真編・第27話【荒波海神】
開幕
『ここが…街……ですか?』
ローゼはマップデータを閲覧したようで、驚いている。そこには《カルテットタウン》という街名があるものの、明らかに街の地形ではなく…海や水を表す青いドットで埋め尽くされていた。
「わかっちゃいたけど…想像よりひでぇな…」
《クインテットタウン》よりも高い、四角形の壁に囲まれた《カルテットタウン》は壁の上ギリギリまで水で浸かっていた。水面からうっすら見える建物は、強い波に打ち当たったのかいくつも崩れていた。
「…というかなんで急に街が…?」
「テレポートとかそんなやつだと思うよ林檎、亀裂の奥にそんなような光が見えたから」
「海神が転移系…? これがユーベル化による能力で決定かしらね」
敵の能力を考察する林檎と鈴だが、考えている暇はもうないだろう。敵が直々にここへ転移させたのだから、位置もバッチリ把握されているはずだ。
「……んぅ…ここは…?」
「理乃! 起きたか!」
「あっ、理乃ちゃん! 大丈夫?」
理乃が目を覚ます。何事もないようで安心したが波が強くなって来ているようで水面に浮かぶホームが揺れ始める。
『ッ! 敵対反応です! 位置は………え、真下!? 皆さん回避を!』
「この場所で回避…って無理じゃないこれ!?」
「とりあえず【絶対回避】!」
着地出来る場所は、沈みかけてるホームと少し遠くに見える高い建物だけだ。しかしそこまでジャンプして届くほど苺達の跳躍力は無い。【絶対回避】で攻撃を避けたとしても、ホームは全損し苺達は水中で戦わなくてはならなくなる。
『ヴォォオオオオオオオ!!!!!』
そして、水面が大きく盛り上がると振動音のようなものが辺りに響き渡る。水の底から姿を現したのは《カルテットタウン》を水没都市にさせた張本人、《ポセイドン・ユーベル》だった。
苺はローゼの居る端末を握り締め、ホームから飛び降りて自ら水中にダイブする。鈴や正樹達も同じくダイブし、敵を目視する。
「わぷっっ! __プハッ! って、え……ええぇえ!? これ、潜水艦!?」
髭を生やしたマッチョ巨人が出てくると思っていた苺は、その姿を見て驚愕する。どこからどう見ても潜水艦だ。側面にはご丁寧に“POSEIDON”と白い文字で書かれている。
『ヴォォォンッッ!!!』
またも振動音のようなものを上げると、《ポセイドン・ユーベル》は水に浮いている苺達に向けて小型魚雷を発射させる。それは水中を高速で移動出来るため、すぐにでも苺達に命中する。
「【クイックショット】!」
その前に鈴は【クイックショット】を水中の小型魚雷に向けて放つ。しかし水の抵抗で弾の威力は激減し、小型魚雷の破壊は出来ない。小型ではあるが生身の人間が喰らえば無事では済まない威力はあるだろう。
「皆…! 【鬼神化・激流】ッ! 【水流加速】【真・激流ノ太刀・高霎】、六連ッ!!!」
苺は水中に潜ると加速移動し、小型魚雷を【真・激流ノ太刀・高霎】で破壊していく。
「ありがとう苺さん! 【幻手】っ!」
正樹は小型魚雷の脅威がなくなると、皆の足場代わりに【幻手】を発動する。
「理乃、行けるか」
「ん、平気…【創造・剣】……《エクスカリバー》」
「【巨鮫】! 来て!」
それぞれ戦闘態勢を取る。林檎は巨大な鮫を召喚しその背に跨る。
「装甲が硬そう…理乃と苺は攻撃担当! 大斗と林檎はサポート! 正樹君は足場の【幻手】に集中!」
「うん! 私は水中から攻撃するよ! 【水刃】ッ!」
【激流】の力で水中戦が可能となっている苺は水の刃を《ポセイドン・ユーベル》に向けて放つ。船底に命中するがHPに大きな変動は見られない。
「【カリバースラッシュ】…!」
「【パワーフィールド】、【シャークインパクト】っ!」
