真編・第60話【終わりの試練】
試練ですッ!
「《水晶の街》の上……? もしかしていちごねーちゃん《晶龍様》に会いに行きたいの?」
「そういえばわたし達行ったことなかったね、サナ」
日も完全に落ちて、双子が用意したパンを食べながら苺は今後のことを話した。《NGO5》のゲームシステムが導入されているのであれば、街の奥に存在する螺旋階段から《晶龍様》……もとい《クォーツドラゴン》が居るあの部屋があるはずだ。
『《水晶の街》マップ上部に1つだけ反応があります、もしかしたらクーちゃんさん…居るかもしれませんね!』
「……明日の朝にでも行こうと思う、私達と会った時の記憶があるのかわからないけど……会っておきたいんだ」
「あ、あの! わたし達もついて行っていいですか!?」
「ね、ねぇ! あたし達もついて行っていい!?」
「うん、いいよ」
目を輝かせて迫る双子に、苺はそう言って承諾する。2人だけなら何かあっても守れるだろう。
「ありがとうございます! 何があるかわからないし、装備もしっかり準備しないと!」
「じゃああたしお弁当用意する! ミナ、あたしの装備もよろしくー!」
「ちょ、サナのご飯はいつも黒くなるじゃない! お弁当はわたしが用意するから!」
「フッ、まさに黒の領域……!」
サナはそう言いながら謎のポーズを決める。
「もう……いちごおねーちゃんは何か食べたいものありますか?」
「なんでもいいよ、ミナちゃん料理上手だし」
「え、えへへ……このパンも自家製なんですよ!」
「へぇ……みんなにも食べさせてあげたいな……」
しかし、それももう叶わぬ願いだということを思いながら苺はそのパンをかじった。
* * *
翌朝、苺は双子に挟まれた身体をゆっくり起こす。布団を2枚ほど敷いて3人で固まって寝ていたのだ。
「ローゼ、おはよう。みんなはどうかな……?」
『おはようございます、《クインテットタウン》は今のところ襲撃ひとつないですね……バウムやフィール、ソラ達はパスワードの暗号解読を手伝っていると三嶋さんに聞きましたよ』
「そっか……私も頑張らないと」
苺はそう言うと布団から出て装備を整える。
「今日もよろしくね」
《鈴の形見》と《HS・リードナイフ》に触れ、双子を起こさないように苺は呟いた。
『ミナさんとサナさんはまだ寝ていますね……起こしますか?』
「……いや、このままでいいよ。2人が起きるまで私のスキルについて教えてくれないかな?」
『わかりました、とは言っても多すぎてどこから話せばいいか……』
「私がいつも使ってるスキルの効果は変わってない?」
『そうですね、元々取得していたものは威力以外に変動はありません。あっ……そういえば太刀を強化した際に取得したユニークスキルがありましたね』
ローゼはそう言うと苺のスキルリストから新たに得たスキルの1つ、【焔烙】を探してスキル効果を苺に話す。
『ユニークスキル、【焔烙】……対象に触れた場所に特殊な烙印を付け、解除しない限り永遠と続く持続ダメージを与える。さらに烙印を付けられたものは火属性耐性が大幅に低下し、連撃が重なるほど受けるダメージが増えていく……素手で触れないといけないようですが、ダメージは0.5秒間に1回のスピードで与えられます。これが連撃と判断されれば相手のHPを一気に削り切れますね』
「素手か……両手に刀持ってるとやりずらいかな……」
『そうですね……あ、握り拳でもいいのではないでしょうか?』
「……今度試してみなきゃね、他は__」
苺がそう言った時、ミナとサナが同時に起き上がり、同時にあくびをする。
「「はっ! もう起きてる!!」」
「2人ともおはよう。お弁当作るの私も手伝うよ」
起き上がった双子と共に、いそいそとお弁当を用意する。中身はサンドイッチだ。
「準備できました!」
「準備できたよ!」
「じゃあ行こっか」
本当に居るだろうか、前みたいに話せるだろうか、倒してしまったことを許してくれるだろうか、そんな事を思っていたら、いつの間にか扉の目の前に着いてしまった。ここを開ければ、少なくとも何かが居る。
「ローゼ、何かわかる?」
『やはり1つだけ反応があります。ですがそれが何なのかはハッキリとは……』
「開けるしかないね……」
苺はそう言うと水晶の扉をゆっくりと開ける。その瞬間___
『来てはなりません!』
「クーちゃん……!」
扉を開け、そこ居たのは確かに《クォーツドラゴン》だ。声も口調も姿形も全く同じ……だが、居たのはそれだけではなかった。
『モンスター!? 反応は1つだけだったはずなのにどうして……!』
「2人とも、戦闘準備」
「はい!」
「うん!」
ローゼが感知出来なかったモンスター、《クォーツドラゴン》の状態を見るに交戦中で……劣勢だったと思われる。
《クォーツドラゴン》が対峙していたのは、その水晶の身体を見下ろせるほどの巨体を持つ獣。どの動物にも似つかないそれは苺を睨んで、唸っている。
『べ、ベリー! クエストが開始されました!』
「クエスト……? なんでそんなものが……」
『クエスト名は《終わりの試練》……そしてあのモンスターの名は……《END・BEAST》です!』
終齎の獣 《END・BEAST》。開始されたクエストは終わりへ向かう者を試す試練、このモンスターはその為に何者かが用意したもの。
『標的を変えたようですね……そこの小さき人達、私も参戦します』
「クーちゃん……」
『……あなたは私を知っているようですが、私はあなたの事を存じ上げていません。ですがとても懐かしく感じます……胸が暖かくなるんです。だから共に戦わせてください』
「うん、ありがとう……一緒にやろう、クーちゃん」
《クォーツドラゴン》の記憶データはリセットされているようだった。それでも苺はこうしてもう一度話せることが嬉しい。
「お、おねーちゃんすごい……! わたし達も負けてられないよ、サナ!」
「《晶龍様》を味方につけるなんて……! あたし達も負けてられないね、ミナ!」
ミナとサナはそう言うと《キラー・フランベルジュ》を抜き、寄り添ってそれぞれの剣を交差する。
何のためにこのクエストが用意されたのかはわからない。だが進む道を塞ぐ敵だ、苺は抜刀し、《クォーツドラゴン》と双子と共に終わりを齎す獣と対峙する。
クーちゃんがやってきたぞッ!
ちなみに記憶が無いのは青晶龍《アズールブラウ・クォーツドラゴン・ユーベル》へ変化して苺に倒されたことで状態がリセットされて《水晶の街》の上部にある部屋にリスポーンしていたからです。
……今後本編で触れるかもしれなくもないかもしれないのでとりあえず記載。( ◜ ཫ ◝ )




