真編・第42話【黄金のリンゴ】
『ガルォォッ!』
「ヤアッ! ぐっ、重い……!!!」
突進してきた《ラドン》の攻撃を苺は二刀で受けるが、本体の首は太く、大きく、その重量に腕が震える。
「【真閻解・雷公纏】ッ!」
苺は耐えられなくなる前に雷公化し、【伏雷】で雷に成って退避する。
『ギャルォォォッ!!!』
《ラドン》は攻撃を止めず、さらに尾を持ち上げて苺を叩く。
「うぐっっ! 【捕食者】ッ!」
苺は二刀を交差させて防ぎなんとか踏ん張るが、重さで草花が燃えたことで露出した水晶の床にヒビが入る。苺は受けながら【捕食者】を発動してHPとMPを吸収して追撃に備える。
「っ、【絶対回避】ッ!」
《ラドン》が再び尾を持ち上げる。その行動に嫌な予感がした苺は【絶対回避】を発動する。その後、《ラドン》は尾を薙ぎ払って水晶の壁を破壊する。巨体故に全体攻撃ができ、威力も大きい……動きはモッサリしているが、油断すると即死しかねない。
「か、壁……発動して良かったぁ……! 落ちないようにしなきゃ」
水晶の壁が破壊されたことで外の冷気が部屋に入り、部屋の温度が低下する。景色を見る限りかなりの高さまで登ってきたようだ。
(もうすぐ……鈴達に会えるんだ!)
そう思うと力が湧いてくる。苺は《果ての弓》を装備すると《ラドン》の首元ではなく、口内を狙う。
「あの首太いし、鱗が硬くてなかなか斬れないから中を狙おうと思うんだけど……ローゼ、どうかな?」
『良いと思います。神話でもラドンは口の中に蜂の巣を入れられて蜂に刺されて倒されたり、毒の矢で口を射抜かれて倒された説もあります』
「じゃあ……【ファーディスト・アロウ】ッ!」
苺が【ファーディスト・アロウ】を発動し、《ラドン》の口の中へ放とうとした……その瞬間。
『《ラドン》、このリンゴ……酸っぱいからあげるわ』
『グルァ!』
そう言うと《ヘラ・ユーベル》はかじっていた黄金のリンゴを《ラドン》へ投げる。《ラドン》は大口を開け、黄金のリンゴを喰らう。
「なっ!?」
放った【ファーディスト・アロウ】は《ラドン》の口には入らなかったが命中する。HPは少しだけだが減る。
『まずいです、ベリー! 全力で逃げて!』
「【伏雷】ッ!」
苺の【伏雷】が発動発動されるとほぼ同時に、不死を獲得した《ラドン》は苺を鋭く睨むと、自身のHPも減るめちゃくちゃな攻撃を仕掛ける。逃げる苺を上から大口を開けて襲い、回避されても減速せずそのまま床に衝突。すぐ床を這いずり、苺を追いかけて噛み付こうとする。
『ギァグリャアアアアアア!!!』
「このままじゃ追いつかれるっ! 【一発雷】!」
苺は雷を飛ばし《ラドン》の減速を狙うが、属性耐性と不死があることで《ラドン》は止まらない。
「た、食べられるぅぅ!!! ……食べられ? そうだ!」
すると苺は【伏雷】を解除し、《果ての弓》を引く。
「これで__!」
__あなたのものなんて1つもない。突然その言葉がフラッシュバックする。
「……っ、私は……迷わない!」
そこまで言って、苺は矢を放つ。矢は《ラドン》の口内に命中し、HPが一気に減るが……0にはならない。《ラドン》はそのまま立ち尽くす苺を床を抉り、丸ごと呑み込んだ。
『……呆気ないものね、人の死は』
《ヘラ・ユーベル》はただ一言、そう呟いた。
『___ッ!?』
しかし突然、《ラドン》が巨体を震わせ悶え苦しむ。しばらくすると《ラドン》はHPが0になり、消滅する。
『これは……驚いたわ、まさか不死を突破するなんて』
『ベリーの……真閻解の力?』
《ベリードール・ユーベル》の【真絶解】に、時間経過によるステータスの上昇と視界を奪う能力があるように、【真閻解】もまたスキル以外に何かしらの能力はある。ある、とは言ってもそれが覚醒していなければ発動は出来ない。いつ、どのタイミングでその力を獲得したのかわからないが、苺の【真閻解】は黄金のリンゴの効果を無効化したのだ。
(この何かキッカケさえあれば成長し続けるベリーの能力……それが全て受け継いだ力……? 元々は五島文桔が設定したもののはず……何故自分の邪魔になるものをわざわざ……)
ローゼは思考するが、今は考えている場合ではない。ローゼは思考をやめ、《ヘラ・ユーベル》とヘスペリデス達を注意深く観察する。
『アレもめんどくさい事するわね、理解出来ないわ』
「そ、それよりっ、次は……」
『あぁ、この子達は戦えないから見逃してあげてね』
《ヘラ・ユーベル》はヘスペリデス達を見て、そう言いながらゆっくりと、浮遊するように木から降りる。
『不死が突破されるならわざわざ食べる必要も無いわね』
そう言うと《ヘラ・ユーベル》は拳を作り、腰を軽く落として構える。
「えっと……武器って……?」
『これよ』
そう言った瞬間、《ヘラ・ユーベル》は一瞬で苺の懐に入る。
「あっ!?」
『【絶対回避】も、【見切り】もリキャストタイム終了までまだ少しあるわよ……ねッ!』
《ヘラ・ユーベル》は拳を苺のみぞおちに突き出し、正拳突きをかます。衝撃で中央の木が揺れ、草花や木の燃えカスが舞う。
「ガハッ! つよ……ッ」
『ベリー! そのままだと外に!!!』
吹き飛ばされても受け止めてくれる壁は《ラドン》が破壊している。外に落ちればまた再攻略しなくてはならない。
「ぐっ……!!!」
苺は刀を床に突き刺し、ギリギリで踏み留まる。
『遅いッ!』
苺が《ヘラ・ユーベル》の姿を確認しようと顔を上げた瞬間に、《ヘラ・ユーベル》の回し蹴りが苺を襲う。HPも素手や蹴り技とは思えない程減少している。
『ば、化け物ですか!?』
『そりゃモンスターだし』
ローゼの言葉に軽くジャンプしながら《ヘラ・ユーベル》は答える。
『あたしのパンチはあのゼウスも悶絶する。耐えてるところを見るとあなたも充分化け物ね』
「うぐ……あんまり嬉しくないかも……」
『ま、そろそろ配置に着いただろうし、なるべく長く楽しませてよね!』
そう言うと《ヘラ・ユーベル》は追撃に苺を蹴り上げ天井に衝突させると、ジャンプしてまるでドロップキックのように押し蹴り、さらに水晶の天井に身体をめり込ませた。




