真編・第33話【生贄】
「くそっ! 第一部隊は第三部隊と共に前へ! 後衛は前衛を支援! 第二部隊は疲労した者と交代していけ!」
敵の出現数の増加、さらに黒の大地から這い出てくるユーベル化モンスター達。絶望的戦力差を前に、作戦を変えて総動員で対処する。
「やめ……やめて、くれぇぇぇ!!! まだ…、娘の顔も見てないんだ! 許してくれよ……俺が何をしたって言うんだよォォォオ!!!」
第三部隊所属の男が泣き叫びながらユーベル化モンスターに押さえ付けられた身体を捻じり、なんとか抜け出そうとする。
「__オラァァァァァァア!!!」
その光景を目撃した三嶋は、自身の武器である《巨躯槍・壊》を投げ飛ばす。《巨躯槍・壊》は名前の通り、まるで巨人が扱うような長さを持つランスであり、その全長は約6mもある。さらに特定条件を満たすとスキル【巨躯化】が発動し、長さが8mまで巨大化する。三嶋は条件である自身のHPが最大HPの60%以下をクリアし、投げされた《巨躯槍・壊》は巨大化。一直線に飛んで行き、ユーベル化モンスターを貫いた。
『ギュルルガゥ……キェェ……』
奇妙な声を上げ、ユーベル化モンスターは消滅__した瞬間。圧倒的速度で身体が再生する。
「なっ!? なんだその再生スピードは!?」
驚く三嶋を尻目に、ユーベル化モンスターは《巨躯槍・壊》を掴むと軽々振り回す。その動作に、周囲の居る人達は警戒する。
『ギェッ!!!』
ユーベル化モンスターは、笑うように鳴くと《巨躯槍・壊》を無理矢理使用し、【巨躯化】を自分自身に発動する。
「……こいつは! いや、これがあの大型モンスターのユーベル化能力かッ!」
自身に向けて発動された【巨躯化】で、ユーベル化モンスターの身体はその形を変化させ、体格が大きくなっていく。
「ヒッ!? うわあああああああああ!!!!!」
そのすぐ横に居た巨躯化に男は巻き込まれて身体をモンスターの鋭利な爪で貫かれて一体化する。
「モンスターネーム……《ログモゥズ》」
《ログモゥズ》はワームのような口を持ち、ヌメリけがある分厚い皮膚……その背から生える歪な形の翼、その翼膜からは黒い液体のようなものが垂れていた。6つある死んだ魚の様な眼はどこか一点を見つめており、頭には天使の輪を思わせる黒い輪っかが浮遊していた。その怪物は三嶋のランス、《巨躯槍・壊》を捕食すると両腕から似た物を生やす。こうして《ログモゥズ》は完全体となった。
『グギルュゥゥアアアアアア!!!』
《ログモゥズ》は人の絶叫にも似た声を発すると、口から赤い炎を吹き出す。炎はおよそ100m先までレーザーの如く飛び、黒の大地を焼く。射線上に居た者達は真っ黒に焼け焦げて消滅。今の一撃で9人は消え去った。続けて両腕のランスを使い、近距離にある生命を無差別に殺していく。
「……邪悪、巨悪という言葉が相応しい見た目と行動ですね……」
モンスターも人間も関係なく殺傷する《ログモゥズ》を見て、白は言う。推定レベルはおよそ80……だと思いたいが、武器能力を吸収しているので実際はもっと高いだろう。
「予備の武器はあるからまだ戦える! むしろ喰われたのが《巨躯槍・壊》で良かった」
「と言いますと…?」
「【巨躯化】はあの武器だけに付属しているユニークスキルだが制限時間付きだ。ユーベル化で得た能力でそれを無視出来るって言うならヤバいが、元々の制限時間は5分なんだ」
「なるほど……あの形態が5分だけならまだ希望はありますね」
だが、ここまでのユーベル能力は黒の大地から這い出てくるユーベル化モンスター……これは範囲的な死者蘇生能力だろう。そしてそれを応用した即時再生、さらに例の大型モンスターの管理下にあるモンスターは武器スキルを強制使用出来る、そしてスキルを使用すると進化する……と言ったところだろう。
「スキル使用と進化を1つの能力として数えるならあの大型モンスターの能力は2つ……もしくは、別にまだ存在する……」
「その可能性もあるだろうな、名前さえわかれば予測を立てられるとは思うが……ずっと立ち止まったまま動かないから名前も確認出来ない……」
「っ、考えてる暇は無いみたいですよ!」
白がそう言った瞬間、《ログモゥズ》はまたも火線を吐く。
「「【絶対回避】ッ!」」
白と三嶋はほぼ同時に発言し、【絶対回避】を発動する。
「ファングっ!!!」
『グルァ!!!』
白の呼び掛けに答え、ファングは杖の状態から大型犬の形に変身する。そのままファングは駆け走り、《ログモゥズ》の左脚を噛みちぎる。
『◆ギュ▲ゴッ!?』
「八神さん!」
「はいよ!」
怯んだところに白と八神はスキルを発動する。
「「【ライジング・サン】ッ!!!」」
閃光する2つのエネルギー体は《ログモゥズ》に命中しその身体は崩れていく。
『グ◆ュルルr■ルアaア▲●アaaaアア!!!!!』
しかしすぐに再生してしまう。
『フgfュルルル▼rtvルル!!!』
「防御力はそれほど高くはないけど……!」
「この力は無制限ですかっ!?」
猛反撃してくる《ログモゥズ》の攻撃を交わしながら八神と白は言う。これまでとは格が違うユーベル能力……それほどの力、何かしら代償があるはずだ。
「代償は既に支払っている。お前達がどういう反応が楽しみだ」
白達の戦闘映像を見ながら《バベルの塔》で独り、五島は言った。




