真編・第28話【Trident Over Explosion】
二回目の【ディリュージュ】から数十分、《ポセイドン・ユーベル》はずっと潜水したまま動きを見せていない。
「…! 大斗君!」
水面に浮かぶ大斗は頭に強い衝撃を受けたようでぐったりと気絶している。
「っ、どこか安全なところは…ない、よね…」
すぐ近くには理乃や正樹、林檎の姿も確認出来るがやはり意識がない。安全地帯などあるはずもない。
「鈴は__!」
「【クリンゲル・ショット】ォ!」
『ggG_i_ッ!!!』
鈴は特殊単発攻撃スキル【クリンゲル・ショット】で《ポセイドン・ユーベル》に攻撃する。【クリンゲル・ショット】は威力が自身のHP量に比例し、必要MP量が7、リキャストタイムが1.6秒なのでHPに気をつけていれば充分な威力を持つ弾丸を連続で放つことも出来る。しかし先程の【ディリュージュ】による攻撃で減ったHPを回復しても全回復までには届かず、水の抵抗も受け威力不足になり速度が激減し弾丸は止まる。もちろん《ポセイドン・ユーベル》には1ダメージも入らない。
「くっ、ダメか…! あいつに直接攻撃するか、地上に引き上げなきゃ…!」
鈴は大技を二連続で使われたことで焦っているようで、早期決着のために水中に潜って《ポセイドン・ユーベル》に接近する。
「ダメだよ鈴っ、一旦逃げよう! この水がある限りそのモンスターは倒せないよ!」
苺の言葉も水中の鈴には届かない。鈴は《ヒビキ》を構えると【バウンド】で跳ね、速度を上げて《ポセイドン・ユーベル》を直接切り付ける。
『___ッ!』
それと同時に《ポセイドン・ユーベル》は無数の小型魚雷を鈴に向けて発射させる。水中で動きづらい上、《ヒビキ》の刃を当てるために至近距離まで来ていたのですぐに命中する。それにたった1人を殺すにしては多すぎる数だ。
(【絶対回避】ッ!)
鈴は初撃を【絶対回避】で避けると、その勢いを利用して水面に向かって泳ぐ。しかし鈴の泳ぐスピードではすぐに小型魚雷に追いつかれる。
「鈴っ! これじゃ間に合わないっ!」
鈴と苺にはかなり距離がある。【激流】の力でも追いつくことは難しい。
「なら……! 【雷公】…部分変身ッ!」
苺はそう言うと自分の腕にのみ【雷公】を発動する。部分的に変化させるのは初めてなのでそう長くは持たないだろう。【激流】の力で接近しつつ、雷公化した手で銃の形を作る。
「【若雷】、【折雷】ッ!」
苺は【若雷】で攻撃、スピードを強化し、追尾式の雷を手から放つ。【折雷】は雷の速度で小型魚雷を次々と破壊していく。
(苺…! 【フルチャージ】、【乱射】ッ!)
鈴もスキルを発動してなんとか小型魚雷を迎撃する。
『ギギッ___』
「鈴、1人で突っ走っちゃダメだよ!」
「プハッ! …うん、そうだよね、ごめん。大斗にも言われたのに忘れてた……苺、やろう、2人で!」
水面から顔を出し呼吸をして鈴は言った。
「うん! 水中、何秒持つ?」
「ざっと50秒、ここまでは余裕っ!」
「わかった! 掴まって鈴!」
苺に言われ、鈴は差し出された左手に掴まる。
「行くよ、【伏雷】!!」
【伏雷】で稲妻の如く《ポセイドン・ユーベル》に接近する。
(この距離なら! 【サウザンドショット】ッ!)
苺のおかげで一気に至近距離まで来た鈴はその装甲に銃口を当てると【サウザンドショット】を発動する。
「剥がれた! 一点集中、【一発雷】ッ!」
鈴により剥がれた装甲の内部に苺は【一発雷】を放つ。柔い部位に命中したことで《ポセイドン・ユーベル》よHPは一気に減る。
「中に入るよ!」
さらに攻撃で空いた穴を通り、潜水艦内部に侵入する。
「【千力千斬】、【開放ノ術】、やぁあああああああッッ!!!」
(【クリンゲル・シックザール】ッ! 【乱射】、【サウザンドショット】ッ!!!)
