第121話【勝華爛漫】
ベルの【クリンゲル・シックザール】により麻痺させられていた《ザ・アンステーブル・ユーベルデーモン・A》が再び身体を動かし始める。
「皆さん、触れれば即死と思って行動してくださいっ、回避を最優先に!」
攻撃力が未知数、測定不能となった今、そう考えて行動したほうが安全だろう。それにもしかしたら《ローエンフリューゲル・朱雀・U》の時のように、街に強制送還されてもおかしくはない。
「ああ! とりあえずヘイトは俺がとる! フィール、一緒に来てくれ!」
「ん、わかった」
敵の攻撃を防御するのなら、《聖剣士》であるソラと【反撃者】によるカウンターができるフィールが適任だ。
「なるべく一人にならないようにしましょう! 何があるかわからないわ!」
そのアップルの意見はもっとも重要だろう。《ザ・アンステーブル・ユーベルデーモン・A》の動きはプログラムのものというよりは人間味のある、つまり自身の考えがある行動に見える。一人になったところを狙われる可能性は高いだろう。
「賛成だよ! ヘイト担当はソラ君とフィール、補助担当はアップルとローゼ、ということは……私とベルとバウム君は主に攻撃担当だね!」
「そうだね、私は一応補助班の傍で援護射撃をするよ、単純に火力だけならフィールだけど、ただ火力で押してもアイツは倒せない、ベリー、バウム君、よろしく頼むよ」
ベリーとベルはそう言って戦闘態勢を取る。
互いを信じているからこそ任せられる。頼もしすぎる仲間とリーダーだ。
「短期決戦で行くよ! 皆! 【真閻解】ッ!」
ベリーはそう言うと【真閻解】を発動して、髪も装備も、全て鮮やかな赤に染まる。
「ベリー、まだ黒くなっているけど……本当に大丈夫?」
バウムがベリーの《鬼神ノ太刀・真閻解》を見て言う。ユーベルウイルスで剣先が黒くなっているが、今のところ異常はない。だがむしろそれが怖い。
「多分大丈夫だと思う、けど、もし何かあったらお願いできるかな? バウム君」
「うん、何か起きる前に止めて見せるよ、ベリー」
二人はそう言って会話をすると、戦闘を始める。
* * *
「【カウンター】……!」
「【カウンターシールド】ッ! 【神技・盾突き】ッ!」
フィールとソラが《ザ・アンステーブル・ユーベルデーモン・A》に対して攻撃、そして防御をうまくこなし、自分達をうまく狙わせる。
「準備完了!」
「こっちもチャージ完了だよ!」
アップルとローゼの補助により攻撃力を上げたバウムとベリーがそうベルに向かって言う。
「よし、【クリンゲル・シックザール】ッ! 第一攻撃開始ッ!」
そう言ってベルが自身のHPを70%削り、《ザ・アンステーブル・ユーベルデーモン・A》の防御力を低下させると第一攻撃を開始させる。
「【残刃解放】ッ! 【刃裂一閃】ッ!」
そしてまずバウムが《ザ・アンステーブル・ユーベルデーモン・A》の先に両脚に残しておいた【残刃刀】を解放し、【刃裂一閃】を顔面、主に目の部分を狙って放つ。
【刃裂一閃】は見事《ザ・アンステーブル・ユーベルデーモン・A》の目に命中すると、風船のように、しかしグレネードのような威力で破裂する。
それにより《ザ・アンステーブル・ユーベルデーモン・A》は目を抑える。さらに【残刃解放】により、両脚が崩れて地面に膝を着く。
そしてそれを見たベリーが納刀した《鬼神ノ太刀・真閻解》を押さえ付けながら跳躍して《ザ・アンステーブル・ユーベルデーモン・A》に接近する。
「……ッ! 【真・閻解ノ燈太刀・鬼神纏・閻魔】ァァァーーッッ!」
素早く抜刀し、噴き荒れる炎の威力を利用してスピードを付けたベリーは、そう叫ぶように言いながら《ザ・アンステーブル・ユーベルデーモン・A》の後頭部を狙って、フルチャージした【真・閻解ノ燈太刀・鬼神纏・閻魔】を放つ。
「ハァァアアアーーーッッ!!!」
《ザ・アンステーブル・ユーベルデーモン・A》の硬い皮膚を気合いで斬って通り過ぎると、ベリーは身を翻し再び燃え上がらせ、連続で【真・閻解ノ燈太刀・鬼神纏・閻魔】を発動させる。
「全員ベリーに続けぇぇーー!!!」
「【フルチャージ】、【ベシースング】ッ!」
「【ニーズヘッグ】ッ! 【ポイズンブレス】!」
「【神技・竜車輪】ッ!」
「【エクスカリバー・フィニッシュ】……!」
ベルの合図でローゼ、アップル、ソラ、フィールの四人がスキルを放つ。
「【心月命斬】ッ!」
「【フルバースト】ッ!」
そしてローゼ達四人の攻撃で怯んだ《ザ・アンステーブル・ユーベルデーモン・A》に、バウムの防御貫通の【心月命斬】とベルのスナイパーライフルによるレーザー砲、【フルバースト】で追い撃ちをかける。
「攻撃、来ます!」
ローゼのその合図で全員後方へ大きく跳躍し、《ザ・アンステーブル・ユーベルデーモン・A》の腕による凪ぎ払い攻撃を回避する。
