真編・第29話【願いの継承】
またまた遅くなりましたァン!
(っ’-‘)╮ =͟͟͞͞『29話』ブォン
【Trident Over Explosion】が発動されると、《トライデント》が分解されて無数の刃となり空中に転移させた苺に向けて放たれる。その刃の一枚一枚が《トライデント》と同じ攻撃力を持つので連続で命中すればHPは一気に削れてしまう。
『【エンチャント・ブースト】』
さらに《ポセイドン・ユーベル》は不規則に暴れる刃の能力を底上げし、確実に苺を仕留めようとする。
「【見切り】ッ! くっ…【絶対回避】! 【真・閻解ノ燈太刀・激流纏・高霎】っ、8連ッ!」
苺は変形し巨大な人型兵器となった《ポセイドン・ユーベル》の猛攻をスキルを多用し回避していく。
『【ディリュージュ・ショット】』
無機質な腕から《ポセイドン・ユーベル》が放ったのは最初に見た水砲だった。20はある水の砲撃は一斉に天へ昇る。
「っ、【鬼神斬り・真閻】ッ!」
『人の力で神を殺せるものか』
苺はさらにスキルを発動して【Trident Over Explosion】と【ディリュージュ・ショット】を斬り防ぐ。
「まだ…遅いッ! もっと!」
しかし多すぎる攻撃、手数も速度も足りない。
『100%お前は勝てない。ただの1人の人間に、我を殺せるものか…ッ!』
「ぐああああッッ!!!」
ただの人間が神を殺せるはずがない。当たり前の事だろう、それもたった1人では____
足や腹に刃が深く突き刺さり、その後苺は水に落ちる。深く、重く、冷たく……孤独を感じる。水に血が溶け、傷にしみる。
『その小さき命、消し去るか……』
「…させない…っ! 【創造】!」
『【トライデント・スキルバインド】』
理乃は防御球体から出て応戦する。だが【創造】はスキルバインド能力で封じられてしまう。
「なら…これで…っ!」
理乃は装備画面を操作して、苺の作った片手直剣の《リクウガチ》と淡い空色の布地に軽装の鎧が取り付けられた《ソラヅツミ・改》を装備する。
「やぁっっ!!!」
「理乃! 援護するよ!」
鈴も浮かぶ建物の残骸にバランスを取りながら乗り、発砲する。
* * *
(息が……【激流】を発動させなきゃ……)
しかし酸欠と貧血でうまく思考が働かない。これでは【激流】を発動出来ない。
(真・閻解ノ……っ、ダメだ…発動出来ない…! 鈴と理乃ちゃんが戦ってくれてるのに…!)
流血でHPが減っていくに連れ、苺の意識も遠のいていく。
(……でも…このまま楽に__)
諦めてしまえば楽になれる、痛い思いもしなくて済む。ここで死んでも仕方ない、今までが奇跡のようなものだったのだから。
……だとしても、この奇跡が終わるのはまだ先だ。この奇跡は全ての事が片付くまで続かなくてはならない。
(まだ、私は…! 生きるッ!)
目を見開き、気をしっかり持つ。無理矢理、脳をフル回転させる。
(燃えろォォーーーッ!!!!!)
苺は水中で業火を発生させ、その炎の勢いで浮上しようとする。
(…あれ、炎が…?)
しかしその炎は勢いを増すどころかどんどん小さくなっていく。しかし苺自身には突き刺さった刃以外に特に異常は無く、何故炎が小さくなっていくのかわからない。
『適……検…、…合率…9.…%。…ス…ー登……始。』
苺は水中のはずなのだがハッキリとそのノイズだらけの音を聞く。
(何か下にある…私を呼んでる…?)
火は弱くなっているのではなく、何かに吸収されているようでずっと下に火の尾が続いていた。下に向かって泳いでいくと、《鬼神ノ太刀・真閻》の炎がさらに吸収されていく。
『登録完了。《燈嶽ノ太刀・終纏》の自動発動スキル、【継承】を発動します。』
今度はノイズも無く、しっかりシステムボイスが聞こえた。
(これは…太刀…? でもなんでこんなところに…でもこの太刀、前にも……)
【継承】というスキルが発動されたと同時に、苺は水の底に突き刺さり紅く光る一刀の太刀を見つける。そしてその太刀を見た瞬間、あの時の光景を思い出す。それがトリガーとなったのか紅く光る太刀…《燈嶽ノ太刀・終纏》がさらに強く点滅を繰り返す。
(うぐっ…頭がっ!)
