真編・第21話【その女神、悉くを滅する】
長めですです
「うーん! 一仕事終えた後のご飯は美味しいね!」
皆の武器、防具を全て強化し終えた苺は、お弁当として持ってきたサンドイッチにかぶりついて言う。シャキシャキとみずみずしいレタスにハムとチーズ、そこにマヨネーズと胡椒を少々…ごく普通のサンドイッチだがそれがたまらなく美味しい。
「まだまだ沢山あるからねー、あっ苺、ほっぺにマヨネーズ付いてるよ」
鈴はそう言うとハンカチで苺の頬に付いているマヨネーズを拭き取る。
「んぐっ、ありがとう鈴! もぐもぐ」
「美味しいのは急いで食べすぎよ全く! 喉に詰まらせないようにね」
林檎は水筒のお茶をコップに注いで苺に渡して言った。
「そうそう、喉に詰まらせて死んじゃわないようにねー♪」
「……? あなた…誰…?」
その言葉に全員の動きが止まる。そこには苺達よりは年下に見える、金髪の少女がサンドイッチを取って苺と同じようにかぶりついていた。
「うおっ!? どっから出てきた!?」
「いつの間に…!? 僕、一応警戒してたはずなんだけど」
「こんにちは英雄さん達♪ ところでこのサンドイッチ美味しいねー!」
「でしょー? みんなで作ったんだよー!」
皆が驚いている中、苺はそう言って金髪の少女と共にもぐもぐとサンドイッチを食べる。
「いやぁ、街の外が気になって出てきたんだけどね。モンスター多くてビックリしちゃったよ♪」
「あ、危なっ! 武器もないのに外に出るなんて命知らずにも程があるわよ!?」
林檎がそう言った瞬間、突如メッセージが送信されてくる。
「あ、ローゼからみたい…『《バベルの塔》からモンスターの反応がありました! かなり強力な反応です、備えて下さい!』だって! もうちょっとゆっくりしたかったなぁ」
苺はローゼからのメッセージを読み上げると手に持っているサンドイッチを食べ終え立ち上がり、《鬼神ノ太刀・閻解》を装備する。
「んでもよ、モンスター来てるって割には静かすぎじゃないか?」
「確かに…その辺のモンスターの数も異様に少ない気がする」
辺りの異常に気付いた大斗と鈴は警戒態勢を最大限上げる。
「え? なになに? 何か始まるの?」
「あんたは後ろに居なさい、でも守ってあげられる自信もないから気をつけるのよ。【ニーズヘッグ】!」
林檎は金髪の少女の前に立つとそう言って《ニーズヘッグ》を召喚する。
「………」
「? 正樹君どうかしたの?」
「あ…いや、なんでもないよ、【幻手】」
何か考え事をしていたのか、正樹はそう言うと【幻手】を発動する。
「モンスター…来ない…」
理乃がそう言った瞬間。
『グァオオオ!?』
「!? 《ニーズヘッグ》、どうし……え、HPが!?」
突然、《ニーズヘッグ》のHPが0になり消滅した。
『じゃあね、優しいお姉さん♪』
金髪の少女はそう言うと、林檎が腰に装備していた《リードナイフ》を抜き取り心臓部へ刺し___
『ッ! あちゃー、あなたにはバレてたかぁ』
「良かったです、念の為【幻手】を林檎さんの近くに配置しておいて」
そう、不自然な登場に違和感を持っていた正樹が林檎の背を守るように【幻手】を出したのだ。《リードナイフ》は【幻手】に刺さり、林檎にダメージは無かった。
「っ、あ、ありがとう正樹!」
「いえ、それより…」
『あー、やっぱりこの身体使いにくいよ、あれだけモンスターを殺して慣らしたのに…人間1人殺せないなんてさぁ…』
金髪の少女…いや、もうわかっているだろう。そう、この少女こそが今回の敵なのだ。
『あ、自己紹介しなきゃね、私は《アテナ・ユーベル》。そしてぇー』
