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生まれて初めてゲームをしたらパーティーメンバーが最強すぎる件について!  作者: ゆーしゃエホーマキ
真章中編:音の無い世界

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真編・第86話【八坂苺の成長】

苺ちゃん成長期です。

『__はぁ!? 八坂さんを弟子に!? 一緒に下まで降りる!? え、えっと、八坂さんが突然連絡してきたと思ったら代表で……弟子で……ちょ、ちょっと整理させてください』


 街へ帰還し苺とツァールは《クインテットタウン》に居る見咲と連絡を取る。突然のことに見咲は状況を把握しきれていないようだ。


『苺はもう第二階層に着いてたのか、すげぇな……俺達ものんびりしてる暇は無さそうだ』


 そう会話に入ってきたのは大斗だった。通信の奥ではバタバタと騒がしい音がしている。


「大斗君、そっちは大丈夫?」


『あー、まぁ平気だ。ちょこちょこモンスターの襲撃があるみたいだが理乃が作った壁はまだまだ壊れそうにねぇし、ヤバそうな奴は理乃と正樹で追い返してる。俺は俺で暗号解読に専念してる。まぁ、あんまり役に立ってないんだけどな』


 今もなお、ライ・スフィールが残した《エクス・システム》へ接続するための暗号化されたパスワードの解読は終わっていない。大斗が平気と言っているが、理乃の作った防壁の耐久値は既に半分を切っていた。そして理乃と正樹の2人だけでは手が回らず、解読班に居る三嶋竹志と八神結も出撃している状態だ。


『とにかく苺が元気そうで良かった』


 苺の声が多少だが元の明るさに戻っていることに、大斗は心から安心する。


「うん、もう少ししたらそっちに戻れるはずだから。待っててね」


『ああ、理乃と正樹にも伝えとく。頑張れよ、苺』


 久しぶりに友人の声を聴き、常に緊張状態だった苺の心は落ち着いていた。ローゼもそれを感じ取り、ホッとする。


『それで代表。なぜ今の今まで連絡してこなかったんですか……』


「僕は《NGO5》のプレイヤーではなかった。それなのに始まりの地は高レベルのモンスターがウヨウヨ居る第二階層だ。自分の身を守ることで精一杯だったんだよ。それに、君達とフレンド登録もしていない」


 その高レベルモンスターの平均レベルがレベル200で、たった1人で殲滅していたツァールはそう言う。苺に向かって人差し指を口元に当て、申し訳なさそうな表情を浮かべる。まるで「見咲に怒られたくないからこういう事にしておいてくれ」と言っているようだった。


『はぁ……あなたの実力ならレベル差なんて関係ないでしょうに』


「おや、さすが戦闘員統率。相手の力量をしっかり把握している」


『褒めても誤魔化せませんよ』


「ところで__」


『あからさまに話題を変えようとしないでください、代表』


「せ、説教は直接受けるから、今は許してくれないか」


『……わかりました。それでなんですか?』


 この手を何度も受けているのか、呆れた見咲はため息をついて言う。


「苺クンが受けているクエストも終わりが近い。そして苺クンが目指している場所も……だからこそ、今ここでもう一度鍛え上げる」


『八坂さんの技術力では足りないと?』


「そうだ。それを彼女もわかっている。だから僕に師匠になってくれと申し出てきたんだ」


 次の第一階層にはすぐに行くことが出来る。だが、平均レベルも上がってくるだろう。そして苺が目指す場所……“鬼が待つあの場所”に辿り着くまでにモンスターが出ないとも限らない。今度は猫の案内人は居ないのだ。