いきなり苺は以前の連続的スキルの使用による頭痛とは比べ物にならないほど強い頭痛を感じて気を失う。苺の身体はそのままゆっくりと沈み、水の底…《燈嶽ノ太刀・終纏》の横に倒れる。
* * *
「__夏休みの頃、わたしはあるゲームを始めた」
(…っ?)
苺は聞いたことの無い声を聞いて目覚める。いや、正確には目覚めていない。ここは夢のような場所……精神世界だ。しかしここは苺の精神世界ではない。現在苺の身体は半透明化し、この状況を閲覧している状態だ。現に目の前で語る女の子は苺の存在を認識していないように見える。
そしてその姿を苺は初めて見る。会ったことのない人物なのだから、一体どこの誰なのかわかるはずもない。
「わたし達3人はゲームが好きで、よく一緒に対戦したり…協力したりして…そのゲームも3人で一緒に遊んでいました」
見た目から女の子は中学二年生かそのくらいだろうか、身長は苺と同じくらいの150cm。髪は腰まであり、花の髪飾りを付けていてとても可愛らしい女の子だった。
「わたしはそのゲームで前衛職について2人を守っていました」
女の子は懐かしそうな…そして悲しそうな顔をして言う。
「ある日、赤毛の犬に導かれた先…そこで鬼のモンスターと戦いました。凄く不思議な感じがしたけど、その鬼と全力で戦えて良かったって思います。…そしてその時に《燈嶽ノ太刀・猛火》を貰いました」
黒猫か赤毛の犬かの違いだが、その話は苺が《鬼神ノ太刀・烈火》を入手した経緯と酷似していた。
「でも…この刀はわたしに相応しくない、この刀の本当の所有者なら、“鎮鬼”や、まるで誰かに継がせることを前提とされているような“火継”なんて名前にはならなかった。そしてこの刀は、現実と仮想が融合したこの世界に入って“終纏”の名を持った……わたしの役目はここで終わったんです、継承の準備は整った…という事でしょう」
だが、まるで使い捨て…その場しのぎのように使われたのであろうその女の子は、笑顔だった。
「それはつまり、この惨状を終わらせる…それに相応しい英雄が居るって事なんです。わたしが世界を救うなんてこと出来るはずないですから。だからわたしは、その役目を無事に終えられて良かったと思うべきなんです」
「英…雄……私は英雄なんかじゃ……」
苺は顔を暗くして呟く。すると女の子はその存在に気付いていたのか、苺の方を見て言う。
「確かにあなたは英雄じゃありません。わたしと同じ、ゲームが好きなただの人です……でも、あなたはこれからゲームの枠を越え、それどころか現実の枠をも越えて…英雄になる資格があるんです」
「なんで私なの…? それなら鈴の方がよっぽど…」
「確かに、その人には素質があります。でも今この瞬間に必要なのはあなたという人間です」
「本当に…私でいいの?」
苺は手をぎゅっと握り締めて聞く。
「あんただから頼むんだよ」
別の子、笑顔が眩しい赤髪の少女がそう答える…その隣には黒髪の少女が微笑みながら立っている。
「私達が止めれなかったあの人を止めて、そしてあの子を解放してあげてくれないかな」
黒髪の少女はそれだけ伝えるとフッ…と消えてしまう。
「簡単に言えばあいつをぶっ飛ばしちゃってって事だよ! 本当はあの時…無理をしてでもあたしがやっておけばこんな事にはならなかったんだけどね、あはは……まぁ、力に呑まれるなって事だけ伝えとくよ!」
赤髪の少女はそう言うと手をひらひらと振って消えていく。
「原点の2人…いや、3人が残したこの力…ちゃんと継承させましたからね」
「あっ、待って…! あなた達の名前は…!」
消えかけていく女の子に手を伸ばしながら苺は言う。しかし女の子は首を振る。
「今呼ぶべき名前はわたし達の名前ではないですよ」
そう言って女の子は消えてしまった。それと同時に苺の身体の奥深くへ暖かいものが流れ込んでくる。
「……ありがとう、みんな! 絶対に止めてみせるから!」
瞳に涙を浮かべて苺は言った。
* * *
『継承完了、《鬼神ノ太刀・真閻》と同期します』
バチッという衝撃と共に苺は目覚め、左手には地面に突き刺さった《燈嶽ノ太刀・終纏》を握っていた。
(みんなの願い…確かに今、託されたッ!)
『同期完了、《燈嶽ノ太刀・真閻》へ派生しました』
システムボイスで同期が完了されたことを知ると、苺は地面から紅い刀身の《燈嶽ノ太刀・真閻》を勢い良く引き抜き、二刀の太刀を構えた。




