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生まれて初めてゲームをしたらパーティーメンバーが最強すぎる件について!  作者: ゆーしゃエホーマキ
真章前編:Not Game Online

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真編・第32話【英雄不在】

 メッセージ受信から4時間。時刻は17:00を過ぎていた。

 周囲は落下物の影響で雪が舞い、白くなっていた。砕けて鋭くなっている水晶が散らばり、少しでも注意を怠ると足に刺さりそうだ。


「うぐ……ここは……」


 現在、苺は《カルテットタウン》の……世界の下層に落ちていた。つまりここは第四階層ということになる。


「まだ階層があったんだ……」


 ゲームシステムが導入された影響なのだろう。第四階層があるという事は、第三、第二、第一も恐らく存在している。


「はぁ、はぁ……」


 冷たい風が苺の身体を冷やしていき、体力が奪われる。空を見上げるとポッカリと穴が空いている事がわかる。かなりの高さから落ちたはずだが、無意識に【絶対回避】を発動したか、それとも雪がクッションになったのか、苺のHPは余裕があった。


「えっと、確かここら辺に……あった!」


 苺はアイテムポーチを探り、寒さに強い寒冷地仕様の防具を引っ張り出す。そして《霧雨・改》からその防具、《雪白(ユキシロ)》を装備する。白く、襟が長いので首まで隠れ、コートのような形状をしているのでかなり暖かい。スキル【霧雨】が使えなくなってしまうが、寒さで動けなくなると戦いずらい。それに先程の戦闘で体力をかなり消耗しているので今は消耗を抑え、回復に努めたい。


「これからどうしよう……みんな心配してるよね」


 上の階層を目指すなら、階層ダンジョンに潜らなければならない。だがその難易度がソロで攻略するようなものでもないことはよくわかっている。


「行くしか…ないよね!」


 苺は遠くにそびえ立つ見覚えのある塔を睨み言う。早く戻って鈴達を安心させるべく、苺は階層ダンジョンを目指して白銀の世界を1人歩き始めた。



* * *



 時は少し遡り、苺落下直後。


「大…丈夫……苺は生きてる。絶対に。必ず戻ってくる」


 鈴は自分に言い聞かせるように声を出す。しかし理乃や林檎は絶望からか腰を抜かし座り込んでいる。


「そんな、だって……さっきまで一緒に…居た…のに……」


 林檎は目に涙を浮かべ、声を震わしながら言う。


「いや、苺は生きてる」


 落ち着いた様子で大斗が言う。


「証拠は…あるの…?」


「あぁ、ローゼからメッセージが届いてる。苺が端末を持っててよかったな……」


 大斗はそう言いながらチャット画面を開いて眺める。『無事生存しています、安心してください』というメッセージが約1分前に届いていた。


「良かった……でも1人で下…第四階層なのかな、そこに居るって事だよね……ゲームシステムがあるから階層ダンジョンを攻略すれば戻ってこれるはずだけど……」


「1人じゃ流石に危険すぎるな、早く街に戻って捜索隊を結成しよう」


「そうだね、苺さんならきっと1人でも攻略を目指すだろうし……早く戻って僕達も階層ダンジョンに行こう」


 大斗の言葉に正樹は頷く。


「じゃあ、【テレポート】で飛べる範囲まで飛んで行こうか__ってメッセージ? 白からだ……どうしたんだろう」


 鈴がチャット画面を開くと、白からよくわからない文が送られていた。


「えぇっと。戦闘……オリュンポス……なるほど、予想はしてたけどオリュンポスも出してくるなんてね…」


 ギリギリ読み取れた言葉から、鈴は《クインテットタウン》にモンスターが出現していて交戦中ということを察する。


「でも、ここからじゃ……遠い……」


 理乃がそう呟く。【テレポート】で移動するには距離が遠すぎるため、鈴は何回か使用して街へ戻ろうとしていたのだが……それでは間に合わないかもしれない。


「移動手段は壊されちまったしな……とにかく急ぐか」


「そうだね、急ごう」


 そうして鈴は、全員が自分に掴まったことを確認すると【テレポート】を発動した。



* * *



 時はさらに遡り、苺達が出発してから数十分後。《クインテットタウン・北西門》にて。


「……八神、戦闘態勢だ」


「へ?」


「思ったより遅かったですね。さぁ、元製作側の実力を見せてもらいましょうか」


「いや、まぁ…あんまり期待はしないでくれ」


 立ち上がりながら言う白の言葉にプレッシャーを感じながら三嶋は答える。

 《クインテットタウン・北西門》付近で待機していた戦闘部隊の前に現れたのは大量のモンスターだ。爬虫類や兵器、猛獣など様々な種類のモンスターが数百は確実に超える数でこちらに迫っていた。


