真編・第14話【破滅の灯火と光奪神】
静かなホームのリビングに、苺達は俯いた姿勢でソファーに座っていた。真逆の方向からの敵の侵攻と、多くの犠牲…そして士狼の死を知らされ、信じることが出来なかったが、もう士狼は3日も姿を現していない。
「……私達も、死んじゃうのかしら…」
「林檎、…やめて」
「…そうね、ごめんなさい」
林檎が恐怖からか、少し掠れた声で呟くと鈴が少しだけ強めに止める。ここにいる全員…いや、全世界の人間全てが、“死んだらどうなるんだろう”というわかりようもない事を考えているだろう。
この《クインテットタウン》は《NGO5》の時と比べて3、4倍は面積が広くなっている。似たような街が他にもどこかにあるだろう。面積が広くなっているとは言え、ここに日本人全員が住めるわけでもない。そして最近では《NGO5》と同じように階層になっているのでは、という噂も立っている。ただ第四階層に行く道が見付かっていないのであったとしても行けないが。
「なあ、皆、世界が元に戻ったら…骸は無くても、墓を作ってやろうぜ、…意味無いかも知れないけどな」
大斗はそう提案する。
「…でも、その人が居たっていう証拠になるよね、僕は良いと思うよ」
「そうね、私も良いと思うわ、だったら早く元の世界に戻しましょ!」
徐々にだが、少し明るさを取り戻していく。そんな時。
『皆さん! 《バベルの塔》方面から敵襲です!』
そうローゼが叫ぶように敵襲を伝える。
苺達はすぐさまホームを飛び出し、北西門へ急いで向かう。
* * *
「っ! あれだね!」
北西門付近にて、苺は2体の敵の姿を確認した。
『《ヘスティア・ユーベル》、そして《アポロン・ユーベル》の2体のようです! 皆さん、気を付けてください!』
気を付ける。そう、気を付けなければならない。士狼の死、ということがあり、死の恐怖を想像してしまった。もし敵の攻撃を避けられなかったら、などと想像していたらそれが隙となってしまう。
「【オートディフェンス】、【挑発】!」
大斗が【オートディフェンス】を発動して苺達に自動防御盾を配置する。そして【挑発】で《ヘスティア・ユーベル》と《アポロン・ユーベル》の気をこちらに向ける。
「皆、一気に畳み掛けるよ! 【クリンゲル・シックザール】ッ!」
負傷者を出さないためにも早急に倒さねばならない。鈴の【クリンゲル・シックザール】で《ヘスティア・ユーベル》と《アポロン・ユーベル》を毒状態にする。
「ん、了解……【創造・槍】《ゲイボルク》」
「うん! 【真閻解】ッ! いくよ理乃ちゃん!」
苺は《果ての弓》を持ってそう言うと、理乃の《ゲイボルク》に【真閻解】の炎を纏わせる。
「「【真閻・ゲイボルクフィニッシュ】…ッ!」」
理乃の【ゲイボルクフィニッシュ】と苺の【真・閻解ノ燈弓・獄炎雨】の合わせ技で、炎の豪雨が《ヘスティア・ユーベル》と《アポロン・ユーベル》を襲う。
『&★§%■¥△〒⊂▽£@′£〒↑@◇★!!!!』
《ゲイボルク》の毒と【クリンゲル・シックザール】の毒でHPは徐々に減っているが、《アポロン・ユーベル》が翼で羽ばたき、天へ舞うと、【真閻解】の炎を纏った《ゲイボルク》や【真・閻解ノ燈弓・獄炎雨】の炎を吸収した。
「全員俺の後ろにッ! 【パーフェクトガード】ッ!」
《アポロン・ユーベル》が吸収した炎を撃ち返して来ると同時に、大斗が【パーフェクトガード】を発動する。特に問題はなかったが、次は《ヘスティア・ユーベル》が手を天に掲げると、自身と《アポロン・ユーベル》のHPと状態異常を回復した。
「あの《ヘスティア・ユーベル》、ヒーラーみたいだね……」
「あっちから倒したいけど、近付けそうにないよ!」
正樹と苺が《ヘスティア・ユーベル》を攻撃しようとするが、《アポロン・ユーベル》がそれを許さない。
