真編・第30話【エクストラクション・ハンマー】
__二刀流、それは苺の祖父であり剣の師匠でもある八坂重郎が苺に教えた本来の剣術だった。そして《ヘファイストス・ユーベル》が開いた真実…精神世界で見た黒い靄の刀、あれの正体がこの太刀だったのだろう。
「ッ!」
苺は水の抵抗を受けながら燃える二刀を強く振り払い、炎に隠れた瞬間に【真閻解・鬼神纏】が発動され姿が変化する。さらに熱で周囲の水が沸騰し始めると、苺は頭上から円を描く様にゆっくりと《鬼神ノ太刀・真閻》を振り、一周したタイミングで炎を球状に解放させ、周囲の水を押し退ける。
「【封解ノ術】…!」
そして《燈嶽ノ太刀・真閻》に付属されていたスキルを発動する。付属されていたスキルは全部で8つ。先代所有者が残してくれたものなのか、元々付属していたのかは今となってはわからないが、8つものスキルが付属した武器というのは最高レアリティの武器の中でも極々一部しか存在しないだろう。
【封解ノ術】は自身に悪影響を及ぼすものを消し去る効果を持つ。敵を丸ごと消し去ることはさすがに出来ないが、悪影響だと認識すれば効果が発動する為、行動制限される水を押し退けたということだ。
「待ってて皆…すぐ行くから! 【大閻解】ッ!」
《鬼神ノ太刀・真閻》を地面に刺し、【大閻解】を発動する。苺は巨大化する鍔に足を乗せ、水面へ一直線に向かう。
「解除! 【真・閻解ノ燈太刀・燈嶽纏・嵐舞】__ッ!」
水上へ飛び出した苺は【大閻解】を解除し、スキルを駆使して建物の残骸に着地する。
「苺…! 無事で良かった!」
「ん…信じてた…」
「鈴も理乃ちゃんもありがとう、一緒に行くよ!」
「了解! 【クリンゲル・シックザール】ッ!」
* * *
「いつまでッ…寝てる気だ、七瀬大斗ッ! 女子達に任せるとかカッコ悪すぎて後でめっちゃ恥ずかしいだろッ!」
大斗はそう言いながら傷だらけの身体で歯を食いしばり何とか起き上がる。
「まるでここに居る私は役に立たないみたいじゃない…! 【ヒール】ッ!」
「そんな事…ないです九宮さんっ、ポーション類は全部ダメになっちゃったから、回復助かります!」
「さ、早く合流しましょ、何の役にも立たずに終わる訳にはいかないもの」
林檎の回復で傷を癒し、理乃の作った防御球体を壊して出る。
「お、やっと起きたね」
チラリと大斗達の姿を確認した鈴は射撃しながら言う。
「悪い、遅くなった!」
「状況はどうなってるの?」
「私が防御力ダウンさせて苺と理乃が攻撃中、でも……」
「全く減ってない…ですね」
《ポセイドン・ユーベル》のHPを確認した正樹が険しい表情で言う。
「というか苺…あれ二刀流か?」
「あれね…水の中から出てきたらこうなってたんだよ、後でじっくり聞かせてもらおうかな」
しかし高い防御力を誇る《ポセイドン・ユーベル》は苺と理乃の攻撃を気にせずに《トライデント》で振り払う。その度に波が揺れ、建物の残骸を足場にしている苺達はバランスを崩してしまい攻撃が出来なくなる。
「……っ、【挑発】ッ!」
「ひ、大斗!? そんな事したら攻撃が全部…」
「それでいい、俺が引き付ける! それにアイツはもうスキルを使うだけのMPは残ってねぇ! 倒すなら今しかない!」
しかし大斗が引き付けても《ポセイドン・ユーベル》がその巨体を動かせば波が発生して足場が不安定になる。不安定な足場で攻撃しても良いダメージにはならない。
「……なら、まず槍を破壊するのはどうかしら!」
「槍…そっか、スキルバインドの効果が無くなれば理乃ちゃんの【創造】が使えるね!」
「ん……少し時間かかるけど…大丈夫……」
「そうと決まれば! 部分変身【雷公】ッ!」
『____ッ!!!』
苺が両腕に【雷公】を発動した瞬間に、《ポセイドン・ユーベル》が左腕を振り下ろす。苺達はそれぞれ飛び退き、別の残骸へ移る。
「来い、デカブツッ!」
『人間風情が神に勝てると思っているのか』
「神神うるせぇんだよ! そもそもお前の見た目、どう見ても特撮系の巨大ロボなんだよ! そんな奴が神とか笑わせる気か!?」
『神を愚弄するか…愚かな人間よ』
「ハッ、ロボ野郎だが、まぁこうして俺の挑発に乗ってるんだから多少は人間味があるな」
『何…?』
「隙だらけなのよッ!」
林檎の《ニュートン》による重力束縛で《ポセイドン・ユーベル》は水の中へどんどん沈んでいく。
『ぬぐぅ…ッ! だが、水は我の力、沈めたところで何の意味も無い!』
「沈めたのはその槍を振り回して欲しくなかったからよ!」
「【残刃解放】ッ!」
強い重力で身体を動かせない《ポセイドン・ユーベル》に、正樹は大斗が注意を引いていた際に仕掛けていた残刃を解放させ、《トライデント》を持つ右腕を切り刻む。
『__! Trident Over Ex___』
