真編・第81話【真実への一歩】
百地見咲、一条雅信、そして、八坂重郎が所属していた組織……《アンフェル》の代表。世界が融合してから姿を現さなかった人間が、生物の気配が全くない第二階層に居たのだ。
「関係者に会えて良かったよ。早速で悪いけど現状を聞かせてくれないかな」
「え、あ……わかりました」
言われるがままに、苺は今まで起こったことをツァールに話す。
「……その、ひとついい…ですか?」
「なんだ?」
「おじいちゃんとは何年くらいのお付き合いですか……?」
「かれこれ40年の付き合いだ。いやしかし驚いた、話には聞いていたが重郎にこんな可愛い孫が居たとはね」
「あ、ありがとうございます? ……いや、えっと、今おいくつか聞いてもいいですか……?」
「そうだな……100から数えてない」
「ひゃ__」
どう見ても子供の体型のツァールはそう言うと歩き始める。
いろいろ聞きたいことはあるが、ここでは落ち着いて話が出来ない。ツァールが殲滅したと思われるモンスター達もリポップし始めていた。
「さぁ、ひとまず街へ行こう。見咲とも連絡を取りたい。《ローゼ・システム》とリンクしている君なら出来るだろう? 普通のボイスチャットだと五島に聞かれるかもしれない」
『リンクしていることを知っている……? 何者なんでしょうか……』
「僕が何者であるか、彼が何者であるか……彼女がなんなのか……その事についても話そうか」
「……わかりました。お願いします」
* * *
12月31日、《機械の街・宿屋》__
鉄の臭いが漂う部屋で、古いテーブルを挟んでこれまた古い木造のイスに向かい合って座る。ツァールが用意してくれたお茶はなんとも言えない香りがして、苺は一瞬顔をしかめる。
「このお茶は驚くほど不味いが許してくれ」
「は、はぁ……」
ツァールはそう言うと自分のお茶を端へ避ける。
「さて、お茶のことなんてどうでもいい。これから大事な話をするんだからね」
「…………」
ツァールが言う“彼”とは五島のことで、“彼女”とは《エクス・システム》のことだと言うことは察しがつく。どちらも、苺がこれから出会うはずの者達だ。
「__だが、八坂苺という人間がこの話を聞くに足る人物か……僕は知らない。申し訳ない、移動中にふと思ってしまった」
つまり、タダで話す気は無いということだろう。
「僕が話すのは、僕が見た……あるいは聞いただけの話。だがその話の価値は世界と釣り合うかもしれないほどだ。そんな話を、重郎からちょっと聞いていた程度の子供に簡単に話して良いものか……とね」
「それで……私に何か?」
「ああ、でも君が今やっていることと変わらない。君が今受けているクエスト、《終わりの試練》……これは他でもない《エクス・システム》直々のクエストだ。なら、このクエストをクリア出来たのなら君は本物。真実を知ってもいいだろう」
「つまり私に同行する……ってことですか?」
「正解だ。これでも僕はゲーム好き……きっと役に立つこともあるから存分にコキ使ってくれて構わない」
ツァールの実力は出会う前から知っている。わざわざそうなるようにしたのだろう。
「……長くなってしまったね、とりあえず君はもう2体も討伐済みなんだろう? なら信用してもらうためにも、1つだけ話しておく」
続けてツァールは自身が設立した対神組織について軽く話した。
「こんな世の中になる前は、狂って足を踏み入れてはいけない所に踏み入ったオカルト集団の鎮圧を主に行っていた。僕達はそういったオカルト……神や妖怪なんかが関係している事件を引き受けていたんだ」
「だから“対神組織”なんですね」
「ああ、でもこれは表向きの話だ」
__その時、部屋が歪んだかのように苺は錯覚する。
「僕は知っていた、彼がある日を境に狂うことを。
僕は見ていた、彼女が目覚める瞬間を。
僕は観察していた、彼の行動全てを。
そして僕は知っている……彼女がサイハテであることを……」
「えっ、と……」
「……少し話しすぎたか。混乱させてしまって申し訳ない。要するに僕は五島文桔という男がこんなことをしでかすとわかっていたから組織を生み出し、彼を僕の管理下に置いたんだ」
「……じゃあ、つまり……わかっていたのに、その為に準備をしてきたのに、世界は融合してしまったと……?」
「そうだ。いくら運命とはいえ、ここまでとはね……」
ツァールはそう言って一息つこうと湯呑みを持ち上げ、お茶を飲む。
「__ブグハッッッ!!!」
「……!? だ、大丈夫ですか!?」
「ゲホッ、ガハッ! うぐっ……な……? 言った通り…だろう?」
さっきまで神妙な面持ちで話していたのに、今ではお茶のせいで真っ青になっている。本当に不味いらしい。
「……これを作った人間は頭がイカれてるとしか思えないよ」
ツァールがそう言った時、第五階層 《クインテットタウン》で暗号解読に専念していた八神がクシャミをしていた。
「な、なんで飲んだんですか……!?」
「歳のせいか物忘れがね……っと、もうこんな時間か。君も疲れているだろう、とりあえず明日また来るよ。この部屋は好きに使ってくれ」
「は、はい……ありがとうございます」
「おやすみ、良い夢を」
手をヒラヒラと振り、ツァールは部屋を出ていった。
「……なんか、大事な部分だけはぶらかされた気がする」
『あえてそうしたのでしょうね……話の切り替えは強引でしたが』
「悪い人ではないと思うけど……不思議な人だね」
日も落ちてきて、苺は疲労から猛烈な眠気がする。階層ダンジョンで戦闘はしていないが、戦闘続きと長い階段を降りてさすがに疲れてしまった。
「ふう……今日は寝よう……おやすみローゼ」
『あ、シャワーは浴びた方がいいですよ!』
「……ん、そうだね……そうする」
目を擦りながら苺はそう言うと、部屋に備え付けられたシャワールームへ向かうのだった。