「仕方ねぇ、俺と理乃でアポロンを押さえるから、その内にブッ叩け!」
大斗がそう言うと、全員が走り出す。
「っ、攻撃来るわよ!」
林檎がそう言うと、《ヘスティア・ユーベル》も極細の光線を放って近付けさせないよう攻撃する。しかし、苺達は走って接近しながらそれを軽やかに避けていく。
「【アイス・エイジ】ッ!」
「【ディフェンスダウン】ッ!」
鈴が【アイス・エイジ】で《ヘスティア・ユーベル》を拘束すると、林檎が【ディフェンスダウン】で《ヘスティア・ユーベル》の防御力を低下させる。
「正樹君っ!」
「うん、【幻手・現ノ呪腕】、【幻想領域】ッ!」
苺は正樹の【幻手・現ノ呪腕】に飛び乗ると踏み台にしてさらに高く飛び上がる。そして、正樹が発動した【幻想領域】によって範囲内にいる苺は敵から目視されなくなり、クリティカル率が上昇する。
「【真・閻解ノ燈太刀・獄炎乱舞】ーーッ!!」
《ヘスティア・ユーベル》の腕、足、腹など様々な部位を連続で斬り刻み、傷口は残った炎で焼け、血が焦げる。《ヘスティア・ユーベル》は防御力も低下していることもあって、HPが赤ゲージまでなろうとしていた。しかし、その瞬間。
『@★●◇○☆%⊆⊂◎∪…!』
「か、回復した!?」
ゲージが赤に変わろうとしていたHPは、一瞬で全回復してしまっていた。
《ヘスティア・ユーベル》は回復に特化したモンスターのようで、中でも強力なのはHPを一瞬で回復させる、【即時回復】だ。この【即時回復】はHPが一定値まで減ると自動で発動するのでモーションもない。防ぐには一撃で倒すしかないだろう。
「…なら! これでどうだぁぁーー!!!」
苺は自分が炎に包まれるほど、炎の勢いを増すと、そう叫びながら弾丸のように飛び上がり、《ヘスティア・ユーベル》の心臓部分を貫いた。
「林檎、正樹君! 続くよ! 【サウザンドシュート】ッ!」
「うん、これで決める! 【夜斬り】ッ!」
「ええ! わかってるわ! 【パワーアップ】、【ブレードビーム】ッ!」
苺が【即時回復】が発動しないギリギリまでHPを減らすと、【サウザンドシュート】、【夜斬り】、【ブレードビーム】により追い撃ちをかけられHPが0になり光の粒となって消滅する。
「よし、理乃、こっちも一撃で決めるぞ!」
「ん、【エンチャント・ヘルフリーズ】……【反撃者】」
《アポロン・ユーベル》は《ヘスティア・ユーベル》が倒され回復手段が無くなったことに動揺しているのか、光を一点に集め始める。
理乃は大斗に【エンチャント・ヘルフリーズ】を発動すると、【反撃者】を発動する。
『→*↑▽↑⊆▽〒△◆●△▼■●&§◆■ッッ!!!!!』
《アポロン・ユーベル》は大きく咆哮しながら、太陽や街の電気の光を集めた【光玉】を放つ。強い光で直視することが難しく、当たればほぼ即死だろう。しかし、理乃は目を瞑り、感覚を研ぎ澄ませながら《魔剣グラム》を【創造】で造り出す。
「………【スキルカウンター】…ッ!」
【スキルカウンター】が発動すると、【光玉】は数倍の威力を持って《アポロン・ユーベル》に返される。
『◆△◇○□@◎⊇∈↑⊆〓ッ!!?』
反撃されるとは思ってなかったらしい《アポロン・ユーベル》は、【光玉】をまともに受けるがまだHPには余裕がある。しかし、閃光を放ちこちらも反撃しようとした瞬間、大斗が《アポロン・ユーベル》の前に現れる。最初から本命はこちらだ。
「【奥義・絶壊剣】ッ!!!」
大斗が剣を一振りすると、【エンチャント・ヘルフリーズ】の効果で《アポロン・ユーベル》は凍り付き、その後、【奥義・絶壊剣】の効果により、氷もろとも《アポロン・ユーベル》を破壊した。
こうして《アポロン・ユーベル》も消滅し、今回の防衛戦は無事に終了したのだった。




