真編・第68話【救うことが出来るなら】
__終わりの者達が生まれて初めて見たものは母の姿だった。そしてその母……《エクス・システム》は自身の子達を見ると一言だけ、こう呟いた。
『たすけて』
その言葉が終わりの者達を突き動かし、唯一母を救うことの出来る力を持った少女、八坂苺のさらなる成長を促すことになった。
《END・BEAST》は仲間を失った苺に、仲間の大切さと暖かさを思い出させ、《END・INFANT》は仲間を助けられなかった苺に仲間を助けさせ、救うことに対する自信を付けさせた。他2体の終わりも苺に試練を与え、成長させるために太刀をその身に受けるだろう。でも___
『ボクは……もっと母さんと居たかった……!』
「くッ!?」
「苺さん、下がって!」
戦闘再開から数分、様子がおかしかった《END・INFANT》が突然そう叫ぶと周辺を無差別に攻撃する。光線が木々を貫き、地面を抉り、そして苺達にも襲いかかる。
苺は【エレボス】を発動しているミツルの元に後退すると、息を整えながらレイピアから白い光線を放出し続けている《END・INFANT》を見る。
『母さんとずっと喋っていたかった、ボクの声を聞いて欲しかった! そのためにボクは君を成長させる、母さんを救えるのは君だけだからっ! なのに……なぜボクは殺されなくてはならない?! 母さんを救うには君の成長が不可欠だ、そして成長するにはボク達を殺さなくてはならないッ! 母さんが救われても、もう二度と話すことが出来ないなんて……あんまりじゃないか!!!』
見た目は子供だが、《END・INFANT》という名のモンスターである以上、倒されれば記憶も残らず完全消滅してしまうだろう。
「……なら、私があなたも救う」
『ボクを? ふざけているのか? モンスターを救うことは出来ない、君はボクを倒してレベルアップするしかないんだ』
「私の力は全てを救えるんじゃなかったの? その全てにはきっとあなた達も含まれているはず……!」
『やれるものならやってみろッ!』
《END・INFANT》はそう叫び、白い光線の威力をさらに高めて放出する。光は【エレボス】で防がれ、周囲が白く閃光して木々が倒れていく。
「やってみせる……! 【真閻解・渢龍纏】ッ!」
『新たな纏う力も手に入れたか……ッ!』
「苺さん何を……!?」
「ミツル君はそのまま【エレボス】を維持していて! ローゼ、やるよ!」
『え、えぇ!? 私ですか!?』
《END・INFANT》を一度倒し、そしてまたいつか母と話せるようにするためには同じ母から生まれたローゼの力が必要だ。
「私が倒した瞬間、システムが“《END・INFANT》を倒した”と認識した瞬間なら、データを保存出来るはず……!」
名も無い不死の鬼がやっていたことだ。モンスターのHPが0になった瞬間にクエストがクリア判定になり、その後モンスターは徐々に光の粒となって消えていく。完全に消えるまで猶予があるのだ。それを利用して倒した瞬間に苺が《END・INFANT》に触れ、ローゼがそのデータを保存する。
『で、ですがベリー自身の中に《END・INFANT》を宿すということになります! それはダメです……私、そして複数の纏う力……もうベリーの容量は限界値なんです! これ以上はベリーの身体が持ちません!』
「なら、別のところに移すのは?」
『別……? モンスターといってもかなり膨大なデータ量……それを移せる場所があるのなら可能ですけど……』
「移す場所はここだよ」
そう言って苺は自分の首元、《鈴の形見》に触れる。
『そ、そこに……? いや、これは……いけます、いけますよベリー!』
中が空洞になり、苺によって火が灯っている《鈴の形見》は今は何の効果も及ぼしていない。だが、それなら受け入れることが出来るはずだ。
「準備はいい?」
『はい、《鈴の形見》とのアクセスも成功しました!』
「じゃあ……ッ!」
その瞬間、苺は【エレボス】を出ると《END・INFANT》の背後に回る。
『後ろに回ったところで…!!!』
「こっちのことも忘れないでねっ!」
「だから前に出過ぎだって! 【フルチャージ】っ!」
ミツルが【フルチャージ】をハヅキに発動し、ハンマーを地面に叩き付ける。それによって【フルチャージ】で強化された強い衝撃波が発生し、苺に攻撃しようとしていた《END・INFANT》の体勢を崩す。
「【真・閻解ノ燈太刀・渢龍纏・駿渢抜】ーーッ!」
体勢が崩れたところを狙い、苺が駿渢抜を発動すると《鬼神ノ太刀・真閻》と《燈嶽ノ太刀・真閻》に風が纏われる。すると苺は二刀で軽く空気を薙ぎ払うことで強風を起こし、その風に乗ってスピードを上げると《END・INFANT》に急接近して二連撃、龍が空へ舞うように斬り上げる。
「ハアッッ!!」
『ぐっっ!?』
刃が銀色の兜に当たったことで外れ、苺から《END・INFANT》の顔が見えるようになる。その瞳に涙を浮かべ、【終視開眼】を発動し続けていた。
『……母さん__っ!』
「やぁああああああッッ!!!」
空へ斬り上げた《END・INFANT》を追いかけ、苺は飛び上がると二刀を前へ突き出して銀色の鎧を砕く。鎧の破片が光に照らされることで輝きながら地面に落ちて、《END・INFANT》が持つレイピアを弾き、抱き締めるとそのまま一緒に落ちていった。
(……完敗だ)
苺と一緒に落ちながら《END・INFANT》は思う。HPはまだ残っている。だが武器を失い、防具もボロボロでとてもじゃないが戦えない。それに自分が負けるという終わりを視た以上、それを受け入れるしかない。苺が下になり地面と衝突すると、しばらくして《END・INFANT》は口を開く。
『……信じていいのか』
「うん」
『そうか……好きにしろ、どうせもうボクの負けだしな』
苺に抱かれながら《END・INFANT》は目を瞑って脱力するとそう言う。苺は《HS・リードナイフ》を取り出して《END・INFANT》の背に刃を当てる。
「いつになるかわからないけど……必ずあなたのお母さんに会わせるよ」
『気長に待ってるよ』
そう言うと苺がナイフを突き刺し、《END・INFANT》のHPを削り0にするとクエストがクリアされる。
『《END・INFANT》のデータを《鈴の形見》へ移動……無事に保存、完了しました!』
「はぁぁ……良かった……」
そして光の粒となって消えかかっていた《END・INFANT》はローゼによって《鈴の形見》に吸収されてそのデータが保存され、灯っている炎が少し明るく輝いた。
うまはじメモ!
ー終視の子 《END・INFANT》 Lv250ー
《グレンツェント・ツークンフト》というレイピアによる白い光線で攻撃する。光には効果反転の状態異常があり、身に付けている銀色の鎧は光の射程距離と威力を高める。
【終視開眼】を発動すると予測演算によって導き出された未来を見ることが出来る。




