真編・第49話【いつまでも、みんな一緒に】
__苺達が見咲に着いて行き、到着したのは物置小屋。しかし見咲がゴチャゴチャと散乱した物で隠されたボタンを押すと下へ続く階段が現れた。
「ここが、かの偽神……五島文桔に対抗するために作られた《ホーム》です。《クインテットタウン》の地面を掘って作ったので土臭いし鉄臭いですが、普通に暮らすことも出来ます。とりあえず私の部屋に行きましょうか」
そうして連れられた苺達は案内された見咲の部屋に入る。ごく普通の木造で出来た部屋だ。そこで林檎の左頬の傷を白の【ヒール】で治療しながら、お互いに得た情報を共有し始めた。
……まず1つは現在の被害状況。モンスターによる死亡者が最初の調べと同じく約一千万人。自ら命を絶った者も少なくはないとのこと。最初とあまり変わりがないのは組織が動いて避難を呼び掛けたからである。
行方不明者も最初の調べと変わらず二千万人、これは世界が仮想と融合した瞬間に消えてしまった人の数だ。消えた人達が何処へ行ってしまったのか、今はまだわからない。
「あ、あの……それでおじいちゃんは……」
「……八坂重郎さんは現実世界で行方不明中でした。パートナーである一条雅信さんは自爆し、死亡していると聞いています」
「そっか……でもまさか私の祖父も組織の人だったとは思わなかったな……あ、それで私達の方はですね__」
鈴は少し困惑しながらも、自分達が得た情報を伝える。
まず最初に、五島の秘書だったライ・スフィールから希望……《エクス・システム》へアクセスするための暗号化されたパスワードを入手したこと。次に人とモンスターとの融合が可能であること。そして《ゼウス・ユーベル》が浴びた“悪魔”の血のこと。
「“悪魔”は多分、最初の頃と比べて強化されてるだろうな……」
「えぇ。それにオリュンポス十三神が倒された今、次に来るのはやはりその“悪魔”だと思います」
「その前に装備を整えて置きたいですね、ファングが使えないとかなり戦力が下がりますし……はい、治療終わりましたよ! って、あれ? 跡が残ってますね……まぁわたしも回復に特化してるわけじゃないですし仕方ないといえば仕方ないですけど………痛みはありますか?」
白の回復効果は決して高くはない。それでもこの中では一番優れているはずなのだが……林檎の左頬には傷跡が残る。血は止まっているのでHPは全回復している。
「平気よこれくらい! 痛くも痒くもないわ! それにあとは“悪魔”さえ倒せばほとんど終わりみたいなものでしょ? なら戦って勝つだけよ!」
林檎は左頬の傷跡を気にする様子はなく、勢いよく立ち上がって言い放つ。
「だな。前の“悪魔”だって苺が倒してんだから、ちゃんと用心してれば負けねぇよ」
「ん……」
しかし今度の“悪魔”の強さ、能力はもはや誰にもわからない……いや、神のみぞ知ると言ったところだろう。だが、必ず倒すと苺達は奮起する。
「私達ではきっと太刀打ち出来ない相手です、もうあなた達に頼るしか希望が見えない……」
「苺ちゃん達すごく強いもんね……! きっと勝てるよ!」
「でも無理はしないでくれ、危なくなったら逃げてもいいんだからな」
「はい! わかってます、安全第一です!」
苺は見咲、そして三嶋と八神を安心させるように笑顔でそう言った。
「……では、今日はもう疲れているでしょうし、各自の部屋に案内しますね」
「お願いします……僕もういろいろ疲れて……」
「あ、林檎ちゃんはくすぐりの刑、忘れないでね!」
「ホントにやるの!? は、反省してるから! ねぇ苺! 苺ってば!」
そんな事を言いながら、苺達は案内された部屋で休息する。
* * *
「__ありがとね、林檎ちゃん。私を守ろうとしてくれて」
「はっ……はぁ……はぁ……っ! か、身体が勝手に動いた……だけ、よ……!」
林檎の部屋で、くすぐりの刑を終えた苺が林檎に向かってお礼を言う。くすぐられた林檎は息を切らし、仰向けになりながら答える。
「それにお礼を言うのはこっちの方よ。いつも頼りになってるわ、ありがとう」
「え、えへへ……私も頼りにしてるからね!」
少しの間会えなかったからか、林檎はいつもより胸がドキドキしている。もっと話していたい、もっと傍に居たいと思うようになる。
「ねぇ、苺……私きっとこのパーティーの中で最弱よ。みんなのように凄いスキルとかないもの。それでも……一緒に居ていいのかしら」
