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生まれて初めてゲームをしたらパーティーメンバーが最強すぎる件について!  作者: ゆーしゃエホーマキ
真章中編:音の無い世界

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真編・第83話【終告】

終わりの音が告げられる。


 一つ、風を斬る音が聴こえる。


 二つ、火花が散る音が聴こえる。


 三つ、重い機械音が聴こえる。


「ヤァァァッ!」


 様々な音の中で、ツァールの一撃によって撃ち落とされた《END(エンド)MACHINE( マシン )》に向け、苺はチャージした【真・閻解ノ燈太刀・鬼神纏・閻魔】を解き放つ。超高熱で焼かれたことで《END・MACHINE》の胴体には虹色の焼け色が出来るが、あまりHPは削れていなかった。


「これは……僕の一撃で翼を破壊したと思ったのだが……」


 《無数ノ冒涜》、ツァールが扱う透明の刀身を持つ太刀は圧倒的な破壊力がある。それ故に見た目に反して重量があり、軽々扱うのは苺でも困難だ。

 そして、《無数ノ冒涜》の一撃とチャージした【真・閻解ノ燈太刀・鬼神纏・閻魔】を防いでみせた《END・MACHINE》の防御力は恐ろしく高い。


『pi__』


「__苺クン後ろだッ!」


 電子音と共に《END・MACHINE》の姿が一瞬で消え、ツァールが振り向きながら苺に言う。その瞬間に苺は脳内で【絶対回避】を発動させて振り向きざまに【焔烙(エンロク)】を叩き込む。

 右脚に焼印を押された《END・MACHINE》だが、気にする様子もなくそのまま苺に衝突し、空へ飛び上がる。


「あのスピード、そしてディフェンス……厄介だ。それに限界高度ギリギリまで飛べるのか」


 ツァールは飛翔する《END・MACHINE》と、巻き込まれて一緒に空へ飛んでいってしまった苺を見上げる。

 《無数ノ冒涜》の一撃で届く距離にも限度がある。そして風を斬るので強風が吹くとかき消されてしまう可能性もある。高度が高くなれば風も強くなるので、先程雲に隠れていた《END・MACHINE》を撃ち落としたのはちょうど風が弱まった瞬間をツァールが見極めて放った結果だ。


「……まずいな、風が強すぎる」


 観察し、わかることといえば風の強さと《END・MACHINE》のスピードだ。既に届かないところまで飛んでいってしまったので苺を救出することは不可能だ。


「……苺クン、なんとかして逃げられないか。僕が受け止めるから気にせず落ちて欲しいのだが」


 ツァールはボイスチャットで苺と通話する。


『__ガッチリ拘束されてて、身動きひとつ取れないんです……!』


「その位置では刃が届かない、《END・MACHINE》を誘導してみてく……いや、出来る限り最大の防御をしろ!」


 《END・MACHINE》の動きが静止し、重力に身を任せるように落ちるのを見てツァールは叫ぶ。


「うぐっ……!」


『G_p__pipi__!』


 さらに《END・MACHINE》は地面へ向かってジェット噴射し、猛スピードで降下する。


「真・閻解ノ__!」


『GA……ッ!』


 スキルを発動しようとした苺に対し、拘束する力をさらに強めて背に何かを打ち込む。握り潰されそうなほどの力にスキルを発動する集中力が切れた苺は、こんな状況にも関わらず眠気を感じることに違和感を覚える。


(まさか、さっき背中に何か当たったのは……麻酔……!)


 鷲のような脚に掴まれ、身体がミシミシと悲鳴をあげていたはずなのに今はほとんど感じない。麻酔を打たれて感覚が麻痺し始めているのだ。

 さらに追い打ちをかけるように『ドスッ、ドスッ、ドスッ!』と三発の麻酔針を打たれる。


「う……あっ……」


 みるみるうちに意識が遠のいていく。もう地面も近い、このスピードで地面と衝突すれば骨折程度では済まない。


「八坂苺ッ! ここで終わる気かッ!」


「…………」


 完全に脱力し、意識を失ってしまった苺にツァールは呼びかける。苺は声に反応せず、だらんと手足を垂らしてしまっていた。


「……時間稼ぎくらいはしよう。だがすぐに戻ってこい、いいなッ!!」


 聞こえているのかはわからない。それでもツァールはそう言うと《無数ノ冒涜》を振り下ろす。


「……我が魂は(イチ)。我が剣は()

 我の全ては我が為に。__問。無数ノ冒涜の果てに何を思い、何を成し遂げる。__解。それは境界の崩壊と無数の魂の救済である……!」


 ツァールは詠唱を終え、急降下してくる《END・MACHINE》を見据える。純白の光を放つ《無数ノ冒涜》が周囲の光すら呑み込み、暗黒の世界が生まれる。


「これが我らの選択だ、〖第八物語 -偽壊- 〗」


 暗黒の世界にただ一つの小さな光が天へ撃ち上がり、花火のように光を散らす。その光が落ちる度に世界は明るく照らされ、刹那閃光した《無数ノ冒涜》は【焔烙】により焼印を押された《END・MACHINE》の右脚を断ち斬った。

 それにより苺を《END・MACHINE》から離れさせることに成功する。


「【バウンド】」


 落下する苺の真下に【バウンド】を設置し、落下の衝撃を無効化すると体勢を崩した《END・MACHINE》に数発、《無数ノ冒涜》の刃を斬り込んだ。



* * *



 __音が聴こえる。


(何も聴こえない……)


 __風の吹く音、遠くの街で響く歯車が回る音、何かが斬られる音、小さな足音、何度も何度も金属物を斬る音。それでも……


(何も聴こえない……)


 12月25日、“一条鈴の死”……その日からずっと、何も聴こえない。いつも聴いていたあの声も、プレゼントしたお守りの音も、もう聴こえない。無音だった。


(なんで……聴こえない……)


 苺の身体の奥で、火花が強く散る。身体が熱くなり、燃え始める。何も感じず、何も聴こえず、八坂苺は灰として地に落ちる。


(聴きたい……すぐ側で、特等席で、その音を……ずっと聴いていたい……)


 そう願っても耳に入るのは自分が燃える音だけで、酷く冷たい。あの頃の暖かい日々は永遠に訪れない。


(生まれて初めてゲームをして……みんなと出会って、すごく楽しくて……鈴とももっと仲良くなれた気がして……それなのに、ある日突然終わりを告げられた……終わりが訪れた……そして終わりを見た……)


 叶うならば過去へ戻ってやり直したい。だがそんなことは出来るはずもなく、願うだけで、叶うなんて微塵も思っていない。奇跡は起きない、だから残された希望の蕾を芽吹かせ、美しく咲かせるために戦うしかない。


(わかってるのに、動けない……)


 灰になった身体は言うことを聞かず、ビクともしない。

 自分が生きているのか、死んでいるのか、わからない。


 ただ見えた光に手を伸ばそうとする。身体が動かずとも、この魂だけは生きていると信じてその光に近付いて行った。

無音が花を包み込む__

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