「バウム君、準備は!」
「いつでもいいよ!」
ベリーが再び《鬼神ノ太刀・真閻解》を納刀してチャージしながらバウムに聞く。もちろんバウムは《ザ・アンステーブル・ユーベルデーモン・A》が脚を崩した時すでに【残刃刀】を発動しておいた。
「皆! 私の攻撃力底上げして! 次で決めるからっ!」
ベリーはチャージしながらそう皆に言う。防御力を低下させてベリーが連続でスキルを使ったおかげか、今の攻撃で《ザ・アンステーブル・ユーベルデーモン・A》のHPは8万減った。つまり残りは17万ということになる。単純に計算すれば残り9万になるので、次で倒せるとは思わないが、ベリーはやると言ったらやるのだ。
「「「【パワーアップ】ッ!」」」
ベル、アップル、ローゼが出来る限りベリーの攻撃力を上げていく。
「【授技・身体超強化】ッ!」
「……【創造・強化】、【パワーアップ】……!」
「【太陽ノ加護】ッ!」
ソラもステータスを超強化する【授技・身体超強化】を発動する。フィールは強化スキルとして【パワーアップ】を【創造】して発動する。そしてバウムは攻撃力と火属性攻撃力を上げる【太陽ノ加護】を発動する。さらにアップルとローゼによりクリティカル率もプラスされる。
「【開放ノ術】、【正宗ノ技】……!」
ベリー自身も攻撃力を上昇させる。が、しかし。
『Go▲z+g◆k*;so●■vj@s◆%lgk▼##▼hlッ!』
《ザ・アンステーブル・ユーベルデーモン・A》は強く、そして不気味な咆哮を上げたかと思えば、ベリーが浮き上がった。
「な、なんでぇ!?」
ベリーはそう言って驚きながらも、チャージは止めない。
「っ! ベリーの刀が!」
ベルがそう言って指を差す、全員がベリーの《鬼神ノ太刀・真閻解》を見ると、鞘が黒く変色していた。
《ザ・アンステーブル・ユーベルデーモン・A》がユーベルウイルスを操りベリーを、《鬼神ノ太刀・真閻解》を浮かせたのだ。
「うぐっ、腕の力がぁー!」
《鬼神ノ太刀・真閻解》にぶら下がっているベリーはチャージしつつそう言った。
すると高度の上昇が止まったかと思えば、急降下したではないか。
「まずい! あの高さじゃ!」
「僕が行きますッ! 【残刃解放】ッ!」
バウムはすぐに【残刃解放】を発動し、《ザ・アンステーブル・ユーベルデーモン・A》の脚を崩した。しかしベリーは《鬼神ノ太刀・真閻解》に引っ張られるように落ちていく。
「【満月】ッ! 【月光一閃】ッ!」
全身全霊をかけたバウムの渾身の一撃は、《ザ・アンステーブル・ユーベルデーモン・A》の胸に向かって放たれる。だが、それは強靭な腕によって弾かれてしまう。
「まだだ! 【影断ち】ッ!」
そう言ってバウムが再び縦に放った【影断ち】は弾かれた【月光一閃】に追い付くと二つに割った。
そして分離した【月光一閃】の片方が再び《ザ・アンステーブル・ユーベルデーモン・A》に向かい、その曲がりくねった禍々しい角を斬った。
『▼■▲▼▼●▲◆◆■▼ッ!?!?!?』
角を斬られたのが予想外だったのか、《ザ・アンステーブル・ユーベルデーモン・A》は頭の角があった部分を抑えて喚く。
すると《鬼神ノ太刀・真閻解》に付着していたユーベルウイルスが消えていく。
「ッ! ありがとうバウム君! …疾きこと風の如く、徐かなること林の如く、侵掠すること火の如く、動かざること山の如し……!」
ベリーはバウムにお礼を言うと、空中で態勢を建て直し、詠唱する。
「…【風林火山】ッ!」
そう言って、《五老人ミニゲーム・ファイナル》で鬼から貰ったスキル。【風林火山】を発動する。【風林火山】は俊敏力、クリティカル率、攻撃力、防御力を一時的に3倍させるスキルだ。
もうベリーの攻撃力はこれ以上は上がらないだろうというところまで来た。
そしてこれが、正真正銘、最後の一撃となるのだ。
「これで、私達の勝ちだッ! 【真・閻解ノ燈閻真太刀・鬼神全真纏・勝華爛漫】____ッッ!!!」
《鬼神ノ太刀・真閻解》はその一瞬だけ変化し、《真・鬼神ノ太刀・燈閻》と成り、ベリーはより一層、いや、二層にも三層にも紅く美しく輝く。
「せやァァァーーーッッ!!!!」
そしてベリーは強く、しかし優しく、縦一直線に紅い光を残しながら《ザ・アンステーブル・ユーベルデーモン・A》を斬った。
勝利の花が咲くのは、そう遅くはなかった。ベリー達の勝利を祝うかのように、《ザ・アンステーブル・ユーベルデーモン・A》は光の粒となって舞っていった…。
背景に花火のような光の粒が舞う中、ベリーのその姿は荒ぶる炎の鬼神の如く神々しく。
一輪の紅い花の如く美しかった____。
悪魔討伐ッ!
うまはじメモ!“勝華爛漫”
『美しく咲き乱れる勝利の花』という意味が込められている。




