第120話【イレギュラーだ!】
『Gu▼uu■u♯……』
《ザ・アンステーブル・ユーベルデーモン・A》は低く唸る。周りのユーベル化したモンスターもベリー達に牙を剥く。
「【真・雷公ノ太刀・八雷神】ッ!」
ベリーは【雷公】をノーボイスで発動し、【真・雷公ノ太刀・八雷神】を発動する。
「……! “悪魔”の詳細データを入手しました! レベルは……99ですっ!」
ローゼが全員に《ザ・アンステーブル・ユーベルデーモン・A》のレベルを伝える。《ヴァールハイトテューア・シュピネ・U》のレベルは85、レベルだけ見ても強敵であることがわかる。
「HPは“20万”を越えています、攻撃力、防御力は未知数です!」
20万とは恐ろしく高いHPだ、通常のボスモンスターでも10万を越えることはほとんどない。ならばステータスも最高値と考えていいだろう。
「ふーむふむふむ、なるほどなるほど…数でも負けてステータスでも負けてるんだね……うん、全っ然大丈夫!」
ベルはそう言うとまだ残っている【バウンド】に足を乗せる。
「全員一斉攻撃準備ッ!」
そう言ったベルは【バウンド】で空高くまで飛び上がる。
「うっひゃーやっぱ高いなぁ! でも、全モンスター目視! 【クリンゲル・シックザール】ッ!」
ベルの【クリンゲル・シックザール】は“目視している敵”全てにその効果を与える。ゴマ粒のように小さくなっていたとしても、それに気付かなかったとしても、視界に入っているのでそれは見えていることになる。
ベルはHPを70%削ると、目視したモンスター全ての防御力を大幅に低下させる。
「ナイス、ベル! 【若雷】、【土雷】ッ!」
ベリーはそう言うと【若雷】で攻撃力を上げ、【土雷】を発動して刀を地面に突き立て、モンスター達の足下の地面から雷を発生させて攻撃する。
「【神技・鎧砕き】ッ!」
続けてソラが【神技・鎧砕き】を発動し、1体のモンスターを強く殴るとブッ飛ばし、そのブッ飛ばした先にいたモンスターもろとも倒す。
「ソラ君、バウム君! 合わせて! 【閻解】!」
「うっし任せろ! 【神技・鳳凰】ッ!」
ソラはそう言うと、【神技・鳳凰】により真っ赤に燃え上がり、大鳥のような形を成した炎を放つ。
「わかった! 【太陽ノ一矢】ッ!」
バウムもそう言うと【太陽ノ一矢】を発動し、燃え上がる矢を放つ。
「命名! これぞ正しく【神・鳳凰ノ太刀・太陽大閻解】だァァー!」
そう言うとベリーは【大閻解】し、【神技・鳳凰】と【太陽ノ一矢】を吸収すると、【大閻解】と同じく合わせ技を命名する。
しかしその威力は強力で、《ザ・アンステーブル・ユーベルデーモン・A》と、その周りのモンスターも巻き込んで焼き尽くしながら振り下ろす。
『▲▼▲◆∃ゝァァッ!!』
だが《ザ・アンステーブル・ユーベルデーモン・A》はそれを片手で受け止めると、ユーベルウイルスを流し込む。
「なっ!? 解除!」
ベリーはすぐに【大閻解】を解除し、《鬼神ノ太刀・閻解》を元の大きさに戻す。
「【ベシースング】ッ!」
「【サウザンドシュート】ッ!」
ローゼとベルがそれぞれスキルを発動して《ザ・アンステーブル・ユーベルデーモン・A》を攻撃する。
「ベリー、大丈夫……?」
「う、うん…私は何ともないよ、でもちょっと先っちょが黒くなっちゃった」
ベリーを心配するフィール。だがベリー自身に異常はないようで安心する。
「もう、これ以上心配かけさせないでよね! 【ニーズヘッグ】!」
アップルはそう言うと《ニーズヘッグ》を召喚し、周りのユーベル化モンスター達に攻撃させる。
「心配ご無用! この八坂苺、必ず悪魔を討ち取って見せようぞ!」
