真編・第38話【冥神獣《ハデスロゥグ・ユーベル》】
部屋の温度が急激に下がり、体温が奪われる。
『●▲▲▼__ッ!!!』
《ハデスロゥグ・ユーベル》は伏せるような姿勢を取ると、長い尾をゆらゆらと持ち上げる。
「なにを……」
三嶋がそう言った次の瞬間、二叉の尾は恐るべきスピードで三嶋の横を通り、地面を抉った。
「ぜ、全員散開!」
鈴の言葉に皆が足を動かしたと同時に、《ハデスロゥグ・ユーベル》は尾による連続攻撃を行う。
「あぶなっ! 【アクセルブースト】、【絶対回避】!」
鈴はスキルを発動して、抉れた地面の破片が当たらないように注意しながら走る。
《ハデスロゥグ・ユーベル》の二叉の尾は先端が鋭い槍のようになっており、返しも無いため地面から抜けなくなるということは無く、スルリと抜けるので1秒間に3回のスピードで攻撃している。さらに白い冷気が舞い上がることで視界も悪くなる。
「【幻手】……!」
正樹が【幻手】を用いて尾を掴み、攻撃を止めようと試みるが……《ハデスロゥグ・ユーベル》はすぐに気付き、照準を合わせると【幻手】を貫く。
「体力が続く限り、永遠にやってそうですねこれっ!」
そう言いながら回避を続ける白も、息が上がっている。このままではこちらが先に倒れてしまう。
「……鈴、正樹。おねがい」
「了解、【分身】【幻惑】ッ!」
「頼んだよ理乃さん! 【幻手】ッ!」
再度注意を引くために、鈴と正樹がスキルを発動する。《ハデスロゥグ・ユーベル》は標的をそれらに変更し、三嶋や白、理乃を無視して攻撃する。その隙に理乃は【創造】を開始する。
「【極創術】……!」
理乃は右手を前に突き出し、【神壊】を創り出す。さらに複数の創造陣を展開し、【神壊】に【攻撃変更・射】と【絶対必中】の効果を追加付与させる。
「行って……!」
1つに纏めた創造陣は模様が変化し、追加極創で能力が変化した【神壊】を理乃は放つ。
『▼▼▼▼……!』
しかし、《ハデスロゥグ・ユーベル》は姿を消す。これはユーベル能力ではなく、ハデスという冥界の神のモチーフであるが故の能力だ。ただ、この能力はただ姿を消すだけではない。
「【神壊】が……!?」
【絶対必中】を付与してあるはずの【神壊】は、《ハデスロゥグ・ユーベル》を追尾することなくそのまま壁に命中する。透明化……いや、存在そのものを一時的に無いものとして扱うことが出来るのだ。存在が無ければ攻撃も当たらないし、鈴達もその動きを絶対に感知出来ない。
『●▲▲orooOo!!!』
理乃の背後に出現した《ハデスロゥグ・ユーベル》は、翼腕である冷気の手で薙ぎ払い攻撃をする。
「あっっ……!」
再び防具が崩壊する。
「ッ! ライさん! あんたこの子の父親でしょう!? だったら返事くらいしてやってくださいよっ!」
三嶋はその光景を見て怒号する。《ハデスロゥグ・ユーベル》はその声に反応したのか、振り返って翼を広げる。
「【テレポート】、【ヒール】っ!」
白はその隙に理乃の元へ転移し、減っていくHPを回復させる。
「回復が追いつかないっ! 鈴!」
「うん、【クイックヒール】ッ!」
2人が回復スキルを発動するが、ジワジワと減るHPに対して回復量が足りない。
「な、なんで……さっきはこんな……!!! 理乃、理乃!」
「どうして回復が……。あれ……MPが自然回復しない……それどころか、減ってる?」
HPも回復しない、さらにMPは自然回復するどころか減っている。鈴は原因を探すが、《ハデスロゥグ・ユーベル》は三嶋と正樹を相手にしていてこっちには見向きもしていない……が、鈴は《ハデスロゥグ・ユーベル》のHPゲージを見て気付く。三嶋と正樹が攻撃して減少させたHPが少しずつではあるが回復している。そう、回復効果を奪っているのだ。
