真編・第18話【解放者《リベレーター》】
何度も何度も、人は立ち止まる。だが必ずまた歩き出す。それだけの力を持っている。そして一歩一歩、先へ進む度にその心はどんどん強くなっていく。何度でも言おう、人は必ず立ち上がり、強くなっていく。そしてそれを今、八坂苺が証明する。
「ふっ…!」
苺は刀を振るい。纏っている【龍巻】を掻き消す。
「【解放者】ッ!」
《ヘファイストス・ユーベル》によって解放されたスキル、【解放者】を発動すると苺の一角が燃える、【真閻解】が強化されたのだ。そして額や頬に赤い模様が浮き上がり、《鬼神ノ太刀》が苺の血で赤く染まる。
『ほう “血解”をして 正気を 保っていられるか』
「血解……」
苺は自身のその状態が、代償のあるスキルだと理解する。
血解とは【解放者】により強化された【真閻解】の効果で、いわゆるバーサーカー状態のようなものであり、様々な効果があるが短期決戦用である。
しかし、試してみないことにはどういったものかわからない。
「ふっ……! ととっ!? す、スゴい速く動いた…」
苺は《ヘファイストス・ユーベル》に接近するため、走ったのだが速すぎて20数メートルほど通りすぎていた。血解状態の効果の1つ。【アクセラレート】の効果だ。
『…ふむ 【炎雨】』
《ヘファイストス・ユーベル》はそう言って炎の雨を降らして攻撃してくる。
「っ! 避けきれないっ!」
スピードに慣れていないのもあるが、雨を避けるなんてことは普通出来るはずがない。そして避けきれずに炎の雨を喰らってしまう……と、思っていた。
『なに…っ!?』
苺の身体は自然とカウンターの体勢を取り、炎の雨を打ち返したのだ。《ヘファイストス・ユーベル》も初めて驚きの表情を見せる。これも血解状態の効果、【フルカウンター】だが…雨は無数にある。例えあらゆる攻撃をカウンター出来ても、身体が追い付かないのだ。火の雨は【フルカウンター】をした後の無防備となった苺に襲い掛かる。
「…っ! いっ……た、く…ない? い、痛くないよ…!?」
炎の雨が足に当たった、だが、それを受けてもダメージにはなっておらず、痛くも痒くも熱くもない。これもまた血解状態の効果、【ダメージカット】だ。その効果は、HPが半分以上あるときHPが0になる攻撃を無効化する。また2割以下のダメージは無いものとするという効果だ。
この【アクセラレート】、【フルカウンター】、【ダメージカット】の3つのスキルは血解状態、つまり【解放者】を発動すれば常時効果が発動する。だがもちろん永遠というわけにもいかない。血解中は血液を必要とするので、使うと貧血になるし使いすぎれば死に至る。だから短期決戦用なのである。
(なんか…気持ち悪い……早くッ、終わらせなきゃっ…)
しかしここは精神世界なので、実際に消費するのは血ではなく魂だ。魂がすり減っていく感覚に吐き気を覚えながらも、苺は意識をしっかり持ってブーストをかける。
「ぅおおおおおッッ!!」
『……っ』
苺の攻めに、《ヘファイストス・ユーベル》は攻撃を防ぐのが精一杯だ。苺は防御されるのを気にせず、急所を狙っていく。
血解状態によりスピードも上がっているため、《ヘファイストス・ユーベル》がその攻撃スピードに追い付けずに防御の手が緩むのも時間の問題だ。
「【旋風】、【一閃】ッ! 【真・閻解ノ燈太刀・氷華纏・氷塊ノ天拳】ッ!」
連続でスキルを発動して叩き込む。【旋風】と【一閃】で防御を崩し、少し後退した苺は《ヘファイストス・ユーベル》の頭上に巨大な拳の形を模した氷塊を作り出し、右手を振り下ろすことで【真・閻解ノ燈太刀・氷華纏・氷塊ノ天拳】を落とす。
『ぐぅ……ッ!!!』
《ヘファイストス・ユーベル》は《壊斧ラヴィリス》で氷塊を押さえるが、重さに耐えられず膝を地に付ける。
「【燈灯線】ッ!」
苺はそんな《ヘファイストス・ユーベル》に火色の光線を無数に放ち、追い討ちをかける。【燈灯線】は《ヘファイストス・ユーベル》の腕や脚、脇腹などに命中し、体力を奪っていく。
『くっ…! ぐぉぉッ!』
そして、ついに《ヘファイストス・ユーベル》は【真・閻解ノ燈太刀・氷華纏・氷塊ノ天拳】に押し潰された。しかしまだHPは残っているだろう。
「……っ、5連…【真・閻解ノ燈太刀・氷華纏・氷塊ノ天拳】…ッ!」
苺は【真・閻解ノ燈太刀・氷華纏・氷塊ノ天拳】を5つ落とし、さらに押し潰す。そして氷山となった氷の塊を狙い、《鬼神ノ太刀・閻解》と謎の刀の両刀を構える。
「ふぅ…【永炎解放】…」
すると《鬼神ノ太刀・閻解》は青白く燃え上がり、謎の刀にも燃え移る。
「____断ち斬り」
静かに、呟くように言うと、苺は吸い込まれる、引っ張られるように氷山へ向かって消える。
刹那、氷山はバラバラに破壊され、轟音を立てながら崩れていった。そして氷山は消える気配のない青白い炎に焼かれる。
「は……ぁ……」
すると苺は、力無く倒れてしまう。謎の刀はもう消えてしまっていた。脱力感や眠気が凄い、恐らく目を覚ますのだろう。
倒れたことで肌に草花が触れ、少しくすぐったいが暖かい日の光や自然の匂いに、苺の意識は次第に奥深くへ潜って___
* * *
「___たっっっ……はぁぁぁあーーー!!?」
「うわぁぁぁあああああ!!!?」
何故か絶叫しながら苺が飛び起き、それにビックリした鈴も声を張り上げる。
「ん……苺、起きた」
「お、やっとか! 全く、遅いから心配したんだぞ? 特に鈴と林檎と正樹と……って、全員なんだがな」
大斗の言葉に、苺は皆の顔を見ると、涙で顔がぐしゃぐしゃになっている林檎の姿が目に止まった。
「り、林檎ちゃん!? だ、大丈夫…?」
「うっ、ぐすっ……大丈夫じゃないわよバカぁぁ!!! ひっく…苺っ、死んじゃったかと思ったわよぉぉ! うわぁぁぁぁぁん!!!」
「ど、どうどう! 落ち着いて林檎ちゃん!」
苺はそう言って抱きついてくる林檎の背中をぽんぽんと叩き落ち着かせる。
「無事で良かったよ、苺さん」
「正樹君…みんな、心配かけちゃったね」
苺がそう言うと、鈴がホッと安心して苺に微笑む。
「おかえり、苺…!」
「うん、ただいま…!」
そしてみんなの顔を見て安心した苺は、その言葉に笑顔で答えるのだった。




