真編・第2話【現実仮想世界化計画】
重郎から切られたスマホを片手に、苺は重郎の部屋に入り、パソコンを開く。
「0413…っと、まったくお爺ちゃんってば、孫の誕生日をパスワードにするなんて、すぐ誰かにバレちゃうよ~…えぇっとメールは……これだ!」
まだ何も知らない苺は、内心少しだけ不安だがそのメールを開く。
「《現実仮想世界化計画》…? な、なにこれ……?」
不安が的中し、苺はその内容に、重郎の言葉の重さを理解した。苺もそこまで鈍感ではない。あんなことを言われて、いつもは話をちゃんと聞いてから切るのに今日は突然切られたのだ、何か異常だということはわかっていた。
「ッ……」
苺は1人、不安が大きくなりながらもその内容を見ていく。
そして《NewGameOnline5》とデータ化した世界を融合させるということはわかった。そして、その融合させる方法だが……。
「え……『《ローゼ・システム》を利用し現実世界と仮想世界に橋を創る』…?」
《ローゼ・システム》、つまりローゼは現実世界と仮想世界を繋ぐ橋、または門として作られた存在ということだ。
「…『その為には《ローゼ・システム》に“人格の確定”が必須条件であり、誘導してイレギュラースキル、【鬼神化】を取得させたプレイヤー、ベリーと接触することで人格を作っていく。人格については《NGO》という世界をゲームだと認識させたボスモンスター《ヘルツ》による実験は成功。人格を取得した。それを倒したプレイヤー、ベルとの接触によりさらに《ローゼ・システム》は人格が確定しやすくなる。』……ローゼが……そんな…」
“人格の確定”、つまり人の手から人格を作るのではなく、ごく自然に、人間のように成長させて人格を産み出す。
そしてユーベルについても書かれていた。内容はこうだ。
『モンスターを無理矢理凶暴化する“ユーベルウィルス”は《NGO》に負荷をかけデータ化した世界と融合できる段階まで成長させるためである。《ザ・アンステーブル・ユーベルデーモン・A》はそのウィルスをばらまくモンスターとして《NGO》に配置。ローゼ達と接触させることでさらなる人格の成長を促す。
また、この計画はイレギュラーな事態を想定し、プレイヤー、ベリーを中心にユーベル化モンスターと戦闘を行わせ、プレイヤーをイレギュラー的に成長させ、想定していない事態への対抗策を作り出す。』
全部仕組まれたことだったのだ。【鬼神化】を入手したのも、《ベリードール・ユーベル》との戦闘や異常なまでに【鬼神化】が進化して成長したのも。ベルと《ヘルツ》の戦闘も……。
全てこの為に仕組まれたのだ。
「…つ、続きがある……『この事は一部の本社社員と秘書のライ・スフィール、私、NGO社長である五島文桔の極秘計画である。』……スフィール? 理乃ちゃんのお父さん…かな……? でも、なんでこんなこと…」
しかし重郎が電話番号を載せておくと言っていた、その番号に連絡しなければいけない。そしてこの事をその人に伝え、すぐにやめさせなければいけない。
「………っ! も、もしもし!」
『…もしもし、百地見咲です、どちら様でしょうか』
電話に出たのは組織の人間、重郎の後輩…というよりは教え子である百地見咲だった。
「え、えっとあの、私は八坂苺って言います! 八坂重郎の孫です!」
「八坂さんの? どうしてお孫さんが私の電話番号を知っているのか聞きたいところですが、あの人の事です、緊急の用でしょう?」
「は、はい! 実は……!」
そして苺は見咲にメールの内容を全て話した。
「……なるほど、了解しました、こちらで手を打ってみます…この真実、絶対に口外しないでください、まぁ、馬鹿げてると普通の人は思うでしょうがね…それでは失礼します」
見咲はそう言うと電話を切った。苺は何をすればいいのかわからなかった。いや、何も出来ない。誰かに相談する、というのも難しい。
「大丈夫……お爺ちゃんはきっと、大丈夫…また大笑いしながら帰ってくる……神様…どうかお爺ちゃんを……守ってください……!」
苺のその言葉は、一生叶うことはなかった。
* * *
「ライ、調子はどうだ?」
五島文桔は自宅の地下室で秘書のライ・スフィールに向けそう言う。
「“アレ”のエネルギー量も問題ありません、《ローゼ・システム》もうまく起動しています……社長、これで…」
「ん? あぁ、わかってる、お前の家族には絶対に手を出さないと誓おう、神の言葉だ、信用していいぞ、ここまでよくやってくれた」
「……ありがとうございます、では引き続き準備を進めて参ります」
「あぁ、頼む、オレも最終調整を進めよう」
五島文桔とライ・スフィールは《現実仮想世界化》に向けての最終準備を進めていった。
「もう誰にも止められない、全ての人間はオレが管理する」
五島文桔はそう言うと、楽しみで仕方ないという表情でワインを口にした。