「……冷気だ! 翼から発生している冷気がHPとMPを吸収してる!」
「そ、それじゃあ回復出来ないじゃないですか!」
「私が冷気を止める! 翼を部位破壊すればきっと……!」
「待ってください、あれは冷気の手……攻撃を受ければ武器や防具は破壊されますよ!?」
「だから私がやる。触れなければいい、遠距離からの攻撃は得意だよ! 【クリンゲル・シックザール】ッ!」
鈴はそう言うと【クリンゲル・シックザール】で《ハデスロゥグ・ユーベル》の防御力を低下させ、《KS01》を二丁拳銃にして射撃を開始する。
『Gd◆trrtxッ!』
「苺が帰った時に理乃が居なかったら……絶対悲しむ、もう二度と笑ってくれなくなるかもしれない……! 私がそうさせない、私がやるんだッ! 理乃も、苺も、皆を助けるッ!」
「__鈴……」
「理乃、身体を起こしてはいけません、傷が開きます!」
「【極創術】……【神壊】、エンチャント効果、付与……」
理乃は白の声を無視してボロボロの身体を起こし、右手を鈴に向かって伸ばす。そして、エンチャント効果が付与された【神壊】を放つ。
「……! 理乃!」
「おとーさん……を、おねがい……す…ず……」
理乃はそう言うと、静かに目を瞑る。
「__HPは……ギリギリ、耐えてますね。はぁ……良かった……」
白は理乃のHPを確認してホッと息を吐く。気絶しただけのようだ。
『K○○▲▲o▲▲yb▼ッッ!!!』
「【クリンゲルショット】ッ!」
鈴は確実に翼を撃ち抜いていく。しかしMPが吸収されているため、スキルの多用は出来ない。
遠距離から攻撃をする鈴に向かって、《ハデスロゥグ・ユーベル》は口元から雷が走らせると雷砲を吐く。
「【アクセルブースト】ッ!」
鈴は自身の俊敏力を上昇させて雷砲を回避する。続けて《ハデスロゥグ・ユーベル》はリチャージすると、今度は上へ向かって雷を吐く。雷は天井に当たると、反射し地面へ。さらに反射し壁へ、雷はその形を残しながら複雑な網のようになっていき、鈴を取り囲む。
「っ、速い……ッ!」
その巨体からは想像も出来ない行動スピードに、鈴は追い詰められる。
『Gf■x……▼【Bident Over Explosion】△◆▲……ッ!』
「ッ! 砕けぇぇぇええええ!!!」
鈴は瞬時にスナイパーライフルに変え、強く光る《ハデスロゥグ・ユーベル》の尾を狙って撃ち抜く。
『___ッ!?』
命中した弾丸から【神壊】の力が働き、《ハデスロゥグ・ユーベル》の尾が壊れていく。
「次……ッ!」
怯んだ隙に鈴は翼へ照準を合わせ、狙撃する。それにより翼の鱗が破壊され、中の冷気の手が剥き出しになる。
「わざわざ鱗で覆うってことはそれ、弱点だよね!」
冷気だからと攻撃は当たらないと勝手に思っていた。だが進化前の冷気の手による攻撃は明らかに物理技だった。それを覆い隠すということは、それを狙われるのを恐れたからだ。
鈴の言ったことは見事命中し、冷気の手に弾丸を撃ち込むとこれまでの与ダメージを遥かに超えるダメージを与えた。さらに【神壊】の効果が発動し、翼がどんどん崩れていく。
「これで___ッ!?」
『△▼◆rrrr………』
翼を完全に破壊しようとした時、《ハデスロゥグ・ユーベル》はその姿、存在を消す。
「くっ……! 武装破壊、進化、透明化、身体能力、回復効果とMP吸収……いろいろ盛り過ぎ!」
鈴はそう言って勘に任せて周囲を狙撃してみるが、当たることは無い。
「HPを回復出来ない以上【クリンゲル・シックザール】を使う訳にもいかないし……あぁそもそも攻撃が当たらないからスキルも効かないか……! 早く苺のところに行きたいのにッ!」
___一足先に行かせてやろう。その言葉が聞こえた瞬間、鈴の目の前には鱗が全て剥がれ、仮面以外の全身が冷気になっている《ハデスロゥグ・ユーベル》が現れた。




