真編・第77話【灰の集合体】
灰です。
『あれが《NGO5》の裏ボスとして配置されたボスモンスター……《灰の集合体》、レベルは275です!』
ハッキリと人型なのがわかるようになった《灰の集合体》は沈黙し、浮遊している。しかし火山は怒り震えており、火山噴出物が天に昇っていた。
“灰”と聞いて普通なら今、目の前に存在する火山灰などを思い浮かべるだろう。……だがこの世界になってから新たに追加された要素、この世界をゲームではなく現実と強制認識させるもの。ゲームだった頃には無かった死亡表現……灰。ハヅキもミツルも、もちろん苺も、それを見たことがある。だからこそ思う、”目の前に居るあの灰は誰なのか“と。
「鈴……っ。ハヅキちゃん、ミツルくん、全力でやるよ……!」
「……じゃあまずは先制攻撃! 【大震撃・絶強】!」
《灰の集合体》が仕掛ける前にこちらから攻撃を開始する。ハンマースキル【大震撃・絶強】はレベル90から取得出来る範囲攻撃スキルだ。ハヅキは高くジャンプすると同時にミツルは左方向へ駆け出す。ハヅキはそれを確認すると《ディモス・ハンマー》を豪快に振り下ろし、《灰の集合体》を打つ。直後空気が揺れ、《灰の集合体》は落下して地面に衝突する。
『………………』
「【大円斬・極破】ッ!」
起き上がろうとする《灰の集合体》に向けて、ミツルがスキルで追撃する。大剣スキル【大円斬・極破】もレベル90から取得出来る単発攻撃スキルだ。ミツルは大剣を薙ぎ払い、《灰の集合体》の背を斬り付け吹き飛ばす。
「……【真・閻解ノ燈太刀・嘷虎纏・的皪嘷閃】ッ!」
ミツルが吹き飛ばしたその先は、《灰の集合体》が来るのを待ち構えていた苺だ。既にチャージされているのは嘷虎纏最強の一撃、“的皪嘷閃”。白く輝く獣牙の如く、太刀を敵に喰い込ませて断つ。無属性は属性相性に関係なく攻撃でき、属性が無い分火力が大きい。なので普通の敵相手ならこのスキルはほぼ一撃の超火力なのだが……。
「出来ればこれで終わりにしたかったけど……浅いっ……」
苺はそう呟いて【真閻解・鬼神纏】にチェンジする。それぞれが攻撃してわかったが……どの攻撃も手応えが無かった。《灰の集合体》、元は実態のなかったモノだ。
『物理攻撃に高い耐性を持っているようですね……』
ローゼがそう分析した通り、《灰の集合体》は物理攻撃を無効化はしないものの、苺の超火力すらほとんど防ぐ圧倒的な物理攻撃耐性を持つ。
ならば魔法攻撃が有効なのだろうが……ハヅキもミツルも物理、近接特化だ。ミツルは少しだけスキルを取得しているが、初級や中級系のスキルが多く、あまり火力は期待出来ない。
「でもダメージは入るからゴリ押し! ……は、時間ないからダメだよね……」
ハヅキは案を口にするが、残された時間は1時間。とてもじゃないがその間に倒すことは出来なさそうだ。
「とにかくアレに攻撃の隙を与えたら苺さんはまだしも、おれとハヅキ姉は一撃だよ!」
「そ、そうだね! 攻撃しなきゃ!」
「ハヅキちゃん、ミツルくん、待って。効果の薄い攻撃を続けても意味ないよ」
「で、でもぉ……! わたしは範囲攻撃出来るだけだし、ミツルはあんま強くないし!」
「いやうん、確かに強くないけどさ……まぁそれはいいとして、苺さんの炎は魔法攻撃に分類されるんじゃないですか?」
物理攻撃とは主に斬撃、打撃、射撃のことで、苺が太刀に纏わせた炎や水といった属性などは魔法に分類される。だがそれで相手を斬ったとしても、物理と魔法、両方の攻撃が成立するわけではない。“斬った”ということは斬撃であり、その瞬間は物理攻撃となる。
なので【閻魔】や雷鏖降災陣などの属性そのものを相手にぶつけるものは魔法攻撃として分類される。
「……そうだね、やってみよう。ミツルくん、【エレボス】をお願い」
「はい、【エレボス】ッ!」
そうして展開された無敵空間に苺とハヅキも入る。
「【真・閻解ノ燈閻真太刀・鬼神全真纏】__」
【エレボス】の中で《灰の集合体》を観察しながらチャージを開始した苺はふと思う。これが死んだ者達の集合体なのだとしたら、この世界の死亡表現を灰に変えた五島はやはり最初から世界融合を企んでいたのではないか、と。終わりの者達は《エクス・システム》が生み出したものだが、その他のモンスターは五島の考えが原案のはずだ。もちろんスキルも同じで……
(【鬼神化】も、鬼神閻魔さんも、あの人が……もしかしたら私が階層を降りてることも、レベル上限が解放されてることも……わかってる……?)
