真編・第13話【六山士狼は倒れない】
爆炎に呑み込まれた《アーレス・ユーベル》。しかし士狼もこれで終わったとは思っていない。しかし、確実に大ダメージを与えることは出来た。
『▼¬※←〒◎¥★◆&£ッ!!!』
「なッ!!?」
だが、すぐに反撃が来るとは全く予想もしていなかった。《アーレス・ユーベル》はダメージ覚悟で士狼の攻撃を受け、槍を凪ぎ払ったのだ。士狼は身体の左側のあばら辺りを強く打たれ、建物の残骸に衝突する。
「ゴハッ! ッ、く…そッ!!」
防御する間もなく喰らったため、士狼のHPは大きく削れてしまう。槍の刃の部分には当たらなかったが、骨が数本折れていてもおかしくはない。
(だが…まだ、動けるッ!)
士狼は鋭い眼光で《アーレス・ユーベル》を睨み付けると、《HS・インフレイム》で弱めの爆発を起こして無理矢理接近する。
「【フルチャージ】! 【バーニングスラッシュ】ッ!!!」
《アーレス・ユーベル》の背後から【フルチャージ】を発動した【バーニングスラッシュ】をお見舞いする。
『〒〒▼◎&〓▼●●△◎◇ッ!!!!!』
「は………っ」
しかし、その瞬間アーレス・ユーベルは身体を捻り、回し蹴りで再び士狼を建物の残骸に衝突させる。
「うっ……ぐッ…ぁ……」
強く叩き付けられ、息が一瞬出来なくなる。その一瞬だけでも、人は“呼吸が出来ない”という恐怖で酸素を求める。そして、深く息を吸うと肺が膨らみ、折れている骨に当たり痛みが生じる。
「ぐはッ!? っ、あ……野郎……!」
《アーレス・ユーベル》は今の回し蹴りがうまく決まったのでスッキリしたのか、街の中心へ向かってさらに進行する。
(まずい…まずいまずいッ! この先は白だっているッ! それに北西門の奴らと合流しちまったらあいつらが危ねぇッ!!)
士狼は深く息をしないよう注意しながら、痛みを我慢しながら思考を巡らせる。どうすれば致命傷を与えられるのか、どうすれば止められるのか……。
「俺が…ここで踏ん張らねぇと…! 何がなんでも、もうこれ以上被害は出さねぇ!!!」
士狼は吐血しながらも、《HS・インフレイム》を後ろに構え、爆風を利用して加速する。1歩1歩、足を踏み締めるたびに、息が苦しくなる。だが、今ここで戦えるのは士狼ただ一人なのだ。
「《HS・インフレイム》…【バーサクモード】ッ!!!!!」
その瞬間に、《HS・インフレイム》は大きく変形し、通常の2倍の大きさとなる。炎がジェットのように噴き出て、士狼は超加速して《アーレス・ユーベル》に接近する。
「ぐおおおりゃあああああああああああーーーーーーッッ!!!!」
その勢いのまま士狼は《アーレス・ユーベル》の後頭部を殴り飛ばす。《アーレス・ユーベル》はその衝撃で顔面から地面に落ち、うつ伏せの状態になる。
「【ハウリングスマッシュ】ッ!!!!!」
そして、すぐに起き上がろうとした《アーレス・ユーベル》の背に、無属性で2連撃の物理攻撃スキル【ハウリングスマッシュ】をブチ込む。《アーレス・ユーベル》は最初の1発で再び地面に叩き付けられ、士狼は本命である2発目を、《HS・インフレイム(バーサクモード)》で爆風を発生させ、さらに威力を上げる。
「土ん中で眠ってなッ!!!」
そう言ってもう1発をブチ込むと、その衝撃で街の地面は崩壊し、《アーレス・ユーベル》は地面の剥き出しになった土に埋もれる。だがまだHPは残っている。
「……覚悟しとけよ…【大閻解】ッ!」
士狼がそう言った【大閻解】。それはもちろん、正式なスキルではない。苺が【閻解ノ大太刀】を複数回発動して維持した状態を【大閻解】と称しているだけにすぎない。あの時、士狼がやられたのもこの技だった。
(俺にアイツを消し炭にする力を貸してくれ…ッ!)
