真編・第47話【ゼウ▼・ユーbEル】
『__っ!? 高エネルギー体を感知ッ! 現在も上昇中です! 皆さん注意してください!!』
「離れた方が良さそう! 苺ちゃん達、こっちへ!」
「は、はい!」
第四階層ダンジョン前に転移し少しするとローゼが叫ぶ。八神が誘導して、苺達は建物の影に隠れる。苺は一度【真閻解】を解除し、身を潜める。
『▽逃げ▲も、■▼隠れも◆△無意▲味だ◇○●……ッ!』
《ゼウス・ユーベル》の声が聞こえたと思った瞬間、第四階層ダンジョンから3つの《ケラウノス》が扉を破壊して街に侵入すると、苺達が隠れる建物へ真っ直ぐ突っ込んで来る。
「__位置がバレてるッ! 【クイックショット】ッ!」
鈴はそう言って【クイックショット】を発動し、《ケラウノス》を撃ち抜く。それによりスピードこそ減速したが、それは一瞬だけだった。《ケラウノス》はすぐに立て直すと先程よりさらにスピードを上げて苺に突っ込む。
「【絶対回避】っ!」
【絶対回避】を発動することで苺は回避するが、まだ2つの《ケラウノス》が向かってきている。
「【真閻解・氷華纏】! やあああッ!」
苺は氷華を纏うと1つ目の《ケラウノス》を斬って凍りつかせ、無力化に成功する。凍らせられることがわかるとさらに続けて、向かってきた2つ目を斬って瞬間冷凍する。
「なるほど、チャージ! 【アイス・エイジ】ッ!」
そんな苺を見た鈴は、【フルチャージ】【オーバーチャージ】【リミットブレイク・チャージ】を発動することで効果を高め、【アイス・エイジ】で3つ目の《ケラウノス》を凍らせる。
「見た感じ氷が弱点みたいね」
「うん、でも完全に破壊までは出来ないみたい。撃っても傷一つ付けられないから破壊無効効果でもあるのかもね……それにオーバーエクスプロージョンの効果が続いててまた動き出すかもしれないから……林檎、気をつけて」
「わかったわ、用心しておく」
《ケラウノス》を無力化出来るとわかった今、《ゼウス・ユーベル》が一度に複数生成出来なければ【Keraunos Over Explosion】は脅威ではない。しかし、相手はユーベル化モンスター……さらにはオリュンポス十三神の最後の一柱だ。そう簡単にはいかないことは皆わかっている。
「でも……あの液体は嫌な予感がする」
「だな、さっきのあいつの声……あれだったしよ」
そう言って正樹と大斗は思い出す。ドロっとした黒い液体……見間違いじゃなければあれは血だ。そして何の、誰の血なのか……苺達はわかる気がした。
『■▼▼▼▲……』
「まさか、自分から暴走するなんて……」
第四階層ダンジョンから現れたのは黄金の鎧ではなく、漆黒の鎧と胸部中央の充血する眼球……そして紅く轟く雷霆剣、《ケラウノス・ブルート》を持った者。歪な兜の隙間からは血が絶えず溢れ出ている。
「……あの液体は“悪魔の血”だ。ネーム表記もHPゲージもバグってる」
三嶋がその名前とHPを見て言う。
《ゼウ▼・ユーbEル》は自ら“悪魔の血”……ユーベルウィルスを過剰投与したことで暴走したのだ。HPゲージはバグによって6本以上あるように見え、削った分のHPがわからなくなっている。
『◆◆◆◆◆◆◆ッッ!!!!』
《ゼウ▼・ユーbEル》は咆哮すると《ケラウノス・ブルート》を地面に強く突き刺す。そして苺達の足元に同じような色合いの光が現れると、そこから《ケラウノス・ブルート》が出現し突き出される。
「攻撃方法も変わってる……正樹君と林檎はヘイト分散お願い!」
「当たったら一撃死しそうな色だ、気を付けろよ!」
幸い攻撃発動には少し時間があるので避けれないことは無い。しかし攻撃威力がわからないため命中は極力避けたい。
『【▲▼◇◆■ ●_△◆ □●◇■▲▲●▽◆】ッ!!!』
そして発動されたスキル、【Keraunos Over Explosion】によってそれぞれの足元に出現した合計9つの《ケラウノス・ブルート》が自動攻撃化すると、狂ったように暴れ回る。
「……大斗は私が守る」
「俺が理乃を守るんだよ」
「……じゃあ、2人で」
「……ああ、背中は任せた!」
理乃、そして大斗はそう言って背中を合わせ、《ケラウノス・ブルート》の攻撃を警戒する。
「ディフェンスアップ! ……限界ですか、ファング……無理をさせてしまいましたね」
白は防御力を上昇させようとするが、ボロボロになった杖は限界を迎え、スキルが発動出来ない。杖無しでも一応発動は可能だが、効果がかなり削られてしまう。気休め程度にしかならない。
「白ちゃん、これ使って!」
「八神さん……ありがたく使わせて頂きますね」
今の状況で武器無しは危険。そう判断した八神は予備の杖を白に渡す。杖の先端が猫の頭のような形になっているが、今は気にしている暇はない。
「「【ディフェンスアップ】ッ!」」
白と八神の支援で正樹と林檎の防御力が上昇する。
「ありがとうございます! 【常闇ノ一矢】っ!」
正樹はお礼を言いつつ弓矢で《ゼウ▼・ユーbEル》を攻撃、さらに【幻手】を使い自分に向かって来る《ケラウノス・ブルート》を押さえる。
「《金狼》《銀狼》《黒狼》《白狼》、来て!」
林檎は《ニーズヘッグ》に加え、狼系モンスターを召喚。《黒狼》と《白狼》を白と八神の近くに配置し、護衛する。
「【重拘束】ッ! 今よ、みんな行って!」
そして林檎は《ニュートン》による重力で《ゼウ▼・ユーbEル》を拘束すると、モンスター達に指示を出して攻撃させる。
「八神! 援護頼めるか!」
「おっけータケちゃん! 【アイス・ショット】!」
《ケラウノス・ブルート》は現在、三嶋に2つ、理乃と大斗のところに4つ、苺と鈴のところに2つ、そして《ゼウ▼・ユーbEル》の近くに1つある状態で、それぞれが中距離範囲に紅い雷霆を放ち、地面を抉っている。
「こ、攻撃スピードが速くなってる……!」
「苺大丈夫!?」
「うん、なんとか平気だよ!」
ユーベルウィルスの過剰投与によるものか、《ケラウノス・ブルート》の武器性能が格段に上がっている。その一撃一撃が《ゼウ▼・ユーbEル》の雷撃と同じなのでその攻撃を受け続けると武器が破損しかねない。しかし、だからと言ってダンジョンの階段を走って上り続けていた苺達に何度も避ける体力は残されていない。
「……【ムーンライト・レイ】ッ!」
正樹は【幻手】に《月神弓・アルテミス》を持たせ、付属スキル【ムーンライト・レイ】を放つ。その光は《ゼウ▼・ユーbEル》の左肩に刺さることでダメージを与えるが……。
「くっ……低い!」
「これ……攻撃してて思ったんだけど、ダメージが半減されてないかしら?」
「うん、多分鎧の能力が変わったんだと思う。九宮さんはそのまま敵の注意を引いて、僕はあの目を狙ってみる!」
「えぇ、了解よ!」
そうして正樹は再度【幻手】に弓を引かせ、鎧が壊れ露出している胸部中央の眼球に狙いを定める。