そう言った《アテナ・ユーベル》が笑みを浮かべた瞬間。風を切りながら矢が苺の元に向かっていた。
「苺!」
「ッッ!!!」
苺は矢をギリギリのところで避けると同時に抜刀し、さらに追撃に来た数本の矢を弾く。
『あっちの方に居るのが、《アルテミス・ユーベル》だよ♪』
「これがモンスターって…どうなってんだよこれ」
『まぁお話するのも楽しそうだけど、私これ早く終わらせてだらだらしたいんだー。だからさっさと終わらせるね♪ 《アイギス・Medusa Eye》展開、攻撃開始♪』
「ッ! 【パーフェクトガード】!」
直後、遠距離からの援護射撃と《アイギス・Medusa Eye》による近距離攻撃が開始される。
「それ、盾じゃないの!? 【マジックヒール】!」
鈴はそう言って【パーフェクトガード】を使った大斗に【マジックヒール】でMPを回復させる。
『盾は守るだけじゃないんだよ? こうやって殺すことも出来るんだから!』
《アイギス・Medusa Eye》は6枚の盾だ。その内4枚の盾を《アテナ・ユーベル》は自由自在に操り、ぶつける様にして攻撃する。先端が鋭く尖っていて剣のようなものや、防御特化型っぽいゴツめのもの、小さめだが素早く動くものと様々な盾が宙を舞う中、姿が見えない《アルテミス・ユーベル》の援護射撃もあって動くことが出来ない。
「そろそろ【パーフェクトガード】の効果も切れるぞっ、どうする!?」
『あはっ♪ やっぱりタンクは先に潰さないとね♪』
「【パーフェクトガード】を封じるために初手でこれをやったって事かよ!」
【パーフェクトガード】解除まであと15秒。何か手を打たないと全員やられてしまう。
「私が盾を創造する……多分すぐ壊されるけど……」
「よし、その間にあいつの動きを止めるわよ!」
「うん! 【鬼神化・激流】っ! 【真・激流ノ太刀・高霎】!」
【パーフェクトガード】解除まで、3…2…1……。
「【オートディフェンス】!」
「【創造・盾】、《スヴェル》…!」
大斗と理乃が防御壁を作ると、苺はチャージしていた【真・激流ノ太刀・高霎】を解放する。
「せやぁぁぁあああ!!!」
『そんな一直線の攻撃なんて無駄無駄♪ 【カウンター】!』
しかし、その攻撃は小さめで素早く動く盾の【カウンター】で弾かれてしまう。
「うぐっ! は、速い!」
『【オートディフェンス】だっけ? それもめんどくさいなぁ、アルテミス、お願い♪』
すると後方から星の数ほどある大量の矢が放たれる。
「ダメだ、防ぎ切れない!!!」
【オートディフェンス】は最初こそ矢を防御していたが、やがて限界に達して消滅してしまう。すると苺達は矢の餌食となってしまう。肩、腹、太もも、腕、至る所に矢が刺さる。
「くあぁぁあ…っっ!」
「まず…い、【クイックヒール】…!」
ダメージを受けた苺に、鈴は【クイックヒール】で回復させる。しかし全員が負傷してしまい、無防備となる。
『チャーンス! 盾の人、さよなら♪』
「なっ…!?」
「大斗……っ!!!」
足に刺さった矢が貫通して地面に刺さり動けなくなっている大斗に、《アテナ・ユーベル》は右手を伸ばす。理乃は矢が刺さっているのにも関わらず、構わず走って大斗の元へ向かう。
「ぐっ、オオオオォッ!!!」
嫌な予感がした大斗は、痛みを我慢し足の矢を引っこ抜くと、その場から転がって離れる。
『うわっ、動かれるとうまく殺せな__あ、まぁこれでいっか♪』
《アテナ・ユーベル》の右手と、大斗の右手が掠った程度だか触れた。
「あ……? なん…ぐあっ!? う…腕……が…!!?」
一瞬のことで理解出来なかったが、確かに大斗の右腕は……無くなっていた。持っていた《勇刻ノ剣》が地面に落ちて『カツンッ』という金属音が響く。
