真編・第59話【鬼神は何処に】
双子戦です。
「やぁっ!!」
「はぁっ!!」
ミナとサナ……双子が同時に斬り掛かり、苺はそれを受け止める。
(なるほど……力量差を2人でカバーしてるんだ)
1人では押し返されてしまうとわかっているらしく、双子は必ず同時に攻撃してくる。コンマ1秒の狂いもなく全く同じタイミングで。
「さすが双子だね」
「褒めても何も出ないですよ!」
「褒めたって何もあげないよ!」
そう言って双子は上と下に分かれ、剣を横へ薙ぎ払う。苺は二刀を使い防ぐが、その瞬間違和感を覚える。
「これ、もしかして……」
「っ、どうしようサナ、おねーちゃんまだ考える余裕があるよ!」
「そ、そんなこと言われてもあたしはミナより頭良くないからわかんないよ!」
「……ローゼ、次あの剣に接触するから中覗いてくれる?」
『了解しました、でも無理はしないでくださいね……?』
「大丈夫だよ」
双子に聞こえないよう苺は声を最小限に抑えてローゼに言う。苺の予想が正しければ、【白の領域】の効果は………
「こうなったら……サナ!」
「うん!」
ミナが手で何やら合図をすると、サナが斬り掛かる。相手に作戦がバレないようにお互いにしかわからないサインを作っていたのだろう。苺はサナの攻撃を受け流すと、ミナに接近する。
「っ!」
「……フッ!」
苺は防御しようとしたミナの剣を弾き、その首元に刃を当てる。これで降参してくれれば一番いいのだが。
「__サナ、今!!」
『うおおおおおッ!!!』
背後からサナの声がして、苺は振り向いて攻撃を防ごうとする。この不意打ちは予想していた。だがしかし、苺がそう予想していることを双子は予想していた。
「スピーカー……!?」
後ろにあったのは投げられたスピーカー。そこからサナの声が流れていたのだ。
「半分正解です!」
ミナはそう言うと小型スイッチを取り出して押す。するとスピーカーは爆発し、周囲の部屋の物を破壊する。壁も焦げてしまっていた。
「……っ、まさか爆弾でもあるなんて」
『ベリー大丈夫ですか!?』
「うん、大丈夫。それよりこの煙……全然見えな__」
「りゃああああああッ!!!!」
その瞬間に煙に隠れ、苺の懐に入っていたサナが剣を振るって苺の腹を斬り、そのまま身体を押し飛ばす。
「うぐっ……!」
壁に衝突し、苺は倒れる。
「や、やった! 作戦成功だよミナ!」
「うん! あとは麻酔で眠らせて__」
双子がそんなことを話している間に、苺はローゼから剣の情報を聞く。
『……剣の銘は《キラー・フランベルジュ》……これはプレイヤーの手で作られたものですね、付属スキルが2つあります。1つは【斬撃強化】ですが、もう1つは攻撃する度相手に感じさせる重さが増えていくと同時に破壊力が増し、さらに防御力を無視するスキル【破壊者】です』
(どうりでダメージが大きいわけだ……防御力を無視されたらレベル差なんて関係なく有効なダメージを与えられる……でも)
しかし苺の立てていた予想は当たる。【白の領域】は正確にはスキル使用禁止効果ではない。
「その…白い方のスキルの弱点、わかったよ」
「なっ、普通は気絶してるのに!?」
「サナ、一旦離れて!」
「【白の領域】、スキルの使用を禁止するもの……でもそれはあなた達も同じ」
その証拠に双子は元々用意していたものを使い、スキルでは攻撃をして来なかった。
「……そして剣の付属スキルは発動していた。これは付属スキルだからってことじゃない、それだったら【鬼神化】も使えるはずだからね。つまり正確に言えばその能力は“任意で発動するスキルの使用禁止”……」
「み、ミナ……見破られちゃったよ?」
「うっ、だ、大丈夫! 【破壊者】ならどんなに硬い敵でもHPを削れるんだから!」
そう言ってミナは《キラー・フランベルジュ》を構える。
「任意……そうだ、自分の意思で発動が出来ないのなら、発動してもらえばいい」
『__【真閻解】』
《鬼神ノ太刀・真閻》から鬼神閻魔の声がすると、【真閻解】が発動されて苺に一角が生え、肌に模様が浮かび上がる。
「な、なん……で……」
【白の領域】の効果が発動されないことにミナは冷や汗を流して言う。
そもそも【鬼神化】は苺が望むことで鬼神閻魔がその力を与える。つまり任意発動スキルではない、あくまで発動者は鬼神閻魔だ。全て鬼神閻魔の力であり、苺はそれを使っているにすぎない。
「ぶ、武器に意思が!? でもそれならミナのスキルは効果を発揮するはずだよ! だって範囲内にいるもん!」
「そ、そうです! なんで発動出来るんですか!?」
サナが言うように、【白の領域】は範囲内に居る者が任意でスキルを発動出来ないというものだ。生物でなくても範囲内に居るのであれば鬼神閻魔も発動は出来ないはずだった。
「__簡単な事だ」
そう言ったのは苺ではなく、苺の身体を借りた鬼神閻魔だった。
「我は此処には居ない、それだけの事だ」
『こ、これは……鬼神の力や閻魔の力を纏っているのではなく、《鬼神ノ太刀》そのもの……いえ、鬼神閻魔そのものを纏っているのですか……?』
