真編・第20話【戦うために】
「う…ん……ふぁぁあ〜、むにゃ…寒い……はむっ」
早朝、苺は朝の冷たい気温に身震いして、布団を被り直して二度寝を試みる。
「うっ、なんか左手が異様に暖かい……」
そして鈴は違和感に起こされ、うっすらと目を開ける。するとそこには苺にもぐもぐと捕食される自身の左手があった。
「ってうわぁぁ!?」
「うぬゅ…」
鈴が左手を苺の口から抜くと朝日の光が反射して、キラキラ光る唾液の糸が引いていた。
「あ〜…これは、またかぁ……。うへぇ、今回も随分食べられたなぁ」
幼い頃からの、寝ぼけて何かを口に入れてしまうという苺の癖。さらに寝癖も悪いことから身体の至る所を食べられてしまう。昔たまに一緒に寝ていた鈴はよく被害にあっていた。
「全身ベトベトだしシャワー浴びようかな…うん、ほら苺、朝だから起きて」
鈴が苺を揺さぶりながら起こすと苺は「あと12分24秒寝かせて…」と言って再度布団を被り直す。
「…今日の朝ごはんはオムライ___」
「っ! おはよう鈴!!!」
「あっはは、流石だねぇ、おはよう苺」
さて、言ってしまったからにはオムライスを作らないと苺に怒られてしまう。鈴は布団から出ると風呂場へ向かい、苺によってベタベタになった身体を綺麗に洗い流す。
「さてと、ちゃちゃっと作るから苺は皆を起こしてきてー!」
「はーい!」
既に顔を洗ったりして目を覚ました苺は元気に返事をするとそれぞれの部屋へ向かった。
「正樹君おっはよーー!!!」
「…うん? って苺さん!? な、なんっ」
「起床確認! 次はー、理乃ちゃん!」
苺はまず、正樹の部屋に突撃し、正樹が起きたのを確認すると理乃の部屋に向かう。正樹は何が何だかわからずその場で固まっていた。
「理乃ちゃん朝だよ〜おはよ〜!」
「ん、おはよ…」
と、理乃を起こしに来たが既に起きていた理乃はそう返事をすると髪をくしで整え始めた。
「うんうん、理乃ちゃんはちゃんと自分で起きて偉いね! さて次は大斗く…」
「ったく、なんだ朝から…騒がしいなぁ」
「何事かと思ったわよ」
大斗と林檎はそう言ってあくびをする。苺の声は他の部屋まで届いていたようで起きてきたらしい。
「よーし! みんな起きたね! 鈴ー!」
「はいはい、わかってるよー」
鈴はフライパンを振りながら言う。今日は天気も良く、風も気持ちいい。気温も快適で完璧なおでかけ日和だ。起きて着替えた皆は、それぞれ朝飯を食べる準備をして席に着く。
「いただきます!」
そう言って皆はオムライスを食べ始める。
「んでよ、今日はどうすっか」
大斗が口の中のものを飲み込むとそう言って麦茶を飲む。
「天気も良いしみんなでおでかけしようよ! あっお弁当持ってこっか!」
「ん、いいと思う」
「だな、たまには休まねぇといつか倒れちまう」
目をキラキラさせて言った苺に、理乃と大斗も賛成する。
「じゃあご飯食べたら準備しましょうか!」
「うん、でも何があるかわからないから武具もしっかりね」
林檎と正樹もそう言う。そして朝飯を食べ終え、片付けに入る。
「うん! あ、ローゼは…! あぁ〜…今日はメンテナンスかぁ」
苺がローゼが入っている端末を覗き込むと『三嶋さん達にメンテナンスをして貰って来ます。byローゼ』というメッセージが表示されていた。最近調子が悪いようで、メンテナンスをしなければならないのだ。三嶋によるとローゼ回収時に起きたシステムへの負荷が原因らしい。
「仕方ないか…でもローゼが居ないってことはモンスターの襲来がいつ来るかわからない、用心しよう、みんな」
鈴の言う通り、休息は必要だが今日も敵が来るかもしれない。休みつつ、警戒しなければならない。
「まぁ街の中にしても、壁の外に出るにしても、あんなデカいモンスターなら一目でわかるからな、でも警戒はしとこう、五島も何か策があるかもしれない」
「そうだね、モンスターも強くなってきた気がするし、僕達も何かレベルアップ出来ればこの先しっかり戦えるんだけど…」
レベルアップ…しかし苺達のレベルは99。あと1レベルしか上がらない。だがこの戦いはさらに激化するだろう、そうなるとレベル100ということだけでは難しいかもしれない。
「あっ! なら皆の武器と防具、私が強化するよ!」
苺はそう言って腕の袖を捲りガッツポーズをする。続く戦闘のおかげで素材がかなり集まっていたので、全員分の武器と防具の強化は可能だ。必要素材があれば覚醒させることも出来るが、この世界に元《NGO》のモンスターが何処に居るかわからない以上素材を取りに行く事が出来ない。外もまだ未知だ、それに見つけたとしても、取りに行っている間に街の侵攻を止める者が少ない。ならば出来るだけスキル、武器と防具を強化し、技術を鍛えるしかない。