「あ……大斗……腕…が……」
「理乃! 危ねぇ!!!」
呆然としている理乃を狙い、銀の矢が放たれる。
『おやぁ? おやおやおやぁ♪ 頑張るねぇ盾の人ぉ♪』
「ガハッ…!!」
「大斗!!! 【幻手・現ノ呪腕】ッ!」
大斗は瞬時に行動し、理乃を庇い銀の矢をその身に受けた。矢は腹部に深く刺さり、大斗は吐血する。右腕があったところからも、血が大量に流れ出る。正樹は【幻手・現ノ呪腕】を発動すると、追撃に来た数十本の矢を弾く。
(ハァ…ハァ……苦しい…痛い…死ぬのかっ、ここで俺は…)
大斗の耳に『HPが危険領域に突入。』『状態異常、流血中。直ぐに止血してください。』『状態異常、スキルバインド、鈍足、流血促進が発生しています。』とシステムボイスが繰り返し言う。
『これでトドメぇぇ♪』
すると《アテナ・ユーベル》が剣のように鋭い盾を1枚操り、大斗に向けて放つ。
「【カウンター】…ッ!!!」
「ぐっ……理乃……!」
理乃は瞬時に《魔剣グラム》を創造すると、【カウンター】でその攻撃を弾き返す。
「……許さない」
『あぁめんどくさい……でも、とっても面白い♪ やってみなよ、その弱っちい力で! 私を! 殺してみせてよ!!! あはははは!!!』
《アテナ・ユーベル》がそう言うと、4枚の盾が理乃に集中攻撃を仕掛ける。
「【創造・剣】ッ! 《エクスカリバー》《デュランダル》《フラガラッハ》《カラドボルグ》ッ!!!」
そして理乃は4本の剣を創造して《アテナ・ユーベル》の盾と同じように操り、それを迎え撃つ。
『ヒュー、やるぅ♪』
「【エンチャント・ヘルフレイム】!」
さらに理乃は創造した剣全てに【エンチャント・ヘルフレイム】を施す。しかしそれでも《アテナ・ユーベル》は余裕の笑みを浮かべている。
「「【ヒール】!」」
その間に鈴と林檎が【ヒール】を発動して大斗を回復させる。しかし何度回復しても血は止まらず、どんどん流れ出ていってしまう。
「回復が追いつかない! このままじゃ!」
鈴は【クイックヒール】や【ヒールフィールド】を発動しても減り続ける大斗のHPゲージを見て言う。
「ぐっ、仕方ねぇ…苺! 頼む!」
「っ、うん…わかった、【閻解】!」
大斗の言葉を察した苺は【激流】から【閻解】に状態を変更し、《鬼神ノ太刀・閻解》を構える。
「【閻魔】っ!」
【閻魔】を発動した苺は、その炎を大斗の傷口に当てる。皮膚を焼くことで止血したのだ。
「ぐあっっ!!!」
「ご、ごめんね! 大斗君大丈夫!?」
「あ、あぁ…大丈夫だ、ありがとよ苺」
ひとまずこれで出血多量による死は防がれる。鈴と林檎は、再度回復スキルを使用して大斗の傷を癒す。
「あああああッッッ!!!」
理乃は絶叫しながら《アテナ・ユーベル》に攻撃し続けるが、盾に防がれたり避けられたりで、お互いノーダメージのままだった。
『おっと♪ さて、そろそろ遊びは終わ……』
まだ本気では無かったのか、《アテナ・ユーベル》の姿に変化が現れようとした__瞬間、《アルテミス・ユーベル》の矢が盾に当たる。
『ん? あー、はいはいわかったわかった。残念だけど今日はここまで! また明日ね、英雄さん♪』
「あ…待__!」
《アテナ・ユーベル》はそう言うと1枚の盾の上に乗り、飛び去って行った。理乃は追撃しようとするが、既に攻撃出来ない距離まで飛んで行ってしまったのを見て、大斗の元へ走る。
「ハァ…ハァ……大斗……!」
「心配するな、大丈夫だ、腕が1本無くなっただけ…だが……これじゃあ盾しか持てねぇなぁ…」
「で、でも…この世界は時間があれば無くなった部分も再生するって……!」
