真編・第15話【虚無より現れし無限の剣】
しばらく経って……とは言っても、ほんの数日だけだったが、…その間はモンスターの襲撃も無かった。客観的に見れば今攻め込めば勝てるというのに…。しかしまぁ、好都合ではあった。この数日で全員の体力も回復できた。精神的にはまだ休んでいたいが、そう言うわけにもいかなかった。
……数日間襲撃が無かったのには理由があったのだ。
『敵、襲来です!』
街の警報とほぼ同時に、ローゼがそう言って皆に知らせる。いつも通り北西門に行くと、今回は敵は1体だけだった。これならばまだ楽ではある。
「皆! ちゃっちゃと終わらせるよ!」
鈴がそう言って武器を構える。苺達も強く頷き、それぞれ武器を構える。そして前とは違い、今回は一部の人が戦闘に参加していた。レベルが低いので後ろのほうに居るが、それでも戦おうと、戦場に身を投じたのには驚きだ。
今回は人数も居て敵は1体、身体も元気……本音を言うと余裕さを感じていた。
___しかしそれも打ち砕かれる。
『…………!』
敵、《ヘファイストス・ユーベル》はユーベル化モンスター特有の声を発さず、静かに片手を挙げると虚無から剣を出現させ、それを1人の男性に向けて放った。
「ぐぁ…………!」
剣が男性の胸に突き刺さると、男性は短く静かな断末魔をあげて、……その後消滅する。
「……ぇ」
そしてそれで終わりではなかった。全員がその男性に気を取られていて気付かなかったが、《ヘファイストス・ユーベル》はまた剣を出現させ、苺達と同じくらいの、いや……それよりも若い、1人の少女に向けて放っていた。少女は何が起きたのか理解できずに消滅する。
「__ッ!? 全員退避ッ! 立ち止まるなーーッ!!」
鈴は、《ヘファイストス・ユーベル》が両手を掲げるのと同時にそう叫ぶ。全員が逃げるために走ろうとした瞬間、《ヘファイストス・ユーベル》の周りには100はあろう剣や槍、様々な武器が出現する。
『……ッ!』
そしてそれらの武器は、急加速して発射され苺達を襲う。
「た、助け…っ!」
戦闘に参加してくれていた人達は、意図も簡単に身体を貫かれ、消滅という名の死で消えていく。
飛び交う武器は、“人を貫く”という行為が終わると自然に消滅していく。貫かれた人も同じように消滅していく。気付けば生き残った人は僅かしか残っていなかった。しかし残った人に…もう戦意はない。
「っ……どうするよ…!」
大斗は周りの惨状を見て、苦しそうな表情で言う。
「どうするって……やるしかないじゃない! 【ニーズヘッグ】ッ!」
大斗の言葉に、林檎は体制を整えるべく《ニーズヘッグ》を召喚する。
「そうだね、やるしかない……、苺行ける………って、どうしたの! 大丈夫?!」
鈴は震えて動けない苺を見て驚いて言うと、少し考えてからその震える肩に手を置いて軽く抱き締めて落ち着かせる。
「正樹、理乃、林檎! 2人が復帰するまで耐えるぞ!」
大斗は状況を見てそう言うと近接攻撃に切り換えた《ヘファイストス・ユーベル》の攻撃を防ぐ。
「鈴…目の前で、助けてって言われた…」
「…うん」
「わ…私……助けられなかった……」
苺が震えた声で言う。罪悪感があるのだろう。
しかしあの場で助けていれば、苺も巻き込まれて死んでいた。でもだからと言って鈴は「助けるな」と、言えるはずがない。
「……苺、大丈夫。苺は悪くない、あの状況だもん…仕方ない、仕方ないんだよ。…とにかく今は、落ち着くまで休んでてね」
鈴はそう言うと苺から離れ、《KS01》を自身の心臓の前に持ってきて《ヘファイストス・ユーベル》を睨む。
「【フルチャージ】、【アクセルブースト】、【暗殺ノ技】、【クリンゲル・シックザール】」
【フルチャージ】で効果が上昇した【アクセルブースト】、そして【暗殺ノ技】で攻撃力と俊敏力を上昇。最後に【クリンゲル・シックザール】で《ヘファイストス・ユーベル》を麻痺状態にすると、鈴は走って急接近する。
「やぁぁーーーッッ!」
接近する鈴に気付いた大斗は、盾を上向きにしてしゃがみこんで、踏み台を作る。鈴が盾に飛び乗ると、大斗が勢いよく持ち上げたと同時に飛び上がる。右手に持つ《断鎧ノ短剣》で《ヘファイストス・ユーベル》を斬り裂いて攻撃しようとする。
が、しかし。
(っ! 折れた…ッ!? 《断鎧ノ短剣》じゃもうダメか!)
《ヘファイストス・ユーベル》の鎧のような皮膚に当たると、《断鎧ノ短剣》は耐えられずに碎け折れる。
「っ、【バウンド】!」
「【エクスカリバー・フィニッシュ】……!」
「《ニーズヘッグ》! 【デッドリーポイズンブレス】っ!」
『グォオオオオッ!』
鈴が【バウンド】を発動して着地すると、理乃が【エクスカリバー・フィニッシュ】を放ち、林檎が《ニーズヘッグ》に指示し、【デッドリーポイズンブレス】を吐く。
『…………!!』
しかし、《ヘファイストス・ユーベル》は虚無より大盾を出現させ、【エクスカリバー・フィニッシュ】をガードする。だが【エクスカリバー・フィニッシュ】でダメージを負った大盾は、《ニーズヘッグ》の【デッドリーポイズンブレス】に耐えきれずに崩壊し、《ヘファイストス・ユーベル》はダメージを受け、猛毒状態になる。
「【バーニング・グレネード】!」
そして鈴は2人が作ったその時間の間に用意した【バーニング・グレネード】を複数個投げ、さらに《ヘファイストス・ユーベル》にダメージを与えて火傷状態にする。
「……! 2ゲージ目よ!」
「なんか仕掛けてくるぞ! 全員俺の後ろに! 【パーフェクトガード】ッ!」
猛毒と火傷の状態異常が中々効いたようで、《ヘファイストス・ユーベル》のHPゲージは2本目に突入した。
これはゲームならばよくあるが、HPが一定値まで減るとモンスターは特定の行動を取る。《ヘファイストス・ユーベル》も同じように、こちらに右手をかざしていた。
苺も【パーフェクトガード】を発動した大斗の背後に移動し、攻撃に当たらないようにする。
『………』
…そして、《ヘファイストス・ユーベル》が放った青色に強く輝く閃光は全員の目を眩ませる。
「っ!? あ…れ……?」
しかし、目蓋を閉じても白い景色が見えるほどの強い光の中で、苺だけが徐々に闇に包まれ、意識が精神の奥深くへ落ちていった____。




