真編・第34話【冥界の女王】
「【テレポート】ッ! ったはぁぁやっと《バベルの塔》が見えたぁぁ!」
「【創造・スキル】……【テレポート】」
鈴と理乃の【テレポート】を繰り返し、《バベルの塔》を目視する。
「敵も見えたな……」
「ええ、というか塔の前に居るのって……」
それは黒の大地を作り、討伐されたモンスターをユーベル化させて蘇生した大型のモンスターだった。
「急ぐよ! 【加速】ッ!」
「のわっっ!? 急にそれ発動するな!」
「口閉じてないと舌噛むよ!」
鈴が【加速】を発動し、大斗達を引っ張って走る。
「モンスターネームが見えました! 名前は……《ペルセポネ・ユーベル》……!」
確認した正樹がその名を言う。ペルセポネ……オリュンポスと同等の力を持つ冥界の女王。
『◇●………?』
《ペルセポネ・ユーベル》もこちらに気付いたのか、ゆっくりと振り返る。白い肌に漆黒のドレス……顔を隠す仮面の中央には大きな紅い眼があり、ギョロリと鈴達を睨む。
「皆! まずはあいつから倒すよ! 【クリンゲル・シックザール】っ!」
「了解よ! 《金狼》っ!」
『アォォーーン!!!』
すると《ペルセポネ・ユーベル》はこちらに攻撃の意思があるとわかったのか、ユーベル化モンスター達を数体出現させる。
「今更怖かねぇよ! コイツらは任せとけ! 【挑発】ッ!」
「大斗! これ使って!」
鈴達を素通りし、【挑発】を発動した大斗にユーベル化モンスター達は向かっていく。正樹が【幻手】を大斗の右腕に合うように大きさを調整して放つ。
「っと! サンキュー正樹! 【勇刻】…!」
【幻手】を受け取った大斗は、すぐに《勇刻ノ剣》を装備し、【勇刻】を発動していく。
「理乃、先制攻撃よろしく!」
「……ん、【創造・槍】……《ゲイボルク》」
鈴の指示で理乃は《ゲイボルク》を創り、装備する。走っていた足を止め、投げる姿勢を取る。
「……ゲイボルク__!」
__フィニッシュ……そう続けて言った瞬間。
『R◆…▼o……た……s■k__』
「っ!?」
理乃は発動された【ゲイボルク・フィニッシュ】を姿勢を変えて無理矢理軌道をずらし、地面にぶつける。
「り、理乃!? どうしたの!?」
予想外の理乃の行動に、鈴は足を止めて言う。
「今……喋った……」
「…? 今までだって普通に喋るヤツとか普通に居たじゃない」
「違う……!」
理乃は声を荒らげて言う。
「どうして…なんで……! あれ、あれは………おかー…さん……?」
理乃はこちらにゆっくりと近付いてくる《ペルセポネ・ユーベル》を見つめながら、声を震わせて言った。
* * *
__時は少し遡る。
「は……? 社長、これは……」
《バベルの塔》にて、五島に第100階層・Cフロアに招かれたライは、目の前にあるものを見て冷や汗を垂らす。
「突然のことで戸惑っているだろうな、当然だ。今まで家族のためにオレの指示に従っていたのに、こんなものを見せられてはな」
スクリーンに映し出されているのは……協力する代わりに家族には手を出さないと約束したはずの、その家族の1人。ライの娘である理乃の戦う姿だった。
「どうして……どうしてですか社長っ! いや五島ッ!」
内心ではもうわかっていた。この偽神が創り上げた塔から出ることも許されず、家族に会うことも許されず、ただひたすらモンスターの調整だけをしていた。既に手は打ってある。無事にここを脱出し、三嶋に“コレ”を渡すまでは死ねない。
「モンスターの調整も全て完了、そしてこの世界の維持はオレ1人で事足りる。ならばもうお前は用済みだろう? 最初からこうするつもりだった。しかし長年の付き合いだ……もう少し生かしておいてやろうとも思っていた……が、さすがオレの秘書だ、オレの考えを読んで何やらコソコソと裏切りの準備をしていたな?」
「……えぇ、しましたよ。でもこの行動は間違っていない! ワタシを裏切ったのは、あなたなのですから!」
「あぁそうだな。だが……神は時に人を裏切る、人の……代わりなんてない、大切なものすら躊躇なく破壊する。それがオレの知る神だ。そして……人が神を裏切るという行為は傲慢だ。罰を与える必要がある」
「罰……? ワタシのパラメーターを弄って苦痛でも与えるつもりですか……?」
ライが訝しげに言うと、五島は不敵に笑う。
「連帯責任だよ、ライ・スフィール。お前の家族にも罰を与える」
五島はそう言って端末を操作してCフロアの壁を開放し、ガラス張りになったDフロアの内部を見せる。
「……?」
「下を見てみろ」
「下………ハッ!? り、理沙!?」
Dフロアにあったのは、巨大なカプセル型の機械に閉じ込められている、理乃の母親である理沙だった。気を失っているのか……それとも既に死んでしまっているのかわからないが、目を閉じたまま動かない。
「【テレポート】」
「っ!?」
ライが理沙を確認した瞬間に、五島は【テレポート】を発動してライを理沙の隣のカプセルに転移させる。
「お前達2人には八坂苺とその仲間を殺してもらう。強制でな。物理的痛みよりこっちの方がお前達は堪えるだろう」
「___! __っ!!」
「あー、すまない。中の音は完全に遮断されているから喋っても聞こえないんだ。まぁ……人間の感覚を精々忘れないようにな。ククッ……ハハハハ!!!」
五島は大きく笑いながらその場を後にした__。