「先手必勝、ファング!」


『グルォォォォ!!!』


 白は早々にファングを呼び出し、モンスター達を蹴散らしていく。


「第一部隊、用意……!」


 そう指示したのは組織所属の百地見咲。この戦闘部隊のリーダーとなっている。見咲の指示で後衛職十数名がスキルを用意する。


「放てッ!!」


 合図を受け、遠距離爆撃スキル【フレアバーン】を発動する。こういった日が来ることを予想して、この部隊はフィールドに出て少しずつモンスターを狩っていた。平均レベルは45だが、人数は第一部隊だけで80名ほど居る。第三部隊まであり、総勢およそ250名だ。

 【フレアバーン】は放たれると光の尾を残し、曲線を描きながら敵陣中央に向かう。そして地面やモンスターに接触した瞬間に爆炎が発生して周囲を燃やす。80%の確率で火傷状態にするので持続的ダメージによりHPを削りきれなかったモンスターも簡単に仕留められる。


「次、【ヒール】用意!」


 遠距離攻撃をし終えると、前衛でモンスターの進行を抑えている三嶋達のHPを回復させる。この単純だがミスをすれば全滅も有り得る作戦を繰り返していく。


「報告! 後衛7名、MP切れです!」


「ならばMPが切れた者はすぐに後ろの待機組と交代! ポーションで回復して待機!」


 遠くの敵を爆撃し、それを回避したモンスター達を前衛職50名で対応する。しかし敵は無限にリポップし続けている。__およそ1時間前に第一部隊と交代した第二部隊に疲労が見え始めた頃には、戦闘開始から既に約2時間が経過していた。


「第二部隊、交代する! 第三部隊、突撃ッ!」


 見咲の指示で第二部隊と第三部隊が交代する。こうしてまた第三部隊の体力が消耗すれば第一部隊と交代、第一部隊が消耗すれば第二部隊と交代を繰り返して持久していき、苺達の帰還を待つというのが作戦なのだが……。


「っ! タケちゃん危ない!」


「八神、助かった!」


 このモンスター達の平均レベルは60。高いものでレベル70も少なからず居る。戦力差は見ての通り、モンスター側が優勢だ。そして他と比べレベルの高い白や三嶋、八神は休憩することなく、その身体が動くまで戦い続けている。だがいつか休まなくてはならない。そうなった時、代わりが居ないのでその瞬間に圧されてしまう可能性がある。


「【パワーアップ・フィールド】! 【ライトニング・レイン】ッ!」


『グルルッ!!!』


 白とファングも戦闘開始時に比べて動きが鈍くなっている。敵の攻撃をなんとか交わしているが……時間の問題だろう。そして、そんな“好機”を敵が見逃すはずもない。


「う、うそ……!」


「数を増やしやがったッ!! 全員持ちこたえてくれ!!」


 モンスターの数が急激に上昇。北西門前方のフィールドを埋めつくしていた。その数はおよそ1000体。


「か、観測隊より報告っ! 《バベルの塔》付近で大型モンスターの出現を確認!」


 さらに戦闘開始から4時間が経過しようとしていた時、《バベルの塔》の変化を常に監視している観測隊から報告があった。


「まさかオリュンポス!?」


「距離が遠くてモンスターネームの確認までは出来ませんでしたが……その可能性は高いと思われます!」


「まずい……このままじゃ……!」


 見咲は報告を聞くとそう言って唇を噛む。ただでさえ今の増えた敵の対処もギリギリなのに……それに加えてオリュンポスか、それに次ぐものが現れては防衛は難しい……いや、ほぼ不可能に近い。


「わたしがダメ元でメッセージを送ってみます!」


 白はそう言うとファングを残して後退。チャット画面を開き文字を打ち始める。それと同時に大型モンスターが両手を広げ、口を開く。


『◆▲____●●◇!』


 大型モンスターが何かを発すると、大地が真っ黒に染まっていく。黒の大地は大きく揺れ、下から奇妙な呻き声が響く。


「うっ……文字が上手く打てな___」


『ギュゥエエエエエエ!!!』


「っ!?」


 黒の大地から現れたのは数多くのモンスター達。その全てがユーベル化していた。白の傍に現れたモンスターは不気味に鳴きながら白に襲いかかる。突然のことに驚き、操作ミスをして変な文のまま送ってしまったが理解してくれることを信じて白は予備に持っていた腰の短剣を引き抜き攻撃をガードする。


「ファング! 戻って!」


『グォォオオオオッ!!!』


 そう叫ぶと、ファングは元の杖の形に戻り白へ向かって飛んでいく。


「そのままこいつを突き刺して!」


 白はモンスターを杖の射線上に誘導して言う。杖の物理攻撃はそれほど高くないが、半分はモンスターのようなもの。先程まで敵を蹴散らしていたのだから杖の状態でもかなり攻撃力はあるのだ。


『ギュグェェエエエ……!?』


 杖に心臓部分を突かれ、黒い血を流しながらモンスターは倒れる。


「ふぅ……ありがとうございます、ファング」


『グォン!』


 触手を伸ばし、主に触れて無事を確認したファングは嬉しそうに吠えた。

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