真編・第63話【夢の中で】
夢です。
「__お願いしたのはこっちだけどさ……あんた、流石に無理しすぎだよ」
赤髪の少女が苺の顔を覗き込んで言う。夢を見ているのだろう、身体に重みがなくフワフワした感覚だ。
「良ーい? 絶対に自分の力を過信しない、力に溺れない呑まれないっ! 今回みたいなオリジナルスキルも発動出来るだけの力はあるけど無闇矢鱈と使わない! あの子のおかげであっちゃんとあたしの力を合わせて、やっと制御がちゃんと出来るようになったんだから……あんたがそれを壊しちゃダメだよ!」
「あっちゃん……?」
「あ、黒い髪の子だよ。……というかなんか雰囲気変わった? そんな赤と黒の髪してたっけ?」
「これは……多分、【解放者】の影響で」
「へぇ……まぁでも、あんたコロコロ色変わるから気にするほどでもないか」
赤髪の少女はそう言うと苺の髪を撫でる。
「……あの、1つ聞いていいかな」
「うむ、良かろう! 答えられる範囲で答えようではないか! それで、何のことかな?」
腰に手を当て、胸を張って少女は笑顔で言う。
「《エクス・システム》のこと」
苺が《エクス・システム》という言葉を出した瞬間、赤髪の少女は人差し指から炎を飛ばし、苺の頬を掠める。
「__あの子をその名で呼ぶな」
「……ごめんね」
突然攻撃されたことに驚きつつも苺は謝る。もし炎がちゃんと命中していたら頭が吹き飛んでいただろう。
「あっ……こっちこそごめん! 昔から感情的でさ、あたしの力のせいでもあるけど……ってそれは言い訳にしちゃいけないか」
ハッとした様子の少女は両手を後ろに隠して謝り返す。
「それで……あの子のことだね。うん、まぁ特に話すことはないと思うけど……世界と世界を融合させるだけの能力を持ち、あの偽神が偽神であるためのもの。《終わりの試練》を作ったのもあの子だよ」
「じゃあ…やっぱり私を強くするためにクエストを……?」
「それは試練をクリアすることで得るただの副産物だよ。あの一瞬で強くなりすぎたあんたは今、完璧に力を使いこなせない。本来ならゆっくりと成長させていくはずだったのに……あたし達の力との適合率が高すぎたのかな? あたしはその辺よくわかんないけど……これはその力を使いこなせるようになるための試練なんだよ」
「そっか……だからあなたは力に呑まれるなって言ってたんだ」
「そ、力に呑まれるともうホントどうしようもない。守るべきものを見失って身体が言うことを聞かなくなる……最終的に自分で自分を壊す選択肢だけが残る。経験者のあたしが言ってるんだから間違いないよ!」
鬼神の力は強力だ、それ故に人には重すぎる。今は大丈夫でも何かのキッカケがあると一瞬で崩壊する。赤髪の少女はそれを経験していると言う。そんな少女を見て、苺は言われたことをしっかりと心に留める。
「……わかった。とりあえずこの試練をクリアしていけばいいんだよね」
「うんうん、あんたの成長スピードならきっとすぐだよ! 今でも充分あたし達の力を超えちゃってるかも! 使いこなせるようになったらもっとスンゴイことに……っと、戻ってきたかな」
赤髪の少女がそう言って振り返ると、ほぼ同時に黒髪の少女が現れる。
「ふぅ……あ、どうも。もう起きて大丈夫だよ」
「あんたの傷付いた魂を治してたんだからね? あっちゃんに感謝しないと!」
「あ、そうなんだ……ありがとう、あっちゃん」
「どういたしまして。ひーちゃんはお説教終わった?」
「うん、ばっちし! まぁこの子なら大丈夫だよ」
赤髪の少女にあっちゃんと呼ばれている黒髪の少女と、黒髪の少女にひーちゃんと呼ばれている赤髪の少女は、2人並んで苺に微笑む。
「「さぁ、起きて……!」」