『なるほど、わかりました。ですがなるべく早く戻ってきてください。私では…みんな着いてきてくれませんから』


「……見咲、君はもっと自信を持っていい。戦闘員は全員、君の指導を受けてそこに立っている。指導者である君がそんなでどうする?」


『……そうですね、自信を持ってみんなを引っ張って行きます』


「それでいい。君はリーダーに相応しいよ」


『……代表?』


「それじゃあ、僕がそこに行くまで死ぬんじゃないぞ」


 ツァールはそう言うと、見咲の言葉を待たずに通信を切った。


「……嘘をつくとは、こんなに心が痛むものなんだな」


「それって……」


「何、僕も死ぬ気はない。だが戻る気もない。組織はもう僕の手を離れるべきなんだ。……それじゃあ早速始めよう。時間は無いんだ、手短に教えよう」


 そう言って指揮棒を振るように、手を横に振る。すると電子音が鳴り、直後周囲が暗くなる。


「広さもある。ちょうどいいだろう」


 上を見上げて言うツァールに釣られて、苺も見上げる。

 そこにあったのは懐かしい巨大な浮遊物……《コロシアム》だった。


「さあ、《END・MACHINE》も討伐したことだ。もうひとつ教えておこう」


 《コロシアム》に転送され、決闘開始までのカウントダウンが開始されるとツァールはひとつの真実を話す。


「五島文桔の目的は生物の創造だ」


『__2、1……スタート。』


 その瞬間、開幕の音が響き、風が吹き荒れる。


『ベリーッ! 両サイドと真上から刃が!』


「__【伏雷】ッ!」


 突然、五島の目的を話されて油断を誘われたが、ローゼが《無数ノ冒涜》の攻撃を苺に伝えることで、瞬時に【真閻解・雷公纏】を発動した苺は【伏雷】で刃を回避する。


「……今の動き、ローゼが知らせたか」


「わ、わかるんですか」


「それくらいはな。ローゼ、苺クンのサポートはするな。君のサポートは万能ではないし、苺クンはそれを過信しすぎている。君は君で僕の攻撃を予測するんだ。それが当たっているのか、それとも間違っているのかは苺クンの反応で見極めるんだ」


「……ローゼ、お願い」


『……わかりました。ベリー、くれぐれも気をつけて』


「うん、頑張る」


 刹那、苺の左頬から血が流れる。


「『……ッ!?』」


 苺も、ローゼさえも、それに反応出来なかった。


「最初の攻撃。あの時点で恐らくローゼの予測は外れている。わかりやすく両サイドと真上に刃は放ったが……今の反応を見るに他にも無数に放ったことは予測していないな?」


 ツァールは両サイドと真上に放った刃で意図的にローゼを誘導したのだ。ローゼはまんまと策にハマり、気を取られてそれ以外に注意を向けるのを怠ってしまった。


「ローゼはありとあらゆるもの、全ての予測を。苺クンは助言無しで僕に一撃を。これが最初で最後の修行だ」


 ツァールがそう言っている最中にも、《無数ノ冒涜》の刃は苺を襲う。


(べ、ベリーに当たる瞬間まで何処から来ているのかわからない……!?)


 ローゼは焦りから予測に集中出来ず、苺も反応に遅れていた。


「【一閃】」


「っ! 【絶対回避】!」


(ベリーを囲むように刃が……!)


 ローゼはそれを【絶対回避】解除のためかと予想する。だが、それはローゼの予想であり、未来予測ではない。刃が苺に当たる直前に【一閃】が一足早く命中し、直後、囲んでいた刃が苺を襲う。


「うあああああっ!!?」


『ベリー!?』


「《無数ノ冒涜》、この太刀は少し特殊だ。スキル攻撃の威力が半減する代わりに、通常攻撃の威力が倍加する。だから僕の場合、スキルは本命攻撃にはならない。だが……!」


 ツァールがそう言った瞬間、【加速】が発動されて苺の懐に潜り込む。


「【螺閃】ッ!」


「うぐっ!?」


 

 螺旋状の光が苺を貫き、《コロシアム》の端まで吹き飛ばす。


「半減するとはいえ、スキルによる攻撃が弱いとは思わないことだ。僕はこの弱点を補うためにステータスを調整した。君の今のレベルがどれ程かはわからないが、恐らくレベル差は大体150。僕の防御力が高くとも、君ならほぼ一撃でHPを消し飛ばすことが出来るだろう」


 ツァールがそう言っている間にも吹き飛ばされ、壁にめり込んで動けない苺に容赦なく刃が刺さる。休む暇を全く与えない攻撃だ。


(ベリーのHPにはまだ余裕がある……ですがこのままでは!)