そうだとしたら、何故五島は行動しないのか。少なくとも何か意図があることはわかる。
だが【鬼神化】のことを、夢で出会うひーちゃんは“あたし達の力”と言っていた。五島とも面識があるような口振りだったし、雰囲気でわかるが、きっともうあの2人はこの世界には既に存在しない。過去、五島と何があったのか……よく考えればわからないことだらけだ。
(また会えたら……聞けるかな……)
無理をするなと言われたが、無理をしないと倒せないほど敵も強い。苺は数多のスキルの中から1つ選ぶと、チャージを完了させ、《灰の集合体》を睨みながら二刀を地面に突き刺す。
「__【閻魔華蔦】!」
熱源が付近に存在するという特殊な条件下でしか発動出来ないスキル、【真・閻解ノ燈閻真太刀・鬼神全真纏・閻魔華蔦】はその熱源からツタのように火が伸びて対象を拘束し、生命力……つまりHPを吸収して成長して咲いた花が限界を迎えると爆発し、フルチャージされた【閻魔】が噴き出す。このスキルをチャージするとツタの効果時間が2倍になるので1分の間、《灰の集合体》のHPを削っていく。
『ア……ァ……』
『__HP減少による《灰の集合体》の行動変化を確認! 範囲攻撃、来ます!』
ローゼがそう言った瞬間、噴煙……火山灰が蛇のようにうねりながら降りてくる。
「まずい、【絶対回避】……!」
ミツルの【エレボス】も効果時間を過ぎたため、苺、そしてハヅキとミツルも【絶対回避】を発動して《灰の集合体》の攻撃を回避する。……が、しかし。
『周囲に舞い上がった灰が充満していますっ!』
地面に衝突した火山灰の塊は消えることなく留まり続ける。持続系の攻撃により苺達は灰を吸い込んでしまい、猛毒の状態異常が付与されてしまう。
「せ、咳は出ないけどッ……毒がッ!」
ミツルが口元を左手で覆い隠しながら言う。
普通の世界であったら咳が酷くなったりするが、ゲームシステムの影響でそれは無く、猛毒へと変更されている。しかし普通の毒よりも早くHPが減っていくため、すぐに回復させなければならない。
「ポーションを……! うぐっ……」
状態異常を回復するポーションを飲もうとするハヅキだが、毒の影響で吐き気がし、口に含んでも飲み込めない。
「【封解ノ術】!」
苺は自身に悪影響を及ぼすものを排除する【封解ノ術】で猛毒を回復させるが、このスキルは自分にしか発動出来ないのでハヅキ達を助けることは出来ない。
「すぐに決着を……!」
『ダメ……消えろ、ニゲテ……逃げるな、タスケテ……』
反撃に出ようとする苺の目の前に、音もなく《灰の集合体》がヌルりと顔を出す。顔と思わしき部分には、ド真ん中にポッカリと黒い穴が空いていた。反射的にその中を覗いてしまった苺は急に心の底から恐怖心が湧き上がり、青ざめる。心臓の音だけが『ドクンッ、ドクンッ』とうるさく聞こえる。
「苺先輩っ!!」
「__っ!?」
ハヅキの声で放心状態から開放された苺は、自分の肩を掴んでいた《灰の集合体》の腕を斬り払って後ろへ飛び退く。両腕を失った《灰の集合体》だがHPにあまり変動はなく、すぐに腕を元に戻してしまった。
「あ、ありがとうハヅキちゃん。待ってて、すぐ終わらせるから……!」
そう言った苺の心臓の鼓動はまだうるさく鳴っており、冷や汗が止まらない。灰の影響で視界も悪く、灰そのものである《灰の集合体》の姿が目視しずらくなる。それでも苺は目を凝らし、《灰の集合体》の次の攻撃を警戒した。
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