苺が《ヘルメス・ユーベル》の矢に射抜かれた時も、貫通した部分は驚異的スピードで再生し、元通りになったのだ。しかし__。
「重傷でなければ、ね…」
その時に医療班の1人に聞いた鈴がそう答える。
「あぁ、こりゃ重傷だなぁ…それにもし再生する可能性があるとしても、かなり時間がかかる。戦力がすげー減っちまったな、すまん」
「大斗が謝ることじゃないよ、あの攻撃…予想外すぎる」
そう言った正樹は、あの手が掠っただけで大斗の右腕が消えた謎の攻撃を思い返す。
「受けたからわかるんだが、あれは腕が攻撃で吹き飛んだというより、“消された”ってのが正しいと思う」
「えぇ、私も…“消滅”って言葉が合ってると思うわ」
触れるだけで物体を消滅させる力…強力な攻撃だが、動きを見る限り手で触れないと使うことが出来ないらしい。
「あれの対抗策を考えなきゃね!」
「うん、苺の言う通り何か対策は出来そう…でも時間が無い。今日は引いてくれたみたいだけど、必ず明日来る……」
鈴はそう言って頭を悩ませる。
「…私に…任せて……」
「理乃さん、何か考えが?」
「うん、私が____」
そして理乃は、その作戦を皆に伝えた。
「__なるほど、でも…本当にやる気なの?」
理乃の作戦を聞いた鈴はそう言う。聞く限りでは可能だが、危険すぎる。
「うん。必ず成功させる…でも、多分その後の数秒間、私は使えない……だから、もしこれであいつを倒せなかったら、お願い」
「わかった、それで行こう」
鈴は理乃の覚悟を決めた表情を見てそう言った。
「俺もやるからな! 絶対あいつに一泡吹かせてやる!」
「大斗、でも……」
大斗の言葉に理乃は心配そうに言う。すると正樹が大斗に近寄る。
「【幻手】……よし、良かった、大きさ変えられて」
そう、【幻手】の大きさを調整し、腕の傷口と合体させたのだ。
「僕との接続を切ってるからくっついてる大斗の思い通りに動くはずだよ」
「お、おぉ…見えないのがなんとも言えないけど。ちゃんと剣も持てる…ありがとな正樹」
むしろ剣の重さが感じないので素早く動けそうだ。
「正樹君凄いね! そんなことも出来るんだ!」
「け、結構いろんなスキルが応用出来るみたいだったから……それに見えないけど、それは相手も同じだし…もしかしたら油断してくれるかも。でも僕に何かあったら【幻手】は消えるから、気を付けてね」
「ああ、その何かが無いように俺も頑張るよ」
しかし《アテナ・ユーベル》ばかり気にしていれば《アルテミス・ユーベル》の矢に射抜かれてしまう。そちらの方も気を付けなければならない。
「《アルテミス・ユーベル》の方はどうするの?」
「そうだなぁ……私と苺と林檎の3人で行こう、《アテナ・ユーベル》は理乃と大斗と正樹君でお願い」
林檎の言葉に鈴がそう答えると、皆「了解!」と返事をする。そして、あれだけ晴れていた空が真っ黒な雷雲に包まれ不穏な空気が流れる。
* * *
『アテナ、前に出すぎ…もう少しで私の射程距離外、注意して』
《アテナ・ユーベル》と同じく幼い身体の青髪の少女…《アルテミス・ユーベル》がそう言う。
『ごめんて、次はうまくやるよ♪ でもホントにあの盾の人を消せなかったのは悔しいなぁ……でも攻撃手段無くなったし次1番に殺せばいっか♪』
『もしかしたら対抗策を出してくるかもしれない、その人間も何か仕掛けてくるかも…』
『アルテミスは心配性だなぁー! 平気だよ!』
《アテナ・ユーベル》はそう言いながら盾をふわふわと浮遊させて遊ぶ。
『まぁ、私達の目的は達成出来るからどっちでもいいけど……』
『そうそう、気にしない気にしない!』
だって私達はただの____。