《ポセイドン・ユーベル》は苺達が何を考えているのか理解したようで、【Trident Over Explosion】を発動しようとする。
「お願い理乃! 【バウンド】!」
「…ん。【陸穿】……!」
それが発動されれば、《トライデント》は小さな刃になり縦横無尽に空を駆け巡る。そうなれば《トライデント》を破壊することはかなり難しい。その前に鈴は【バウンド】を設置し、理乃が飛んでその名の通り陸を穿つ程の威力を持つ【陸穿】を発動し、《ポセイドン・ユーベル》の頭を殴る様に剣を振る。
『▼□□◆▲∀ロA△A∞●ッ!?』
【陸穿】で頭が凹み、部品と思われるものが周囲に飛び散り警告音のような音を響かせながら《ポセイドン・ユーベル》は悶える。それとほぼ同時に残刃による連続攻撃で右腕を切断することに成功した。
「「【パワーアップ】ッ!」」
続いて鈴と林檎は苺の攻撃力を上昇させる。
「これでっ! 【真・閻解ノ燈太刀・雷公纏・雷鏖降災陣】__ッ!!!」
苺が発動した雷鏖降災陣は半径約30mに災害級の雷を発生させるスキルだ。相手に与える一撃のダメージが大きい分、範囲内にランダムで雷を落とすので中々当たらないというデメリットもある。だが苺はこれを《トライデント》に命中させ、身体の大きい《ポセイドン・ユーベル》も雷を直に受け麻痺の状態異常に陥る。しかし__
「壊れないっ!?」
命中はしたものの、《トライデント》を破壊するまでにはいかない。理由は単純、武器レアリティが高い故に耐久性能も高いのだ。
『《トライデント》の耐久値は最大200万、今のダメージ分を引くと……残り凡そ178万です! …しかも自己修復能力を持っているようです、2秒間に1のスピードで回復してますっ!』
「っ、なら…雷鏖降災陣を連続で…ッ!」
『それはダメです! その能力は範囲内でランダムに攻撃を発生、確率で麻痺を付与することが出来ます。ただ副作用として時間経過で自身のHPが減少していきます!』
「ほ、ほんとだ……危なかった、ありがとうローゼ!」
連続で使用すればその効果は重複していく。そうなれば苺のHPはすぐに無くなってしまうだろう。端末を介して他者のステータスを閲覧出来るローゼのおかげで助かった。
『ベリー自身《鬼神ノ太刀》のスキルの全てを把握している訳では無いですから、これくらいはしてみせます!』
「それじゃあどうすればいいかな?」
『過去に《ザ・アンステーブル・ユーベルデーモン・A》を倒した一撃…勝華爛漫なら出来るかもしれません、以前よりパワーアップもしてますしね……でも属性相性が悪すぎます、勝華爛漫は火…対して《トライデント》は水属性の武器です。いくら勝華爛漫の威力が高くても《トライデント》の耐久値を削り切るのは難しいでしょう…』
「うん、だから弱点属性の雷鏖降災陣を使ったんだけど…それでこれだもんね…」
苺は頭を悩ませる。しかし直に《ポセイドン・ユーベル》は麻痺から解放されてしまう。時間は残っていない。
「壊すのが無理なら……無力化…? でもそれもどうやって___あっ!」
すると苺はアイテムポーチを開き、何かを探し始める。
「あった! 《エクストラクション・ハンマー》!」
前にとあるクエストで入手していたこのハンマーは武器に付属しているスキルを抜き取り、別の武器へ付属…または自分のものにするというアイテムだ。しかし成功率は鍛冶師レベルに比例しているのでレベルが高くなければほとんど効果を発揮しない。
「前よりレベルも上がってるし…これでっ!」
そう言うと早速、《トライデント》をハンマーで軽く叩く。
『《トライデント》を確認。これより付属スキル【トライデント・スキルバインド】、【Trident・Over・Explosion】の抽出を開始します。』
「成功率87%! これなら!」
『【トライデント・スキルバインド】の抽出に成功しました。【Trident・Over・Explosion】の抽出に失敗しました。』
攻撃スキルのほうも抽出することが出来れば《ポセイドン・ユーベル》の攻撃を1つ無力化出来たのだが、作戦の成功には変わりない。
「理乃ちゃん! いけるよ!」
「ん……【創造】……!」
《トライデント》から能力を奪ったことでスキルバインドが強制解除された【創造】で、理乃は水面上に頑丈な床を生成する。身体の半分が水に浸かっている《ポセイドン・ユーベル》は巻き込まれて床と同化し、動かせる部位は左腕だけとなった。
「【攻焔伝播】!」
《燈嶽ノ太刀・真閻》の付属スキルの1つ、【攻焔伝播】は自身を中心とした範囲内の味方に自身の攻撃力を2で割った数値を上げるスキルだ。
「ナイス苺! さあ、お返しタイムの始まりだよ!」
鈴は《KS01》をショットガンモードにし、弾を装填して言った。