雷の速度で移動しながら苺は刀を振るい、鈴は【クリンゲル・シックザール】で《ポセイドン・ユーベル》の防御力を下げると乱れ撃つ。
『ゴッ___-jc*d:(vuuhc)j_iッ!?』
内部を攻撃され続けたことでさらにHPは削れ、HPゲージを一本消し飛ばす。
「このまま攻撃し続ければ!」
「ごぼっ! んぐっっ」
「あっ! ごめん鈴、すぐ浮上を…」
苺がそう言って《ポセイドン・ユーベル》の外に出た瞬間、轟音を立てながら《ポセイドン・ユーベル》の装甲が全て剥がれる。
「これは…第二形態っ! 早く__」
『___【ディリュージュ】』
三回目の【ディリュージュ】が発動され、周囲の水が吸収されてしまう。
「かはっ_! 【バウンド】ッ!」
息をした鈴はすぐに【バウンド】を発動し、空高くまで飛び跳ねる。苺と鈴が空中に跳ねたと同時に水が解放される。
「さて…大斗達が無事だと良いんだけど、このままだと落ちた瞬間に残骸に巻き込まれそう…」
「あっ、あれ!」
そう言って苺が指を差した先には黒い光沢のある大きな球体が荒波の中にあった。建物の残骸に衝突しても傷一つ付いていない。それがこの街のどの建物の素材にも当てはまらない事から、理乃の【創造】で作られた物だと苺と鈴は推測する。大きさからして恐らく大斗、正樹、林檎も中に居るだろう。
「これなら皆の心配は必要ないね」
「私達ががやばいけどね…」
【バウンド】で跳ねたはいいが、今はもう落下している。また【バウンド】に触れれば飛び跳ねるのだが荒波でどこにあるかわからない。鈴は【クリンゲル・シックザール】でHPが減っているし、先程のスキル発動で回復する分のMPも残っていない。
「こうなったら…鈴、熱いけどちょっと我慢してね!」
「へっ!?」
「【真閻解・鬼神纏】ッ!」
苺がそれを発動すると額に一角が生え、紅色に変化して金色の模様が浮かび上がる。続いて苺は詠唱を開始する。
「天より墜ちし一振の剣、我が身を燃やし地を焦がせッ! 【真・閻解ノ燈閻真太刀・鬼神全真纏・華炎刀墜】ッ!!!」
一瞬落下速度が緩やかになったかと思えば、噴き荒れる炎がジェットのようになり速度は先程よりもっともっと上がる。
(熱い…けど、もしかして私に火が当たらないようにしてる…?)
苺にしがみつく鈴は自分を避けていく炎を見て思う。そして刀を突き出し、自分を落とさないようしっかりと抱いて燃える苺の横顔を見て…ちょっとかっこいいと思ってしまった。
「【パワーアップ】っ! MP残量的にこれくらいしか出来ないけど…行っっけぇぇぇ苺ぉーー!!!」
「うぉぉおおおおおおおおおーーーーーッ!!!」
鈴の支援を受け、一段と炎が強くなり速度も増す。__そして真下にいる《ポセイドン・ユーベル》を貫いた。超高熱により苺の周りの水が一部蒸発し、地面まで突き刺さる。
「ハァッ、ハァッ……鈴、大丈夫…?」
「な、なんとか生きてるよ…」
苺は【真閻解・鬼神纏】から【激流】に変化して言った。今の一撃で第二形態に移行した《ポセイドン・ユーベル》のHPゲージはラスト一本となる。
『ガガガ………』
軋むような音を立てながら、ボロボロになった装甲が剥がれていく《ポセイドン・ユーベル》はもう瀕死に見える。が、しかし。突如地震が起こる。
「この揺れ…最初のあれと同じ!?」
ユーベル化したポセイドンの追加能力は“転移”。発動条件は天地を揺らす振動を起こすこと。
苺と鈴の居る地面が割れ、奥から青い光が見える。
「苺立てる?!」
鈴はそう言って手を差し出す。地震に加え、蒸発していない残った大量の水も押し寄せて来ている。
「うぐっ…は、反動が大きくて……鈴だけでも逃げて!」
「でも苺が…!」
「早くッ!」
苺は叫ぶ。鈴はそれ以上何も言うことが出来ず、歯を食いしばってその場を離れる。その瞬間地面が完全に割れ、苺は光に包まれた。
「___はっ!?」
光から解放された苺は空を舞っていた。真下にはボロボロの《ポセイドン・ユーベル》が居る。
「なら、もう一度っ!」
そう言ってまた【真・閻解ノ燈閻真太刀・鬼神全真纏・華炎刀墜】を発動しようとする。だが出来なかった。
「なんで……あ、あれは…?」
真下の《ポセイドン・ユーベル》が動き出し、自ら装甲を剥がしながら浮遊する。
「へ、変形…してる…」
腕や脚が構成され、スマートめな身体に様々な武装が施された大型のロボット兵器に変形した《ポセイドン・ユーベル》は三叉の槍…《トライデント》を構えて水上に立つ。そして、青い輝きを放つ《トライデント》は恐らくスキルバインドの能力を持っている。それにより【華炎刀墜】が使えなくなったのだ。
『……神に叛逆する人よ、その魂を返せ。【Trident Over Explosion】』
そうして変形し最終形態となった《ポセイドン・ユーベル》はスキルを発動した。




