真編・第58話【双子】
双子です。
「ここです!」
「ここだよ!」
「……ローゼ、私の死角を警戒しておいて」
『……? わ、わかりました』
少しして双子の家、《ホーム》に着いた苺は中に入ると小声でローゼに言う。
「おねーちゃん何か言った?」
「ねーちゃん何か言ったか?」
「何でもないよ、ところで聞きたいことがあるんだけど……なんで私を2人の《ホーム》に?」
「んー、何でだろうね?」
「うーん、何でだろう?」
双子は互いの顔を見合わせて首を傾げ、頭のリボンが揺れる。
「……そういえば名乗ってなかったね、私の名前は八坂苺だよ」
「そうでした……! わたしはミナ! 白いリボンの方です!」
「そうだった……! あたしはサナ! 黒いリボンの方だよ!」
大人しそうで白いリボンを着けているのがミナ、少しやんちゃそうで黒いリボンを着けているのがサナ。家はごく普通の一軒家に見える。テーブルの上にはチョコ菓子やクッキーが置いてあり、部屋の隅には沢山のぬいぐるみが集まっていた。
「ミナちゃんとサナちゃんか……2人は双子…なのかな」
「そうです!」
「そうだよ!」
同じ言葉を同じタイミングで言う青髪の双子。そう、青髪なのだ。
「《NGO》、プレイしてたんだね」
世界が融合して、ローゼが五島に対抗するためになんとか導入したゲームシステムの影響で元々《NGO5》をプレイしていたプレイヤーはそのデータが丸々引き継がれていた。髪を染めるアイテムもあるのかもしれないが苺はその存在を知らない。なので現実とは異なる髪色の人は98%程度の確率でプレイヤーだ。
「そうですよ、わたし達はプレイヤーです」
「それにこの街に元々居たわけじゃないよ」
「……じゃあ、別の街からここに来たんだね」
思い当たるのはゲーム時代に初めて苺達が第四階層に来た時に立ち寄った《誰も居ない街》……あそこが住めるようになっているのだろう。しかし、第四階層のフィールドにいるモンスターは現在、平均レベルは90以上だ。この双子がそれを突破出来るとは苺にはとても思えなかった。
「パパとママが頑張ってくれたんです」
「でもこの街が見えてきた時、後ろからモンスターに襲われて殺された」
この辺りに生息するモンスターは《アイスウルフ》や《イエティ》が主だ。《アイスウルフ》は大きめな群れで行動していて、単体で俊敏力が高く、さらに群れでの連携を得意とする。《イエティ》もボスを中心に小さな群れを形成しているし、パワーが他より断然高い。不意を突かれれば一瞬だろう。
「あの神がわたし達のパパとママを殺した」
「だからあたし達も殺す」
子供っぽい表情だった双子の顔が歪んでいく。
「でもわたし達の武器じゃ殺せない」
「攻撃力が低すぎるもんね」
双子はそう言って波打った刃の片手直剣を装備する。
「……なるほど、それで私の装備を奪おうとしてたんだね」
「正解です、怒りましたか? でも許してください、あいつを殺すためなんです」
「さすがだね、もしかして怒ってるのかな? でもあたし達はあいつを殺したいんだ」
まだ幼いであろう双子が狂っていくのを見て、苺は抜刀し攻撃に備える。
「無駄ですよ、この家には沢山のトラップを仕掛けたんですから」
「それにあたし達のレベルは97、この世界じゃ誰も刃向かえない」
その言葉を聞いて苺は街で注目を浴びていたことを思い出す。あれは装備の見た目や知らない顔だったからとかそう言った理由ではなく、高レベルプレイヤーを恐れていたのだ。
レベリングが簡単には出来ないこの世界では元《NGO》プレイヤーは強者であり、五島やモンスターとはまた別の恐怖対象である。既にこの街の住民は、この双子に恐怖心を植え付けられているのだろう。途中で話しかけてきたおじさんも双子が情報を得るために接触させたのだ。
『ベリー! 後方から手榴弾が!』
「脱出するよ、どの道もうこの街には居られない……!」
「逃がさないよ! 【黒の領域】ッ!」
双子の《ホーム》を出ようとする苺に対し、サナがスキルを発動する。
「っ、やっぱりそのリボン……!」
「もしかしてこれもなんなのか気付いてたの? ねーちゃん結構やるね! あたしのエクストラスキル【黒の領域】は意識した相手を一定範囲から出させない、言わば牢獄だよ!」
直後、トラップの手榴弾が起爆し、苺は爆発に巻き込まれる。
「……ローゼ」
HPがそれほど減っていないことを確認すると、苺はローゼにスキルの詳細を聞く。
『嘘ではないみたいです。範囲はちょうどこの部屋、制限時間ですが1秒経つ毎に1MPを消費するので勝機はあります!』
「MPか……なら、【捕食者】」
苺は【捕食者】を発動し、双子のHPとMPを吸収していく。【捕食者】の吸収ならばHPを0にすることはない。
「【白の領域】、発動です!」
ミナがそう言って【白の領域】を発動する。
「ミナのスキルは凄いんだよ! なんと……むぐっ!?」
「サナ! 無闇に情報を喋らない! でもすぐわかっちゃうかな……」
「うん、スキルバインド……効果は範囲内にいる相手のスキル使用の禁止かな」
【捕食者】の効果が強制終了したことから苺は予想する。しかし範囲外へ出ることは出来ない、【黒の領域】の効果だ。この白と黒……これら2つが揃うことで初めて真の効果を発揮する。
「ごめんなさい、いちごおねーちゃん……その装備貰いますね」
「ごめんな、いちごのねーちゃん……大人しくしてたら殺しはしないからさ」
そう言いながら剣を持って近寄ってくる双子を見て苺は考える。大切な人を奪われた気持ちは理解出来る。出来れば無力化してこの街から出たい。しかしレベルはこちらが上とは言っても相手は相当準備をしてきたようだし、【黒の領域】と【白の領域】の効果で脱出も出来なければスキルも使えない。どうにかして時間を稼ぎ、【黒の領域】の効果を終了させてここから出なくてはならない。
「ローゼはそのまま周囲を警戒してて」
『はい、全力でベリーをサポートしますっ!』
苺はローゼにそう頼むと二刀を構え、双子を迎え撃つ。




