真編・第35話【極創】
『■▲▲▲……』
《ペルセポネ・ユーベル》の仮面の眼球に光が集まって行く。
「___危ない、理乃ッ!」
「っ!! 【創造・盾】……《アキレウス》、【カウンター】……!」
鈴の呼びかけで正気に戻った理乃は盾を創造し、放出された光を防ぐ。《ペルセポネ・ユーベル》は返された光をヒラリと難なく交わし、自身の周囲に氷の結晶を生成する。
「【一閃】ッ!」
「【ブレイドビーム】ッ!」
正樹と林檎が放った光の刃は氷の結晶を破壊する。しかしそれを気にすることなく《ペルセポネ・ユーベル》は生成を続け、鈴に一点集中して放つ。
「【アクセルブースト】……っ!」
鈴は俊敏力を上げて回避を試みる……が。
『●●▼……』
「なっ、スキルキャンセル!?」
【スキルキャンセル】により阻止され、避ける間もなく直撃する。
「鈴っ!!?」
「一条さん!!!」
「【創造・スキル】……! 【クイックヒール】……!」
砂埃でよく見えないが、鈴の姿は確認出来る。理乃はすぐに【クイックヒール】で減ったであろう鈴のHPを即時回復させる。
「ケホッ! 助かったよ理乃」
「私の方こそ……」
しかし安心している暇はない。《ペルセポネ・ユーベル》によって蘇生されたユーベル化モンスターも数多くいる。
「【幻手・現ノ呪腕】……【幻月】ッ!」
「【幻惑】!」
【幻月】の効果で2人になった正樹を、鈴は【幻惑】を発動してさらに複数人居るように見せる。
「周辺に出現したモンスターは僕と大斗で対処します! 【烈・一閃】ッ!」
「……ん。それで……鈴」
理乃は少し不安そうに鈴を見つめて言う。
「お母さん……って言ってたよね。本当なの?」
「……うん、確かに聞いた……あれはおかーさんの声……」
「つまり《ペルセポネ・ユーベル》は……人とモンスターの融合体」
世界融合が出来るなら、全く異なる別の種族同士も融合が可能ということ。《ログモゥズ》も武器との融合を成しているため、この融合技術は完成していると言っていいだろう。
『■◆■◇__ッ!!!』
《ペルセポネ・ユーベル》は絶叫し、両手に紫炎を生成する。その炎はみるみる大きくなり、《ペルセポネ・ユーベル》が両手を天に掲げて1つにすると、それは3倍もの大きさになる。
「っ、理乃……最初に言っておく! 多分助けられない、融合を分離するにはきっと《ペルセポネ・ユーベル》にアクセスする必要がある。でもどうアクセスすればいいかわからないし、しようにも操作する端末がない!」
「わかってる……それでも、諦めない……!」
それを諦めてしまえば、この世界を分離させて元の世界に戻すことも……叶わない気がするのだ。理乃は自分の母が苦しんでる声を聞きながら【創造】で片手直剣の《エクスカリバー》、盾ではなく、鎧の《アイギス》を装備する。
「そう……なら私も諦めないよ!」
鈴はランチャーモードの《KS01》を構え、紫炎に照準を合わせる。
「全チャージ完了、【エクスプロージョン・ショット】ッ!」
「アシストするわ! 【重拘束】ッ!」
『■●◇△●ッ!?』
林檎の《ニュートン》による重力で、《ペルセポネ・ユーベル》を拘束する。紫炎はそれによって不完全状態で放出される。【エクスプロージョン・ショット】と紫炎が衝突すると、混ざり合い、1つの球体となる。その瞬間球体は膨張し、一気に収縮、その後消滅する。
「消えた……ってそんなこと言ってる場合じゃない!」
《ペルセポネ・ユーベル》は【重拘束】の中、再び紫炎を生成する。
『/□壊▲……▼嫌、○◆◆■殺□△……!』
「周りに炎が!」
《ペルセポネ・ユーベル》は紫炎を地面に吸い込ませる。すると周囲の黒の大地から同じような炎が噴き出し始める。鈴はその炎を避けながら敵を観察する。
「おい! これどうなってんだ!?」
「大斗、正樹君! そっちはもういいの?」
出現したユーベル化モンスターを片付けた大斗と正樹が鈴達と合流する。変化したフィールドに大斗と正樹は戸惑っている。
「出現していたユーベル化モンスター達はとりあえず。でもまた蘇生されたらキリがない……」
倒しても倒しても、蘇生されれば数は無限。やはり元となる《ペルセポネ・ユーベル》をどうにかしなければ蘇生は続くし、三嶋達も《ログモゥズ》を倒せない。
「おかーさん……! どうして……そこに居るの?」
『,◇4ノ……●……』