「すまぬな、白薔薇の姫よ。主の願いだ、少々この身体を借りるぞ」
その時ローゼは思う。《鬼神ノ太刀》に宿っているのであればここに居ることになる。それが居ないということは、普通に考えれば別の場所に居るということだ。そうすると鬼神閻魔はこれまで《鬼神ノ太刀》を介して話していただけ、力を与えていただけということになる。……では、鬼神閻魔本体は一体何処にいるのか___
「この状態は身体に負担がかかる、手短に終わらそう」
「ミナ、領域解除して! あたし達もスキルを使わないと対抗出来な__あ、あれ? からだっ……動…かない……?」
「さ、サナ……これ……っ!」
「……我は殺傷を好まない、主もそれを望まない」
鬼神閻魔はそう言うと刀を納刀して双子に近寄り、それぞれの頭に手を乗せる。
「__2人とも、今までよく頑張ったね」
「い、いちごおねーちゃん……?」
「な、なにを……!」
鬼神閻魔から苺に身体の主導権が戻り、苺は2人の頭を撫で、抱きしめる。
「大切な人を奪われて、それでもどうにかしようと前へ進もうとして……本当によく頑張ったね」
ミナとサナ、この双子は自分と同じだ。そう苺は思う。大切な人を奪われて……悲しみ、怒り、そして復讐するためにこの双子は準備をしていた。苺も世界を元に戻すなんていうのは建前で、本当はただ報いを受けさせたいだけなのかもしれない。
「う…あ……おねーちゃん……」
「み、ミナ……泣かない! い、今なら攻撃も当たるんだから!」
「私も同じだから、2人と同じ……。つらかったね、怖かったね、でももう大丈夫だから。全部、何もかも私に任せてくれればいいから」
鬼神閻魔が何処にいるのか、苺にはなんとなくわかる。どうして力を貸してくれるのか、そんなことを聞く必要は無い。どんな理由であれ、最後まで共に戦ってくれればそれでいい。
「任せていいの……?」
「でもねーちゃん1人でどうやって……」
「私は1人じゃない、仲間が居るんだ……こんな私を支えてくれる。信じてくれる。力を貸してくれる。だから大丈夫、お姉ちゃんは強いんだから」
苺の言葉を聞いて、双子は声を上げて涙を流す。自分達の力に勝手に脅えて近寄らない大人達とは違う。こんなにも暖かく抱きしめてもらったのはいつ以来だろうか。双子はそう思いながらしっかりとその温もりを感じる。
「ありがとう、おねーちゃん……」
「ありがと、ねーちゃん……」
双子はそう言って苺から離れる。
これからも街に立ち寄ればこういった人達とも出会うだろう。世界が狂えば人も狂う。1人が狂えば周りも狂う。まともな人間など、もうこの世界には居ないのかもしれない。
「……わたし達と同じくらいの歳なのに……どうやったら強くなれますか!? わたし、サナを守らないといけないんです!」
「あたし達と身長同じくらいだよね? どーやったら強くなれるの!? あたし、ミナを守らなきゃいけないからさ!」
「………歳は17だし、身長は関係ないから」
「こ、こーこーせいだったんですか!? あっ、ご、ごめんなさい」
「えぇ!? てっきりちゅーがくせーかと思っ……あっ、ご、ごめんなさい」
無言でじっとミナとサナの瞳を見て、苺は威圧する。
『……もしかして怒ってます?』
「ローゼ、うるさい」
『あ、あはは……ごめんなさい。でもちょっと安心しました……ベリー、無理に感情を抑えなくてもいいんですよ』
「……これでいいの、前の私じゃ…きっとあの偽神を倒せないから……」
前の苺なら、きっと躊躇ってしまう。そうしてしまえば、殺されるのは苺の方だ。感情を押し殺し、前に進むことだけを考えていればいいと苺は思う。
「でも、人であるためにも……少しは感情を出していこうと思うんだ」
『そうですか……ではたまに私が一発ギャグでも!』
「……気が散るからそれは却下で」
『うう……自信あったんですが……』
しょんぼりとした声でローゼは言う。すると双子が苺をじっと見つめて口を開く。
「お、おねーちゃん……誰と会話してるの?」
「ね、ねーちゃん……ユーレイとか見えるの?」
「ローゼの声は聞こえてないのか……えっとね、私の友達だよ。幽霊とかじゃないから安心してね」
苺にリンクしたローゼの声は、苺以外には聞こえない。会話をするにはボイスチャットか、端末を介す必要がある。
「よ、よかったぁ……わたしオバケとか苦手で……」
「べ、別にユーレイが怖いとかじゃないからね!」
双子はホッと息を吐いてそう言う。
「宿屋もないし、今夜はここに泊まっていってもいいかな?」
「ぜひ! ごはんも用意しますね!」
「うん! おふとんも敷いておくね!」
ミナとサナはそう言うとパタパタと駆け足で準備をしにいく。そして苺は戦闘で散らかった部屋を眺めると息を吐いて片付け始めた。
「そうだ……上、行ってみようかな」
そう呟いて苺は《ホーム》の窓から上……《水晶の街》の天井を見上げた。きっとあの部屋もあると願って。