そしてその後、強化は空気のいい外でやることになり、お弁当やらの準備も整ったので苺達は街の外へ向かった。道中、様々な人に注目を浴びたが特に気にすることなく、途中寄り道などをして外へ出た。
「うーーん! ホントにいい天気!」
「そんなに街から離れられないし、この辺りにしとこうか」
草花が生え、近くの木で木陰になっている場所を選ぶと鈴がシートを敷く。そして荷物持ちである正樹と大斗が持ってきた荷物をそこに置いていく。
「よーっし! じゃあささっと強化しちゃうよー!」
苺はそう言うと作業着に着替え、【どこでも鍛冶場】を設置する。ちなみに本来の名前は【簡易設営鍛冶場】だったりする。
「よいしょぉー! そいやぁー!」
苺は声を上げながら金槌を振るう。苺の鍛冶レベルも上がり、武器と防具の強化は順調に進む。まずは鈴の装備から強化を始め、《クリンゲルシックザール・01》のパーツを改造する。
『《クリンゲルシックザール・01》の強化が完了しました。《命ノ装・改》、《ヒビキ》を生産しました。』
「よし! 出来たよ鈴!」
鈴の《クリンゲルシックザール・01》は強化により、弾速と近距離攻撃力が上昇し、現状最高ランクの防具、《命ノ装・改》と、同じく最高ランクの短剣、《ヒビキ》を生産する。
《命ノ装・改》には特殊スキル【生命ノ雫】が付属していて一定間隔でHPを回復させる。そして《ヒビキ》には【連撃増攻】が付属しており、連撃するほど攻撃力が増していく。
“改”というのは、一定段階まで強化された防具に付く文字で、さらに必要素材を用意して強化すると覚醒し、名が変わる。ちなみに武器は強化しても“改”の文字は付かない。
『《勇刻ノ剣》、《大熊ノ盾》、《アマノガワ・改》の強化が完了しました。』
「ふぅ、大斗君のも終わったよー!」
大斗が使う武器と防具も強化され、《勇刻ノ剣》は硬い物でも弾かれることなく斬りダメージを与える【絶対切断】が付属し、《大熊ノ盾》は防御力増加の効果と、ジャストガード時に自動的にカウンター攻撃をする【ジャストカウンター】が付属。そして《アマノガワ・改》は全属性耐性が上昇した。
『《リードナイフ》、《召導者ノ戦装束・改》の強化が完了しました。《ニュートン》を生産しました。』
「林檎ちゃんのも出来た!」
林檎が使っていた《リードナイフ》と《召導者ノ戦装束》は強化され、《リードナイフ》には召喚したモンスターの攻撃スピードが上昇する効果が付属し、《召導者ノ戦装束・改》には召喚したモンスターの防御力上昇と、自身が召喚したモンスターの数だけ防御力が上昇する効果が付属した。そして新たに生産した短剣の《ニュートン》には敵を一定時間重力で拘束する【重拘束】のスキルが付属している。
『《リクウガチ》、《ソラヅツミ・改》の強化が完了しました。』
「あっ、理乃ちゃーん! 出来たよー!」
理乃の武器と防具の強化が終了し、苺は理乃を呼ぶ。理乃は武器も防具も全て【創造】で作っているため必要ないのだが、スキル使用禁止エリアなど何か罠があった時用に予備で所持していた《リクウガチ》と《ソラヅツミ》を強化してもらった。《リクウガチ》は攻撃力が強化され、攻撃スキル【陸穿】が付属。《ソラヅツミ・改》は防御力が強化され、外部からのダメージを完全遮断するエリアを展開させる【穹包】が付属した。
「正樹君のもそろそろ終わりそうだよ!」
「ご、ごめんね、【幻手】に持たせる用の武器まで強化してもらって…」
「ふふっ、良いってことよ! よし、これで完成!」
『《月輝刀》、《月輝弓》、《ツキウツシ》、《三日月》、《夜切》、《朧隠》、《月導》、《月下光・改》の強化が完了しました。』
正樹が基本的に使う武器は《月輝刀》と《月輝弓》で、他は【幻手】に持たせる用で所持している武器だ。それぞれ強化により攻撃力が上昇し、防具の《月下光・改》も防御力が上昇し、光を吸収し続ける事で俊敏力を上げていく【光吸増速】のスキルが付属した。
「あとは〜…よし! これで強化終了!」
『《鬼神ノ太刀・閻解》と《霧雨・改》の強化が完了しました。』
そして苺も自分の武器と防具を強化し、【どこでも鍛冶場】を解除する。それぞれ能力が向上する結果となった。レベル99からレベル100に到達するにはもう少し時間がかかるが、武器、防具の強化により以前より格段に戦いやすくなった。
そして同時刻。ローゼのメンテナンスが終了した直後に《バベルの塔》から3体のモンスターが確認された。そしてその内1体は、苺達の居る街とは全く違う方向へ向かって行った。
次回【その女神、悉くを滅する】




