真編・第36話【捜索開始】
「……! 《ログモゥズ》が!」
突然慌てた様子でジタバタとし始めた《ログモゥズ》を見て三嶋は確信する。苺達がやってくれたのだと。
「タケちゃん!」
「あぁ! 決めるぞ八神っ!」
2人は天を差しながら互いの武器を交差させる。
「補助します! 【パワーアップ・フィールド】展開、【エンチャント・フレイム】ッ!」
その2人に白は補助を施し、邪魔をされないようファングと共に周囲のモンスターを殲滅する。
「俺の武器、返してもらうぞ!」
「【サン・グロウ】ッ!」
八神が発動した【サン・グロウ】により、火、光属性の効果が倍加と、斬、突による攻撃時、対象に追加攻撃が付与される。太陽のように輝く武器を手に三嶋と八神は同時に走り出し、スキルを発動する。
「「【スターク・シュトース】ッ!!!」」
『グルル▲ルr*(vオォォオオオ◆Ufb◇▼▼xT+オオ●!?!?』
《ログモゥズ》の身体を槍と杖で突くと、光の渦が発生しその巨体を捻り、吹き飛ばす。そして空に浮いた《ログモゥズ》を囲むように白い剣が多数出現し、《ログモゥズ》の至る所に突き刺さっていく。白い剣……《白薔薇の剣》とよく似た剣が消えると、《ログモゥズ》も同時に消滅していく。三嶋はドロップアイテムとして《巨躯槍・壊》を取り戻した。そして、【テレポート】をして来た鈴達が合流する。
「居た! 三嶋さん!」
「ボス級モンスターは討伐した! ……あと気になる事がいくつかあるが……とりあえず掃討するぞ!」
苺の姿が見えないことに違和感と不安感を感じながら三嶋は言う。
「掃討なら任せなさい! 眷属よ、私の声を聞け! 【全召喚】っ!」
「ん……【ラグナロク】」
林檎、理乃による召喚された味方モンスターの数は、残っているユーベル化モンスターの数を越え、ファングも加わり殲滅していく。
「なかなか凄い光景だな……」
「そ、そうだねタケちゃん……」
三嶋と八神は大量のモンスター同士が戦闘をしていく光景に、冷や汗を垂らして眺める。【ラグナロク】の効果で全て片付くまで発動し続ける。さらに林檎の【全召喚】もかなりの数が居り、林檎の指示で的確にユーベル化モンスターを討伐していく。
「さ、皆。休んでる暇はないよ」
鈴が三嶋達を見てそう言う。
「そうだ、そうだよ! 苺ちゃんはどこ!? 小さすぎて私の視界に入ってないだけ!?」
「それ苺が聞いてたら怒りますよ、多分。まぁ安心してください八神さん、苺は無事らしいです。ローゼからメッセージ飛んできたので」
「……? じゃあ何処にいるんだ?」
「下です。……苺ならもう階層ダンジョンを登ってると思います。だから動ける人は一緒に来て欲しいんです! お願いします!」
なぜ唐突に下階層に居るのか疑問だが、三嶋はマップを開く。
「ここからダンジョンまでそう遠くはない、というか街中だしな。数分で行けるはずだからすぐ出発しよう」
「来てくれるんですか!」
「当たり前だろ、まだ戦える。あ、八神はここに残れ」
「あうえ、なんで!?」
「高レベルプレイヤーがここに居なくなったらまた攻撃を仕掛けてくるかもしれないだろう? だから八神と……あと2人は残ってもらう」
今回の事もあって、三嶋は慎重になっている。可能性は低いが……念には念を入れなければ待つのは全滅だ。
「__んじゃあ、残るのは俺と林檎だ。俺は右腕ねぇから足でまといになるかもしれないし、あと単純に持久戦は得意だから任せろ! ってことだな。林檎はサポート万能だし、召喚してもらえば数も稼げるから居てくれたら安心だ」
「そういうことなら了解したわ。鈴、必ず苺を連れ帰ってね」
「もちろん、絶対に連れ帰るよ」
林檎に向かって、鈴は強く答える。
「そうすると捜索隊にサポートが居なくなりますね……わたしも行きます」
「白……ありがとう、心強いよ!」
こうして小さな捜索隊が結成される。鈴を先頭に、正樹、理乃、白、三嶋が《クインテットタウン》へ向かい、第四階層へ続く階層ダンジョンに潜る。
* * *
第四階層ダンジョン内部は壁も床も天井も、全てが水晶で出来ており、外の光を通して煌めき、中を照らしていた。神秘的ではあるが、鈴達はその光景を見て青晶龍を思い出してしまう。
「……鈴」
「あ、ご、ごめんごめん! 私が立ち止まってたらみんな行けないよね!」
そう笑うと鈴は前へ歩き出す。ダンジョンを降りていくが、戦闘が出来そうな場所に来てもモンスターは1体も出現しない。それを白は不審に思う。
「……モンスター、全く来ませんね」
「予想だが、全部八坂さんのところに現れてるんだろう」
三嶋の予想は当たっており、全てのモンスターは苺のところに居る。ただでさえ高難易度のダンジョンなのに、1人で全モンスターを相手にしているのだ、疲労すれば最悪の事態になりかねない。
「ん、あれは……? 皆さん! あそこに何か書いてあります!」
後ろから周囲を警戒しつつ進んでいた正樹が声を上げる。一部分だけ色が濃い水晶の壁に、何やら文字が彫られていた。
「……読めない」
理乃は数秒凝視して言った。
「これは……どこの言語でも無さそうだ。多分オリジナルの……そういえばゲーム時代に導入したっけな、もしかしたら読めるかもしれない」
三嶋はそう言うと、しばらく壁の前で顎に手を当て文字を凝視する。少しすると、三嶋はハッとした表情に変わり、メニュー画面を表示させる。
「これは……まずいっ!」
「三嶋さん、何が書いてあったんですか!」
「簡潔に言うと……このダンジョンには今日しか居られない、0時丁度になると強制的に外に出される!」
制限付きのダンジョンはゲームだった頃にも存在しており、通常の攻略ならばさほど気にするものでも無い……だが今回は苺の捜索がメインだ。現時刻は18時……あと約6時間以内に苺を見つけ、モンスターを倒しつつ上へ戻らなくてはならない。外に出されるというのが入った地点ならば、鈴達は《クインテットタウン》内のダンジョン前に、苺は第四階層のダンジョン前になってしまうため、振り出しに戻されてまた1からの捜索になってしまう。
「苺……!」
「あ、鈴! 待ってください! 単独行動は危険です、わたしには2人も探す気力も体力もありませんよ!」
「そ……そうだよね、みんな戦闘後で疲れてるのに……ごめん」
「一条さん、気持ちはわかります。でもこの捜索隊のリーダーである一条さんが判断を怠ったら……全滅します」
「うん、ごめんね正樹君。正樹君も苺が心配なはずなのに……私もしっかりしないとね!」
そう言って下へ続く階段を1段降りた直後、鈴は何かの気配を察知する。
「この下に……居る。理乃、多分__」
「……おとーさん」
五島から何か命令されているとしたら、苺のことだろう。拘束か、あるいは抹殺を命じられているはずだ。
「苺のことも心配だけど、ここを突破しないと進めないし。それに理乃のお母さんが言ってた希望も、受け取らなきゃね」
「……ん」
理乃は鈴の言葉に頷いて返す。鈴達は武器を持ち、静かにひんやりとした階段を降りて行った。それが希望へ続く階段だと信じて。
ボスラッシュになりそう……
(今までも割とそうだけど……)




