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生まれて初めてゲームをしたらパーティーメンバーが最強すぎる件について!  作者: ゆーしゃエホーマキ
真章中編:音の無い世界

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真編・第72話【峰奉祭、12月30日:深夜】

祭り2日目です。

 日も落ちて、時刻は2時を過ぎていた。太陽の光を反射している月が世界を照らしている。


「敵影無し……」


 苺とミツルは合流した後、使われていなさそうな古い物置小屋に逃げ込んだ。今は交代で休んでいる。苺は物置小屋の屋根の上で周辺を警戒する。


「どうしようかな……」


『脱出する方法……見つかりませんね』


「うん、自分に悪影響を及ぼすものを消す【封解ノ術】を発動しても無理だったし……どうにかして出る方法を見つけないといけないんだけど……」


 村が変化し続ける以上、手当り次第に走り回っても無意味だろう。恐らくもう同じ場所を何度も行き来している。


「なるべく被害を出さないくらいで強行突破しようか」


『きょ、強行……ですが時間もないでしょう、決行は恐らく祭りの最終日である明日と予想出来ます』


「うん、クエストなら多分ちょっと壊してもクリア後に元に戻る……はず」


『だ、大丈夫だと思います!』


 苺は正解を引き当てることを無視し、大元ごと村を破壊することを決める。NPCを避けながら村全体を一気に攻撃するのはかなり集中力が居るが、ミツルの【エレボス】があれば問題はない。


「__村を壊す!?」


 起こされて早々に作戦を伝えられたミツルは声を上げて驚く。


「いや……この際ハヅキ姉を助けることが出来るならなんでもいいです! 【エレボス】ッ!」


「よし、行くよ……【真閻解・鬼神纏】!」


 ミツルの【エレボス】の中に入らせてもらった苺はそう言うと《鬼神ノ太刀・真閻》を抜刀する。


「…………」


 苺は《鈴の形見》に触れると、中に灯っている火を操ってほんの少しだけ指先に移動させる。そして、MPを消費することでその火の火力を上げていく。火は炎となり、巨大な炎は【エレボス】の効果で外に弾き出される。


「このくらいかな……【真・閻解ノ燈太刀・鬼神纏・閻魔】ッ!」


 そう呟いて苺は【真・閻解ノ燈太刀・鬼神纏・閻魔】を放って極炎に当てると、まるで油を注がれたかのように瞬間的に燃え上がる。


「ローゼ、お願い!」


『はい! NPCの反応をミニマップに映します!』


 ローゼが感知したNPCを苺が目視出来るようにすると、苺は極炎を操り、左右へ動かして村の隅々まで行き渡らせる。


『村全体の損傷率62%です!』


「す、すごい……」


 村を燃やし、やがてそこは灰が舞う。NPC達を全て避けて村から出ることの出来ない結界を張っていた石、《幻砡(ゲンギョク)》を破壊する。


『村が、灰が消えていきますね……』


 村そのものが幻想だったのか、そこは跡形もなく消える。


「これで村の外に出れる! 苺さん!」


「ミツルくん、掴まって」


「は、はい?」


 苺はミツルの手を掴むと炎を噴射して島の端っこまで爆走する。


「ア……アァ……スゴクハヤイデスネ」


「大丈夫? 舌、噛んでない?」


「オ、オキニナサラズ」


 と言うので、あまりの速さに髪をボサボサにしてカタコトで喋るミツルの腰に苺は手を回して抱きつく。


「あ、あのぉ……これは?」


「今度は舌噛むかもしれないから閉じてたほうがいいよ」


「えっ、一体何を___」


「【飛焔(ヒエン)ノ翼】」


 そうスキル名を言うと苺の背から炎が翼のように出現し、その翼を動かし羽ばたくと一気に空へ舞い上がる。


「もっと高く……!」


 さらに連続で発動することで再度羽ばたき、高さを稼ぐ。


「これ! 飛んでるって言うより……! 落ちてませんかぁぁぁぁぁ!!?」


 【飛焔ノ翼】は自由に飛ぶことは出来ない。空高くへジャンプ出来るだけだ。しかし、【鬼神化】のスキルは連続で発動が可能なのでMPがある限り何度もジャンプ出来るのだ。出来るだけ高さを稼いで落ちていけば海を越え、《焼結島》に辿り着ける。


「【真閻解・激流纏】……!」


 月や星が映る海面に触れる前に激流を纏い、海に落ちると【水流加速】で海面を滑る。


『《焼結島》までもう少しですね』


「ハヅキ姉……待ってて、絶対に助ける……!」


 そう言ってミツルが睨む《焼結島》は上空が厚い雲に覆われ、火山から黒煙がもくもくと上がっていた。



* * *



「神官殿、準備が終わりました。しかし今年は黒煙が酷いですなぁ……」


 隠し通路を進んでいたハヅキは、すぐ横から村長の声がして立ち止まって隙間から部屋を覗く。そこには村長と、顔を隠した“神官”らしき人物が居た。


「ええ、ですがご安心を。いつも通り明日の深夜に生贄を捧げれば神が怒ることはありませんよ」


「わかっております。ではそろそろ到着する頃でしょうし、生贄にも準備をしてもらいましょうか」


「はい、そうしてください」


「やばっ、戻ったほうがいいかな……」


 元々逃げ道がないので今脱走したことがバレたら何をされるか分からない。《焼結島》に着くまで大人しくしておいた方がいいだろう。ハヅキはそう思うと音を立てないよう注意しながら急いで来た道を戻った。


「さあ、そろそろ到着です! どうぞこちらへ」


「は、はぁい……!」


 ギリギリで間に合ったハヅキは息を切らしながら村長に着いて行く。……手を縛られて。


(に、逃げられない……)


 別室で円形に並べられたロウソクの中央に正座させられ、神官達に囲まれる。何やらブツブツと呪文のようなものを呟いている。


「な……なんか……眠くなって……」


 身体の外側が暖かくなるが、逆に内側が冷えていく。そして突然の眠気に、ハヅキの意思に反してどんどん目蓋が閉じていった。


「さぁ……凍らせましょうか」


 神官のその言葉を最後に、ハヅキは完全に眠りについた。

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