真編・第26話【水没都市、カルテットタウン】
前回のあらすじ。
白が復活した。
ボイスメッセージ受信から3時間と40分弱が経過した。街では今までオリュンポス十三神を倒していた者がここを一時的に離れるという噂が既に広がり、街の人々はホーム等に身を潜めていた。この噂は組織が故意的に流したものだ。そして戦える者は、北西門付近の時計塔で待機。以前のようなこともありえるので念には念を、他の門にも数名配置した。準備は万全だ。
「大斗ぉー、早くその荷物運んでー」
「お前が運べよ……ってほら、ぐーたらしてるから林檎がこっちに…」
「ちょっとそこ何してるのよー、この荷物ホームに乗せるんだから手伝いなさいって!」
ボーッと話していた鈴と大斗は林檎に叱られ仕方なく荷物を乗せていく。荷物は適当にかき集めて袋に詰め込んだもので、中身は主に食料やポーション、そして毛布に救命具だ。生存者がいた場合、少しでも助かるように多めに持っていく。ただ多すぎて運ぶ気が失せる。
「ローゼ…どう…?」
『ホームは問題なく飛行形態に移行できそうです。問題は実際の距離がわからないので…エネルギーが持つかどうかですね、ともあれ目的地の設定は終わりましたからいつでも出発できますよ』
ホームの中では、理乃とローゼが移動準備を進めていた。発信地点に目的地を設定してしまえばあとは自動で移動することが出来る。
「そういえばこの飛ぶやつってちゃんと使うのは初めてだね!」
荷物運びを終えた苺が理乃とローゼにそう言う。そもそも以前はファストトラベルがあったため、ホームの飛行移動を使う必要性が無かったのだ。しかし今回は未知の領域なので自力で移動する必要があった。
「正樹、どうだー?」
「うん、荷物はちゃんと揃ってるよー!」
「うし、あとは…」
大斗はそう言って理乃達の方に目をやると、それに気付いた理乃がグッと親指を立てる。それと同時に外から何やら声が聞こえたので苺達は窓から外を見てみる。すると八神が大きく手を振っていた。
「みんなー! 頑張ってねー!」
「勝てよ!」
八神の傍にいた三嶋も、声を大にして言う。
「…! 行ってきます!」
苺はそれに笑顔で答えた、八神に負けないくらい大きく手を振って。
「皆さん、気をつけて…」
少し離れたところから、白は飛び立つホームを眺めながら呟いた。
* * *
ホームによる飛行移動開始から約30分。障害物も無く急いでいるので速度はかなり…いや限界まで飛ばしている。それでもやっと《バベルの塔》を越えた程度だ。
「敵は恐らく《ポセイドン・ユーベル》…攻撃方法は神話の通りなら津波レベルの水害や大地を割る地震も起こせる…確実に今までより厳しい戦闘になる」
真剣な顔で鈴が話し始める。街一つ既に滅んでいるのだから当たり前だ。
「…それならいきなり津波とかやられたら太刀打ち出来ねぇな…どうする」
「強力な攻撃には何か代償があるはずだよ、長いモーションだったり、大量のMPを必要としたり…その隙を狙って攻撃キャンセルするしかないかな」
だが相手はユーベル化している。《アテナ・ユーベル》の消滅の手のように、神話とは関係ない能力を持っている可能性もある。
「こればっかりは実際に見てみないとわからないわね…」
「……いつも通りやれば…大丈夫…」
「うん、そうだよ! 皆でやれば絶対に大丈夫だよ!」
絶対に大丈夫だ__そう思った瞬間、突然ホームが激しく揺れる。何かに衝突したようだ。
「なんだ…!?」
大斗が状況を把握しようと崩した体勢を起こす。衝撃でホームの一部が崩れているようで、飛行が維持出来なくなり高度が徐々に下がっていくのがわかる。
『ダメです! 完全に機能が停止してます!』
「僕が…! 【幻手】!」
正樹がそう言うと【幻手】でホームを支え、ゆっくり降ろしていく。しかし、二度目の衝撃が苺達を襲う。
「きゃあっ!?」
「苺ッ!」
衝撃で揺れ、崩れた部分から落ちそうになった苺を鈴がギリギリで腕を掴む。すると、衝撃の正体がわかった。ホームの崩れた部分が水で濡れていたのだ。
「これは…ッ!?」
そして三度目。鈴、そして苺はハッキリとそれを目視した。物凄い勢いで接近する巨大な水の塊……水砲だ。
「よい…しょっ!!!」
鈴は苺を引き上げると、苺の手を握ったまますぐに後退する。水砲の直撃は回避出来たが、やはりホームには直撃し、衝撃で揺れる。
「皆! 敵からの攻撃だよ!」
「この距離から!? まだ街も見えてねぇのに!?」
「それより…っ! 衝撃が大きすぎて…うぐっ!」
「っ! 正樹、もうちょい踏ん張れ! もうすぐで地面だ!」
敵からの攻撃ということに驚いていた大斗は、正樹の声から【幻手】がかなり限界を迎えていることを察っして言う。
「…ま、まずいわ! もう1つ来てる!」
ホームの壁に寄りかかっていた林檎が、窓から四度目の水砲が接近していることを告げる。しかも真っ直ぐこちらに来ているため、受けてしまえばホームは全損。そうでなくても【幻手】が耐えられなくなり地面へ落下するだろう。
「仕方ない…! 正樹君、私の合図で【幻手】を一旦解除! でもって再展開準備!」
「りょ、了解!」
一か八かだが、賭けるしかない。鈴は正樹にそう指示するとホームの後方部分に手をかざし、集中する。
「___今! 解除して!」
「っ、解除ッ!」
「【バウンド】__ッ!!」
水砲が至近距離に来た瞬間、鈴の合図で正樹は【幻手】を解除する。さらに続けて鈴は、ホームの壁に少しめり込ませるように【バウンド】を発動する。
「ひゃぃああぁぁっ!!? す、鈴! これはちょっと、怖…ッ!」
「強行突破にも程があるわよぉぉーー!?」
【バウンド】の効果でホームは前に弾かれ水砲をギリギリ避け、苺達が絶叫するなか落下していく。
「正樹…! リキャストタイムは?!」
「あと…10秒っ!」
「くそっ、間に合ってくれよ! もう理乃が気絶してる!」
しかし無慈悲にも落下速度は徐々に上昇していき、地面がすぐそこまで来ていた。
「ッ! 【鬼神化・激流】! てやぁ!!!」
少しでも速度を下げるため苺は【鬼神化・激流】を発動し、いくつもの水の層を作り出す。その水に入る度速度は緩やかになるが、ホームが酷く軋んでいた。
「す、鈴さん! 間に合いません!」
「そんなっ、ごめん…皆っ!」
そこで苺達を乗せたホームは、地面に衝突し__なかった。
突如空気が揺れると落ちるはずだった地面が割れ、その奥に出現した青い光にホームは呑み込まれたのだ。
「え、えっと……? 何が起きたの…?」
苺は困惑した表情で座り込んでいる。ホーム、そして鈴と理乃と林檎と正樹と大斗も、皆無事だ。ホームがまるで船のように揺れているのが気になるが。
「……ハッ! そ、外! 外はどうなってるの?」
林檎の言葉に、大斗が恐る恐る窓から外を覗く。
「これは…水だ、水の上に浮いてる…」
その瞬間、鈴は悟る。
「どうやら、相手から招き入れてくれたみたいだね…」
外に出て、ホームの屋根の上に乗り辺りを見回すとハッキリわかる。ここは…街だった場所だ。
次回!《ポセイドン・ユーベル》戦、開戦!!!