 ローゼはベリーを心配するあまり、予測も中途半端に70%程しか出来ていない。苺の防具は切り裂かれ、肌が傷と共に露出する。


「……このまま、やられっぱなしでなんて……いられない!」


『……もっと予測正確に! でなきゃベリーを守れないです!』


 2人がそう言うと、苺が瞬きをした瞬間、視界が変わる。


「これは……!?」


 目の前に刃が見え、苺は避ける。


「どうやら、やっと同期したようだ」


 苺が見ているのは、ローゼが予測した光景そのものだ。不可視の刃が予測として可視化されている。そしてローゼが感じているのは苺の思考。苺が次どう動くのか、それがハッキリとわかる。


「『次は、左……ッ!』」


 ローゼが予測した景色を見て、苺は《無数ノ冒涜》の刃を避ける。そして、苺がどの方向に回避するかをわかっているローゼは、さらにその先にある刃の動きも事前に予測することが出来る。


『じ、自分でも驚くほど予測が正確に……? 苺と同期しているから?』


「違う……同期しているのは私とローゼだけじゃない」


 元々、《燈嶽ノ太刀》には《鬼神ノ太刀》と同じ状態になるため、【同鬼】というスキルが存在する。それにより苺とローゼが同期しやすくなっているのだ。そして予測はもはや未来予知の領域となっている。その理由は、苺の《鈴の形見》に保存されている者。《END・INFANT》も共に同期しているからだ。


「苺クン、君が纏うもの全てが君の力で、大切な仲間だ。仲間との同期、まさに心をひとつにした結果がこれだ。ローゼと《END・INFANT》……2人の予測演算が合わさることで見える未来は99%本物だ。もちろん、100%でない以上外れることもあるだろう。だが君ならイレギュラーにも対応出来る」


 ツァールがそう言った直後、未来予知とは違う動きをした刃が向かってきたが、苺は問題なく回避する。


「元々君には回復や防御といったスキルがほとんどない。だが全て避けてしまえばそれも必要ないだろう」


 ローゼが予測し、伝える。そのたった数秒の隙を無くすことで敵の攻撃を回避しやすくする。そして、回避した先の未来も苺には視えている。


「これなら、僕ももう少し本気で戦える」


「これは……風が不規則に!?」


「未来予知、相手の一歩先を行く力……だが、回避不能の攻撃はいくら予知したところで避けることは出来ないッ!」


 ツァールはそう言うと、苺が避けることが出来ないほどの刃を飛ばす。回避した先にも、その先にも刃が存在し、予測演算によって導き出された答えは回避不能。不規則に乱れる風で苺自身の勘や予測も意味がない。


「でも、私なら対応出来るって言いましたよね!」


「……ほう」


 苺は太刀を振る。その瞬間、暴風が吹き荒れ、刃のほとんどが消え去る。


「塞がった道も、絶望しかない未来もッ! 私が斬り拓くッ! 鈴達が残してくれた道を、途絶えさせたりなんて絶対にしないッ!」


 刃を避け、ツァールが反応出来ないほどのスピードで苺は懐に潜り込む。


「ハァァッ!」


 刃先を突き立て、風圧だけでツァールを吹き飛ばす。《コロシアム》の端まで飛ばされ、ツァールは壁に衝突して瓦礫に埋まる。


「ガハッ……! ふふ、ははは! まさかやり返されるとは! それに気づかなかった……いつスキルを発動したんだ?」


 【解放者(リベレーター)】による血解。そして【真閻解・激流纏】に成っていた苺は【水流加速】も発動し、加速していた。同時発動ではない、立て続けに発動しただけなのだ。


「やはり君の成長性は素晴らしいな」


 ツァールは笑いながら《無数ノ冒涜》を納める。


「あ、ありがとうございま__!」


「__だが、あまり油断はしないほうがいい。それさえ克服すれば完璧だ」


 ツァールが武器を納めることで苺は油断し、その瞬間にローゼとの同期が解除される。未来予知が失われた瞬間にツァールは納刀した状態の太刀で苺を打つ。

 気絶した苺に対してツァールは言うと《コロシアム》の機能を停止させ、苺を背負って宿へ戻るのだった。

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