《HS・インフレイム(バーサクモード)》はあの時の超超大太刀には追い付かないが、変形して2倍となった状態で、刃からさらに刃が出現して実質的に3倍の大きさとなる。常に炎を噴出し続ける大剣は、側にあった瓦礫などを焼き焦がす。
「ふッッ!!」
士狼は爆風で上空に飛び上がると、起き上がりつつある《アーレス・ユーベル》を瞳に捉え、《HS・インフレイム(バーサクモード)》を構えて急降下する。
「くたばれクソ神ッ! 【インフェルノ】ォォォォオオオッッ!!!!!」
【インフェルノ】の効果で爆発するかのように、さらに勢いよく何度も噴出される炎の勢いを利用して縦に高速回転しながら落下する士狼。《アーレス・ユーベル》はなんとか起き上がると両槍で士狼の攻撃をガードしようと、槍同士をクロスした状態にする。
『fj◎¥◆&iwgk&§○cjlpy¬▼↓∩⊆∀sッッッ!!!』
「ッァァアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!」
だが、士狼の雄叫びと共に、《アーレス・ユーベル》のその両槍は炎の熱で熔け、そして高速回転により削られ、やがて耐えきれずに折れてしまった。
そして士狼の勢いは全く衰えず、止まることもなく、《アーレス・ユーベル》を縦に、溶岩のような真っ赤な焼け痕を残して真っ二つに断斬した。計446連撃にもなった士狼の攻撃により、《アーレス・ユーベル》は光の粒となって消滅し……
「ぐッッ!!?」
士狼は何が起こったのか一瞬理解できなかった。ただ、下を見ると、自分の胴体から黒い槍が突き抜けていた。
『◆§○▼▼◎▼★▲……!』
《アーレス・ユーベル》は笑みと思える表情で消滅していった。最後の最後で即死の黒い球を槍状にして生成し、油断しきった士狼に放ったのだろう。
「ぁ……がッッ!?」
《アーレス・ユーベル》の消滅と共に、黒い槍も跡形もなく消え去ったことで士狼の槍が突き抜けていた場所から血が大量に流れ出る。
「……あ…相討ち…に……されちまった……ッ」
それでも士狼は、【バーサクモード】が解除された《HS・インフレイム》を地面に突き刺し、自分の身体を支えて意地でも倒れなかった。
「すまん……白…最後くらい、ちゃんと名前で呼んでやりゃ良かったな………苺、情けねぇが…俺はここで終わりみたいだ……じゃあな」
士狼は、最期にそう呟くと崩れるように光と灰となって舞い散った。その激戦の場所には、崩れた建物と点々とある血だらけの地面、そして、一番血で真っ赤に染まったその場所には、高熱による蒸気がゆらゆらと天に昇るように揺れ出ている大剣が地面に刺さっていた____。
* * *
それから、苺達や白が士狼の死亡を知ったのは、その2日後だった。
信じられなかった。あれほどまでに強く逞しい人が、死んだという現実は、誰も信じることは出来なかった。しかし、いくら白が待ち続けても士狼は帰ってくることもなく、白の手元には彼の大剣…ボロボロになっているがまだ熱が冷めていない《HS・インフレイム》があった。
白は深く絶望した。自分がただのモンスターの群れにやられていなければ、少なくとも一緒に戦えていた。今もベッドの上で動けずに剣だけを眺める日々だ。心配になって訪問してきた苺達には会わなかった。会えば、この行き場のない怒りをぶつけてしまいそうだったから。
自殺も考えた。しかし、その考えを持った瞬間に白は自分の頬を強く殴った。
(今ここで死んでも……誰も喜ばない……あの人が居ない世界、辛い…怪我も治ることはほぼ無い……でも、ボクは生きなくちゃいけない、あの人が生かしてくれたこの命を無駄にしちゃいけない。何も出来ないのはむず痒いけど…それでも……それでもわたしはあの人の分まで生きるんだ…)




