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生まれて初めてゲームをしたらパーティーメンバーが最強すぎる件について!  作者: ゆーしゃエホーマキ
真章前編:Not Game Online

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真編・第54話【先駆けの鼓動】

 ユーベルウィルスを吸い込んだ影響か、鈴は自身の視界がボヤけていくのを見て思う。


(やっぱり……帰れそうにないかな……)


 時刻は深夜0時、黒く分厚い雲が空を覆い始めていた。空気も冷え、鈴の銃を握る手が寒さで震える。


『▼▼▼▼◆●■……』


「さあ……来い、悪魔……こうなったらその目全部撃ち抜くよ」


 そう言うと鈴は再び走り出す。それと同時に《アブソリュート・ユーベル》も触手を伸ばしてくる。


「【アクセルブースト】ッ!」


 鈴は【アクセルブースト】を発動して俊敏力を上げ、走って触手を避けながら《アブソリュート・ユーベル》の無数にある眼球を撃っていくが、黒い霧とボヤける視界で徐々に弾を外すようになっていく。

 そしてさらに時間が経っていくと手足が痺れ始め、地を踏む度に脳が揺れるようになる。


「ウッ……ぐ……まだ、私は……ッ!」


『◇◇◇■◆△●▼■!!!』


 その瞬間に触手から青白い熱線が放たれると鈴の頬を掠り、マスクの役割をしていた布が焼け切れて落ちてしまう。しかしそれを構わず鈴は銃で撃ち続ける。


「チャージッ! 【サウザンドショット】ッ!」


 __徐々に視界が紅く染まっていく。どれだけ時間が経っているのか、今自分はどんな動きをしているのか……わからなくなっていく。

 それでも鈴は全てのチャージ系スキルを使用してから【サウザンドショット】を撃ち、《アブソリュート・ユーベル》の無数にある眼球を潰す。


「ふッ!」


 さらに鈴は《アブソリュート・ユーベル》に接近すると、その大口目掛けてグレネードを投げ込み、すぐ上から来る触手を避ける。触手はそのまま地面に突き刺さっていくが《アブソリュート・ユーベル》の身体のどこからでも触手は現れる。油断してはいけない。


「っ……目が……!」


 鈴の目が痛みだし、直後色彩が認識出来なくなってしまう。


「【クリンゲル・シックザール】ッ!!!」


 鈴は痛みを我慢し、HPを減少させて【クリンゲル・シックザール】を発動。《アブソリュート・ユーベル》に毒の状態異常を付与させる。


「【ドレインショット】、【クイックヒール】……!

 【クリンゲル・シックザール】……ッ!」


 【ドレインショット】と【クイックヒール】によりHPを回復させ、立て続けに【クリンゲル・シックザール】を発動すると《アブソリュート・ユーベル》の防御力がさらに低下する。


『◆■▼●■◆▼■■■!』


「お前のせいでッ! 林檎が……苺が……みんなが! ……今この瞬間、ここで死んでたまるか、私はまたみんなとゲームがしたいんだッ!」


 鈴の全身にユーベルウィルスが行き渡り、触覚や嗅覚の機能が低下していく。頭もボーッとなっていき、気を抜いたらそのまま真っ暗な闇の中に沈んでしまうような気がして鈴は頭を振って強く意識を保ち、攻撃し続ける。


「はぁッ……はぁ……ッ!」


『Jf_■●ff6tff●●fc▼▲vhjd●◆■■■ddd』


 __もう何時間経っただろうか。呼吸が荒くなっている鈴は《アブソリュート・ユーベル》のほとんどの目を潰すと急に立ち止まる。

 もう鈴に走る体力はない……それでもなんとか足を進めようとするが、何もないのに(つまず)いて倒れてしまう。起き上がる気力もない。


「あ……ぅ………っ」


『▲w▲w▲!!』


 《アブソリュート・ユーベル》はその瞬間を待っていたかのように笑いながらゆっくりと鈴に近付いていく。


(……転移しない? いや、出来ないのか……弱ってるのなら、もうすぐでコイツを倒せるはず……)


 鈴はボヤけ、色もわからない目で《アブソリュート・ユーベル》をしっかり見て観察し、思考して思うと倒れたまま《KS01》を握り締めて《アブソリュート・ユーベル》の一番大きな眼球を狙う。

 ……正確な射撃ももはや出来そうにない、油断して近くに寄ってきた瞬間に撃つ。そう思って銃の引き金に指を当てたその時、鈴の耳に何かの通知音が響いた。


「……ボイスチャット……?」


 鈴は朧気な意識のまま左手で操作し、ボイスチャットを繋ぐ。


『___鈴っ!!』


「い……ちご……?」


『そうだよ、私だよ! 今どこに居るの!? 起きたら鈴が居なくて……それで!』


「だ、大丈夫……ちょっと買い物してるだけ……私が戻るまで、部屋で待ってて」


『……鈴、そんなの嘘だってわかってるんだからね!』


「……あは、は……さすが苺、よくわかったね……」


 鈴はそう言いながら涙を零す。この状況で、苺の声を聴いて思う。

 __死にたくない、苺に会えなくなるなんて嫌だ。……でも……それよりも。


「……ねぇ、いきなり変なこと言うけど……許してね、苺……」


『え……な、なに……?』


「今まで……私の隣に居てくれて……ありがとう。私の前に立ってくれてありがとう……っ、ひとりぼっちだった私の手を引いてくれて……ありがとうっ! こんな私の後に着いて来てくれて……ありがとう……! っ、死にたくない…し、怖い……。それに…苺やみんなに会えなくなるのは……寂しいけどっ、もうみんなのあんな顔…見るのは嫌だ……! もうこれ以上、みんなを苦しませたくない……ッ!」


『す、鈴……ッ! 待って、今そっちに行くから!!! 【真閻解・鬼神纏】ッ!』


 その後、鈴の耳に部屋を飛び出るような音が聞こえる。


「あったかい……」


 ……苺のスキル発動に反応したのか、《鈴のお守り》が熱を帯びる。鈴はそれを握り締め、しっかりとその熱を感じる。


「クリンゲル・シックザール……私の運命。ヘルツは抗うことの出来ない、残酷で苦しい運命って言ってたけど……」


 __でもお前はそれを捻じ曲げてみせるのだろう?


「……そうだね、私の運命は私が決める。神様になんて決めさせやしないよ」


 __なら見せてくれ、お前の“運命殺し”を。


 《ヘルツ》の言葉を聞いて鈴は立ち上がりながら言う。そして、静かに目を閉じ……《KS01》の銃口を自身の心臓に向けてゆっくりと白い息を吐く。


「【クリンゲル・シックザール】」


 そう呟くように言って【クリンゲル・シックザール】を発動すると、鈴は銃の引き金を引き……定められた運命を殺した____




* * *




「__待って、今そっちに行くから!!! 【真閻解・鬼神纏】ッ!」


 そう言って苺は《ホーム》を飛び出す。肝心の鈴の居場所は、なんとなく予想はついている。しかしここから全速力で向かって間に合うのだろうか。……苺はすぐにそんな考えを捨て、無我夢中で走る。


「鈴っ……!」


 苺は無事を祈るように鈴の名前を呟いて【解放者(リベレーター)】を発動すると血解状態になる。深夜と、黒く分厚い雲による周囲の暗さが苺の不安感を煽る。


「もっと速く……! 部分変身、【雷公】ッ!」


 足部分に雷公を纏うとさらにスピードを上げて北西門を出る。そして苺は歯を食いしばりながら《バベルの塔》へ一直線に向かった。

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