の英雄に、我の全てを捧げようッ!』


「__私は全てを背負って、終結へ向かう。勝利の花よ、咲き乱れろ……ッ! 真・閻解ノ燈閻真太刀・鬼神全真纏__!」


 星は静かに2人を見下ろし、風は優しく髪を揺らす。そして、そんな世界は暗黒に包まれ、火が灯る。


『〖第八物語 -偽壊- 〗ッ!!』


「【勝華爛漫】ッ!!」


 刹那、小さな光が天に昇り…花火のように散る。世界に光が戻ると、紅く輝く炎の太刀が振り下ろされていた。しかし、同時に閃光した《無数ノ冒涜》がその太刀を防ぐ。紅と白、2つの光が夜を照らし、星を眩ませる。

 鬼神の炎は焼いていく。《無数ノ冒涜》の透明な刀身は黒く焦げ始め、ボロボロに砕けていく。ツァールは自分が斬られるその瞬間まで、その小さな身体で太刀を振るう鬼神の姿を目に焼き付けた__。


「……ツァールさん」


 黒く焦がされ、折られた《無数ノ冒涜》は地面に突き刺さる。《ナイトメア・クラウン》は役目を終えて消滅し、《END・SWORD》も所有者のHPが無くなったため、もう消えかけている。

 苺は仰向けに倒れるツァールに声をかけ、目を開けさせる。


『代表、説教を受けるつもりがないなら最初からそう言ってください』


「……っ!? み、見咲!? なぜ…いや、そうか……君だな、苺クン」


「はい、最後を……みんなに聞いてもらいました」


 ローゼと同期を解除した時、ボイスチャットをオープン状態で繋げたのだ。


『代表…全部任せるつもりなら、そう命令してください』


「……命令するのはもう君の役目だ。でも、確かに……受け継ぎはちゃんとせねばな」


 そう言うとツァールはゆっくりと呼吸し、続ける。


「対神組織 《アンフェル》、戦闘員統率者・百地見咲。今日をもって……全統率者、組織代表に権限を昇格する。後のことは頼んだ、見咲」


『……命令、承りました』


 見咲は涙を堪えるような声でそれだけ言うと、静かにチャットを切った。


「……クエストクリアだ、八坂苺。君ならきっと大丈夫。何があろうと負けやしない」


「はい。必ず世界を元に戻します!」


「……っと、そうだ、クリアしたんだ……最後に話さなくてはな……声もほとんど出ない……こっちへ寄ってくれないか」


「は、はい」


 ツァールに言われ、苺はツァールの口元に耳を傾ける。今まで聞いた真実は、《エクス・システム》のことや、五島の目的だった。だが、なぜ五島がこんなことをしたのかという理由までは聞いていない。


「……恋人の蘇生、詳しくは…やはり本人から聞いた方がいいだろう。そして、《エクス・システム》は《サイハテ》だ……彼女は必ず君が奪え___」


 掠れた声で最期に言うと、ツァールは《無数ノ冒涜》や《END・SWORD》共に、光の粒となって消滅した。


『……! 《終わりの試練》クリアにより、サブ職業(クラス)が鍛冶師の能力を引き継ぎ、《終結者》へ変化しましたっ!』


 その変化により、ステータスやスキルテキストの記述も変わっていく。レベルも300から350へアップし、武器性能も格段に上がった。


「……行こう」


 《サイハテ》という言葉が何なのか…それを知るためにも、第五階層の《バベルの塔》を登り、偽神に会わなくてはならない。だが、その前に……苺は目的の場所へ、本当の開幕地点である、あの神社へ向かうのだった。

うまはじメモ!


ー終幕の剣 《END・SWORD》Lv350ー


 装備者が必須ではあるが、常時発動している付属スキル【終幕顕現】によりスキルを含めたあらゆる攻撃の完全省略化を可能とする。ただし攻撃可能範囲はどんなスキルだとしても3メートル以内。

 装備者のステータスも上昇させるが、剣であるが故に攻撃面には優れているが、防御面は並。ツァールはそれを《ナイトメア・クラウン》を装備することで補った。





ー八坂苺Lv350ー


職業『武者』サブ『終結者』


武器-《鬼神ノ太刀・真閻》《燈嶽ノ太刀・真閻》《HS・リードナイフ》

防具-《霧村・雨狼》《鈴の形見(END・INFANT保存中)》

サポーター『ローゼ』


基本使用スキル-【鬼神化】系統スキル、《燈嶽ノ太刀・真閻》付属スキル、太刀系統スキル

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