そう言われ、苺は2人が差し伸べた手を握り、意識が覚醒する___
* * *
不思議な夢だった。苺はそう思いながら目を開く。
「おねーちゃんっ! 大丈夫ですか!?」
「ねーちゃん! 大丈夫なの!?」
「うん、大丈夫だよ。心配かけてごめんね」
双子が涙目で抱きついてくるのを受け止めると、苺はそう言いながら頭を撫でる。
『ベリー、本当に何事もなくて良かったです……!』
『はぁ……無事で何よりです。しかしあの獣を倒せるとは……』
「ローゼ、クーちゃんもごめんね。それにあのモンスターを倒せたのはみんなのおかげだよ。私一人じゃ多分負けてた、ありがとう」
苺はホッと安心したように言うローゼと《クォーツドラゴン》にも謝り、お礼を言う。
今回のことでいろいろわかった。黒髪の少女と赤髪の少女の力、それを“あの子”……《エクス・システム》が束ねて今の苺が持つ《鬼神ノ太刀》、【鬼神化】にしたのだということ。そしてその力は【閻解】、【真閻解】と今も増幅しているほど強大で、それを完全に使いこなせるようになるために《エクス・システム》が五島に気付かれないよう作り上げたクエスト、《終わりの試練》が開始された。
力に呑まれる……つい最近、力……鬼神閻魔に身体を貸した。あれは苺が望んだことでそうしてくれたのだが、鬼神閻魔が勝手に身体の主導権を握ることも出来るということだ。
(きっと大丈夫……私は絶対、やり遂げるから。受け継いだ炎を途絶えさせたりなんてしない……)
苺は鈴達の顔を思い浮かべながらそう思った。
『それでは一度戻りましょうか?』
「いや、ローゼ、少しアイテムを調達したらこの街を出るよ」
「えぇ!? もう出発されるんですか!?」
「も、もうちょっと居てもいいんだよ!?」
《クォーツドラゴン》にも会えた。もうここに留まる理由はない。
「私は先へ進むよ、世界を元に戻さなきゃいけないから」
「そ…うですね、あの、わたし達も着いて行っちゃダメですか?」
「そ、そうだよね、ねぇ、あたし達も着いてっていいかな……?」
「それは出来ない。これより下はもっとレベルが高いモンスターも居る。私だけじゃ2人を守り切れないかもしれないから」
平均レベルも100や200になってくる。いくら苺が強くても、例えばモンスターの大群が襲ってきた時に2人を守りながら戦うのは難しい。それに数少ない高レベルプレイヤーには街に残っていて欲しいのだ。いつ五島が他の街にもモンスターを侵攻させるかわからない。
「や、役に立ちます! 自分の身は自分で……! だから!」
「絶対にダメ。……ごめんね、2人はここを守って」
「ミナ、仕方ないよ。あたし達はあたし達で出来ることをしよう」
「サナ……そうだね。ご迷惑をおかけしてすみませんでした、いちごおねーちゃん……!」
ミナはそう言って頭を下げる。苺はそんなミナの肩に触れ、頭を上げさせる。
「全然いいよ、それにちょっと嬉しかった……ミナちゃん、サナみゃん、2人はこの街をお願い。……じゃあ、またどこかで会えたら」
「はい! 今度は絶対勝ちますね! 負けたままではいられません!」
「うん! 次は絶対に勝つからね! 負けたままなんて嫌だからね!」
「受けて立つよ。クーちゃんもまたね」
『はい、またお話しましょう。苺さん』
双子、そして《クォーツドラゴン》に別れを告げ、《水晶の街》を後にした。次に目指すのは第三階層ダンジョンだ。
うまはじメモ!
*あっちゃん(黒髪の少女)
大人しい雰囲気の少女。どこか猫っぽい。
人と目を合わせるのが苦手で口数が少ない。
*ひーちゃん(赤髪の少女)
元気活発な性格の少女。どこか犬っぽい。
何かキッカケがあると性格が急変する。