林檎は静かに苺に聞く。林檎の持つスキルはレベルを上げたりすれば開放されていくものばかりだ。これくらいは職業《召喚術師》ならほとんど持っているスキルだ。もちろんスキルが全てではないことは林檎もわかっている。それでも、周りが最強であると気になってしまうものだ。
「いいんだよっ! 林檎ちゃんだから、私は安心して背中を預けられる! ……きっと鈴や正樹君、理乃ちゃんに大斗君も林檎ちゃんに居て欲しいって思ってる! 林檎ちゃんじゃないとダメなんだよ!」
「私…だから……」
「うん!!」
もうほとんどわかっていたが、その言葉をしっかり聞いて林檎は安心する。苺ならこう言ってくれると思っていた。
「ありがとう苺……私、絶対に役に立ってみせるわ」
「なら私は林檎ちゃんが安心して戦えるようにもっともぉぉっと! 強くなるっ!」
「ほ、ほどほどにしておいてね……」
苺が言うと必ずそうなるような気がした林檎は息を整えてそう言った。
「さて、とうのとっくに日は変わってるし……もう寝ましょうか」
「そういえばそうだったね、ずっと走ってたから私もう疲れて………すやぁ………」
「ちょ、ここ私の部屋! 寝るなら自分の部屋に戻りなさい! ……って、もう聞こえてないか……はぁ、全く…仕方ないわね」
林檎は幸せそうに眠る苺の顔を眺めると、抱いて布団の上に移して毛布を被せる。
「……おやすみ苺」
「むにゃ………」
* * *
「ふぁあぁ〜〜……ふふっ、林檎ちゃんよだれ垂れてるよ〜」
朝、苺は目を覚ますとまだ眠っている林檎の寝顔を見て、起こさないよう静かに呟く。
「さてと、やっちゃおう!」
苺は林檎に毛布をかけ直して言うと、部屋を出て鍛冶場へ向かう。破損した白の杖や大斗、三嶋の盾を修理するためだ。
「ふんふんふふーん♪」
鼻歌を歌いながらハンマーを振り、三嶋の盾を直すついでに《守り手の緋鋼盾・改》へ強化する。そして白の杖、《シュヴァルツァード》と大斗の盾、《星空の巨盾・カリスト》も直すとそれぞれの部屋に行って渡す。
「素材結構余ってるなぁ……あ、そうだ!」
続く戦闘で得た有り余るモンスターの素材、それを見て苺は何か思い出し、鈴の部屋の扉をノックすると勢い良く扉を開く。
「おはよー鈴!!! ちょっと《鈴のお守り》強化するから一旦預かるね!!!」
「び、びっくりしたぁ……朝から元気だね、昨日……いや今日か、情報共有してたから寝たのは夜中の2時くらいなのに……はい、どうぞ」
鈴はそう言いながら装備画面を操作して《鈴のお守り》を外し、苺に渡す。
「ふっふっふ……すっごいスキル付けるからねー!」
「うん、楽しみにしてるよ!」
《鈴のお守り》を預かった苺は鈴の部屋を後にして鍛冶場に戻り、強化する。
「元々ある最大HP上昇とリロード速度上昇の効果も強くしてー、あと銃撃強化にMP自然回復速度上昇も付けてー! 付属スキルは【癒しの音色】と【鬼神の加護】! よし! 付けれるだけ付けた!」
ありったけの素材を使い、《鈴のお守り》は強化される。追加された効果に加え、戦闘中に持続回復する【癒しの音色】と苺が強化したことで付属したのか、【鬼神の加護】というスキルが付く。
「見た目はあんまり変わってないけど……これなら鈴を守ってくれるよね」
苺は《鈴のお守り》を眺めて言うと、『チリン』という小さな音が聴こえてくる。そのお守りを握り締め、鈴の部屋に戻ると苺は元気いっぱいの笑顔で渡す。
「ちょっとだけ早いけど……誕生日プレゼントだよ、鈴!」
「あ、ありがとう苺! というか自分の誕生日忘れてたよ……ってなんか凄い効果ついてる……」
鈴はそう言うと《鈴のお守り》を装備し直す。お守りは装備されたことでネックレスとなり、鈴の首元で揺れる。
「……うん、やっぱりこれが無いと落ち着かないね、ありがとう!」
鈴は《鈴のお守り》に触れ、その小さな音を聴きながらもう一度苺にお礼を言った。
「じゃあ正樹君と八神さんの武器も強化してくるね! あ、林檎ちゃんの短剣も強化出来そう! 今日は忙しいぞー!」
「苺、何か手伝えることあったら言ってね!」
「うん! ありがとう鈴!」
__誰も傷つかないように、自分が出来ることをやっていく。武器や防具が強化されるだけでも生存率はきっと上がる。“悪魔”との戦いに向け、苺はみんなの装備を再強化していった。いつまでも、みんな一緒に居るために。
ジi▼z~◆f+●>回__◆■●▼▲■◆◆◆▲。