続けて理乃が水上から船体を攻撃、林檎も【パワーフィールド】で攻撃力を上昇すると《巨鮫》による突進をお見舞する。
『__b_reッ!! ak_!!!』
しかしその攻撃を受けても、やはり装甲は傷付かず《ポセイドン・ユーベル》は再度小型魚雷を発射する。
「【フルチャージ】、【オーバーチャージ】、【リミットブレイク・チャージ】! 【サウザンドショット・トラッキングモード】ッ!」
鈴は即座にチャージすると追尾式の【サウザンドショット】を撃ち、小型魚雷を迎撃する。
「…【リ・チャージ】ッ!」
さらに鈴は再度攻撃するために、前回チャージした分を即座に再チャージする事が出来る【リ・チャージ】を発動する。
『皆さん、総攻撃準備を!』
「【創造・スキル】……対象者・鈴、【ステータスコピー】」
ローゼの指示で理乃は【ステータスコピー】を発動し、鈴の【リ・チャージ】状態をコピーする。しかし皆が強化スキルを発動する中、苺は水中で違和感を感じていた。
「ボイスメッセージのあの子は、一体何に手間取ったんだろう……いや、今はそれよりも…【強水ノ陣】!」
そう言いながら、苺も自身の攻撃力を上昇させる。
『___』
「…! 今何か言った……?!」
水中で音が聞き取りにくいが、確かに《ポセイドン・ユーベル》は何かを発した。
『【ディリュージュ】』
《ポセイドン・ユーベル》はスキルを発動した。もし…先程聞き取れなかったものが詠唱だとすれば…それは理乃の【ラグナロク】と同じ性質や威力を持つものかもしれない。もちろんただの詠唱系魔法スキルもあるのだが、相手は神の名を冠するモノだ。それが神属性スキルだったとしても不思議ではない。
《ポセイドン・ユーベル》の船底が展開されると巨大な噴射機が構成される。
「ま…まずい!!」
しかし気づいたところで水中から鈴達に伝える手段はない。水中で起こっている以上、鈴達はこの事に気付いていない。
『ゴォォォオオオオオオオオオッッッ!!!』
「これは…水位が上昇している!?」
正樹が異常に気付くが遅かった。増えたと思われた水は急激に水位が下がり、一瞬で《ポセイドン・ユーベル》に吸収される。それにより【幻手】に乗っていなかった苺と林檎が落下してしまう。
「苺、林檎!!! バウン__」
鈴が【バウンド】を発動しようとした瞬間、吸収された水は爆発的に解放される。街の建物も巻き込んで荒れ狂う波は【パーフェクトガード】を使ったとしても防げるかどうか怪しい。いや、そもそもこの状況で声を出そうものなら口に水が入り込むし、かと言って冷静にノーボイスでスキルを発動させることも、溺れないように必死なためほぼ不可能だ。
「あがっっ…!」
「鈴ッ!」
建物の残骸に衝突した鈴のHPが削られる。他の皆も波に呑まれてしまい、離れてしまう。
「皆と別れちゃった…早く合流しないと…!」
そう言うと苺は【水流加速】で移動を開始する。【激流】の力でも、この建物の残骸が舞う荒波の中を移動するのは困難だ。スキルを発動して無理矢理にでも回避しなければすぐにHPは削られてしまう。だが…《ポセイドン・ユーベル》はそんな荒波の中問題なく潜水し、また何かを発する。
「…っ!? まさか、二連続!?」
『【ディリュージュ】』
まさかの二回連続で発動される【ディリュージュ】。またも水は瞬間的に吸収され、爆発するように放出される。
『ベリー! このままでは皆がッ!』
「うん! ローゼ、皆の場所は?」
『既に反応はキャッチしています! かなりバラバラに離れていますが…ベリーの【激流】ならそう難しくはないかと!』
「わかった! それじゃあ案内お願い!」
『はい! ナビゲートを開始します!』
絶対に皆は無事だと信じて、苺は加速する。