《ペルセポネ・ユーベル》の仮面の眼球は常時動き、鈴達を見ているが仮面の内側にある本当の顔は口を固く閉ざし、涙を流し続けている。
「理乃の声が届いている……?」
《ペルセポネ・ユーベル》の様子が違うことに鈴が気付き呟く。
「なら呼びかけ続ければもしかするかも知れないわよ!」
「うん……!」
理乃の声を届け、助けるために__
『駄…M▼……理○▼__乃……』
「……おかーさん!?」
《ペルセポネ・ユーベル》……いや、理沙・スフィールはノイズ混じりの声で言う。
『も◇う私●◆、身体▲はこ(^の世界に■存在しな△い……』
「存在しない……? じゃあ分離は……!」
『分離しても◆魂を宿すものが無□▼の、そレに、分離という◆□プログ◆□rム―^⊂は■_◇そロもそmm設定さ<○れていない』
「そん…な……! じゃあ、私は……私達は……!」
設定されていなければ出来ない。何をどうしようと分離出来ない。この世界も、元に戻すというものが設定されてなければ……。
『でm○ね、あの人▲はやり遂◆げtA、偽神■の目を欺い((た……お父サん○に、ライに会っ△△て……●ライが手にしたキボウを、あなt達……が___▼■⊂■●○◇ッ!』
「おかーさん、おかーさん……っ!」
理沙は再びユーベル化モンスター特有の声を発すると、その顔は全て仮面に覆い隠される。中央の眼球がより一層強く鈴達を睨む。
「理乃……」
「……………」
理乃は俯き、剣を強く握る。
「林檎……アレを拘束して」
「え……拘束って……」
声を低くして理乃は言う。
「大斗、正樹……アレの両腕を斬り落として」
「理乃……いいのか? 本当に、母親を」
「……あれは、おかーさんじゃない……おかーさんの魂を縛り付けているただの檻。そんな檻は壊さなきゃいけない……おかーさんを開放してあげなきゃいけない……だから___」
そこまで言って、理乃は皆に頭を下げる。
「みんな……手伝って……」
「わかったよ理乃、それを理乃が望むなら……【クリンゲル・シックザール】」
鈴はそう言うと《ペルセポネ・ユーベル》の防御力を引き下げる。
「わかった、でもやるなら一撃だ。一瞬で終わらせよう……なるべく痛まないようにな」
「うん……ありがとう、大斗」
理乃は微笑みそう伝える。一撃で、一瞬で……あの膨大なHPを削る方法。【ラグナロク】では一撃では終わらない……各種フィニッシュスキルでも火力が足りない。ならばと理乃は、【創造】する。
「心を……開放するために……っ!」
『◆▼▼△□●ッッッ!!!』
理乃が創り始めた時、《ペルセポネ・ユーベル》は仮面の眼球に光を集束させる。加えて両手に冷気を纏わせ始めた。
「……ッ! 邪魔はさせないわよ!」
「うん……! 【幻手】ッ!」
林檎の《ニュートン》による【重束縛】……《ペルセポネ・ユーベル》は重さに耐えされず地面に手や膝を着くと、膝や手が地面にめり込む。さらに正樹の【幻手】で《ペルセポネ・ユーベル》の身体を押さえ付ける。
『__◆_●●△___ッ!!!』
「おかーさん、安心して………必ず、希望を絶えさせたりなんかしないから……【極創術・神壊】」
職業、《創造者》の熟練度がMAXになると使用可能となる【極創術】というユニークスキルは、自身のイメージ力さえあれば自在に創造することが出来る。つまり、今発動した神を壊す【神壊】は理乃が生み出したオリジナルスキルだ。
『_▼▼▲a_Aa◇__a▲aA___!!?』
《ペルセポネ・ユーベル》の身体は割れ始め、砂のように崩れ落ちていく。しかし仮面が割れた瞬間、集束していた光が分散され流星のように放出される。
「【パーフェクトガード】ッ!」
「大斗……!」
「俺が必ず守る。だから安心して前に出ろよ」
無数の流星を防ぎ切ると、大斗はそう言って武器を仕舞う。
「あ、理乃あれ!」
鈴が空を指差しながら理乃に言う。釣られて空を見上げると、そこには消滅時の光の粒とは異なる別の光……理沙の魂の光が天へ昇っていた。
「おかーさん……。みんな、早く合流しよう」
「そうね、まだモンスターは全部片付けてないわ」
「うん、パパッと片付けて苺を探さなきゃ!」
その場を後にし、鈴達は三嶋達の元へ全力疾走で駆け付ける。《ペルセポネ・ユーベル》が居なくなった今、即時蘇生はされないため《ログモゥズ》も討伐可能。さらにユーベル化モンスターもこれ以上は出現しない。あとは残党を処理し、階層ダンジョンへ向かうだけだ。




