真編・第74話【極地の捕食者たち】
読者の皆様のおかげで遂に200話を突破しました……ありがとうございますッ!(記念閑話どうしよ……)
捕食者です。
夜は明け、太陽が昇り白銀の世界が煌めく。苺は現在、《焼結島》の火山エリア近辺に来ていた。所々に噴石が落ちており、地面が抉れて雪の上に土が被っていた。
「……居ないね」
『そうですね……近くにハヅキさんの反応もありませんし、もう火山に登って行ったのでしょうか……?』
「__あっ、足跡が!」
ミツルが複数の足跡を発見し、その場所に駆け寄る。雪がほとんど降っていなかったので残っていたようだ。
「サイズからして大人、性別はバラバラ……数十人かな」
「ここ……人が倒れた跡が……」
『……ハヅキさんの身長と一致しますね』
「わかった、ありがとうローゼ。急いだ方が良さそうだね、行こうミツルくん」
「はい、すぐに行きましょうッ!」
隠しているようだが、姉を心配するミツルの精神はかなり疲れているだろう。様子を見つつ苺は移動する。
雲はあるが雪はパラパラとしか降っていない。風も穏やかだ。鈴が《ヘルツ》と戦った後から、《焼結島》は安定した状態を維持している。しかし豪雪が無くなったからかマグマの熱を感じる。それは火山に近付くに連れて強くなっていき、気付いた頃には周辺に雪は無く、ゴツゴツとした地面から水蒸気が噴出していた。
『気を付けて進んでください、噴気口からいつガスや水蒸気が噴き出るかわかりません』
「そうだね、どれくらいダメージを受けるかわからないし……モンスターにも警戒しなきゃ」
「……そういえばここに着いてからモンスター、見ませんよね?」
ミツルが言う通り、周囲に小型モンスターの気配は全く感じない。……だが《焼結島》に入った時から、何かに見られているような感覚があった。
「捕食者が居るのかも」
「ほ、捕食者……!?」
「うん、この辺一帯に住む小型モンスターは全部食べられちゃったとか。でも峰奉祭のクエストによる仕様かもしれないけどね」
苺は冗談交じりにそう言ってみたが、やはり見られているように感じる。
「…………」
「苺さん……?」
「静かに。ローゼ……敵性反応は?」
『いえ、モンスターは何処にも……
__ッ!? ベリー、囲まれています!!』
ローゼが声を張り上げて敵の存在を伝える。苺の真後ろに現れたのは黒い岩のような竜だった。一体何処から現れたのか……いや……最初からそこ居たのだろう。
「この色、ここに来るまでにあった噴石と同じだ……もしかして全部このモンスター? 擬態してずっと見てたんだ……」
『す、すみませんっ!』
「きっと擬態中は敵じゃなくて岩として扱うんだね、大丈夫だよローゼ」
「苺さん! 周りの岩が……!」
1体が起き上がると、釣られてもう1体……そうして周囲にあった噴石全てが動き出す。
『グォロロロロロ……!』
『モンスターネーム、《プレデターズ》! 環境に合わせた擬態で捕食対象が来るのを待ち、集団で襲う中型モンスターのようです!』
「レベル180……ミツルくんは【エレボス】を発動して私の後ろに居て!」
「お、おれも戦います!」
「ミツルくんには他にやってもらうことがあるから」
「ほ、他って……」
噴石に擬態していた《プレデターズ》をちらりと見てミツルは呟くように言う。二足歩行の竜達は前脚が発達しており、鋭利で大きな鉤爪を持っていた。そして噴石のような鱗を纏い、身を守っている。見た目からわかる攻撃的なモンスターだ。それも複数体……辺りの噴石が全て《プレデターズ》なのだとしたら数百体は居る。
「数の暴力で押されちゃったら私もどうなるかわからない。だから私が注意を引いているうちに、隙を見て攻撃していってくれるかな」
「なるほど……」
「でも一度攻撃すれば気付かれちゃうから、仕留められなくても一旦下がってね」
「了解です。……結構おれの事、頼りにしてくれてるんですね……嬉しいです!」
苺の作戦に納得したミツルはそう言って自身の大剣を引き抜く。
「頼りにしてなきゃこんな場所で寝たりしないよ、【大閻解】……ッ!」
注意を引くなら持ってこい。突然現れた天を貫きそうなほどの超巨大な太刀に、《プレデターズ》は一気に注目する。
「うわぁ……でっか……」
「行くよ、ミツルくん……!」
「あ、はい! 【エレボス】ッ!」
そうしてミツルが【エレボス】を発動して安全を確保したのを確認すると、苺は超大太刀を振り落とした。
* * *
「今の音……誰か戦っているのでしょうか?」
大きな木箱を担いで火山を登る神官達に続き歩いていた女性神官が、何かの衝撃音に気付いて下を見下ろして言う。
「気にしている暇はありませんよ。氷が溶ける前に火口へ向かわなければなりません」
リーダー格の男性神官が立ち止まってそう言うと、女性神官は無言で上を目指して歩き始める。木箱の下は中の氷……氷漬けにされたハヅキが火山の熱で溶けたことで濡れて、水がぽたぽたと垂れていた。
「神も心待ちにしています。道のりは長いですが皆さん頑張ってください。きっと神の御加護がありますから」
太陽はちょうど真上に来ており、暑さで倒れてしまってもおかしくないほど温度が上がっている。それでも神官や村人達は生贄の入った木箱を落とさないよう、慎重に進んでいく。
「あ、あれは!? 神官殿! モンスターですっ!」
村長が《プレデターズ》を1体見つけ、指を差しながらリーダー格の神官に伝える。
「……おや、《プレデターズ》ですか……どうやら群れから外れた個体のようですね、安心しました。複数体居れば、生贄を運びながら逃げ切ることはまず不可能ですから」
「ど、どうされるのですか?!」
そう不安そうに聞く村長を不気味な仮面から覗く神官は、少し考えて言った。
「__村長、貴方が囮になってください」
生贄のハヅキを火口へ落とす“峰奉祭”の最終日まで……あと12時間___。