「誰の真似よ、それ」
「電話してるときのお爺ちゃん!」
「えぇ……」
まさかの人物にアップルは困惑してそう言うことしか出来なかった。
「い、いいから、あのバケモノさっさと倒すわよ!」
「ん……でもこのままじゃ火力不足………んぐっ、んぐっ」
フィールはそう言うとポーションを飲んでMPを回復させる。
「っと! ベリーは大丈夫そうだね、で、フィールさん? あなたはなぜポーションを飲み干しているのかな?」
一旦戦線を離脱して来たベルがそう言う。なんとなく、何をするのかわかっているが。
「出し惜しみは……ダメかと思って……【ラグナロク】」
そう言って、あれ以来全く出番がなかった【ラグナロク】を発動する。フィールの前に巨大な門が現れ、そこから続々とモンスターやらよくわからないものやらが出現してユーベル化モンスター達を倒していく。
「「「「う、うわあ………」」」」
と、ソラとローゼ以外の全員がそう呟く。やはり地獄絵図とはこの事を言うのだろう。
「これでアレも倒れりゃなぁ」
「はい、それが一番いいのですが……やはりダメそう…ですね」
一方で冷静なソラとローゼはそう言いながら《ザ・アンステーブル・ユーベルデーモン・A》のHPを確認していた。
HPは最初の20万から3000しか減っていない。【ラグナロク】を発動してこれでは全員が全力、いや限界を越えてぶつかったとしても長期戦になるだろう。
『uclgjv▼if◆gssu●■ukfッ!!!』
そしてなんということか、《ザ・アンステーブル・ユーベルデーモン・A》は【ラグナロク】の門を掴むと、握力だけで門を握り潰す。
「うっそでしょ……」
ベルはそう言ってその光景を眺めた。【ラグナロク】はフィールド上のモンスターが全て居なくならない限り発動し続ける。しかし、今こうして《ザ・アンステーブル・ユーベルデーモン・A》がその門を破壊した。それによって【ラグナロク】は強制終了してしまう。
「大人しくしてろっ! 【クリンゲル・シックザール】ッ!」
ベリーがもう一度【クリンゲル・シックザール】を発動し、《ザ・アンステーブル・ユーベルデーモン・A》を麻痺させる。
「ッ! ま、待って皆……確かローゼが言ってたけど…あの“悪魔”はユーベル化したモンスターの力を吸収するんだよね…? ということはつまり……」
バウムがそう言って気付く。そうだ、今ベリー達が倒したモンスターは全てユーベル化していたモンスターだ、なら…当然その力は吸収される。
「ま、まさか…そんな……」
《ザ・アンステーブル・ユーベルデーモン・A》のステータスを再検索したローゼがそう呟く。
「ど、どうしたの? ローゼ…」
「っ、ベリー、よく聞いてください…今、あの“悪魔”のステータスが……最大値を、突破しました。…実質アレの現状のレベルは、150ということになります……っ」
それを聞いた全員は、言葉を失う。ベルやフィールでも、まだレベル100に到達していないというのに……いや、そもそも上限の100を越えるなんてこと、あってはならない。
「HPも25万になってる……全回復どころか5万もHPが増えてるよ……」
「ど、どうすんのよ…」
ベルは《ザ・アンステーブル・ユーベルデーモン・A》の上昇したHPを言う。
もはやこれはゲームではない。ゲームの枠を越えている。
「だ、大丈夫だよ! ちゃんと攻略法だってあるはずだよ!」
ベリーは暗くなっている皆を元気付けようとそう言う。
「いえ…それは、あり得ないと思います。正規のモンスターでない以上、攻略法があるはずがありません……あんなイレギュラーなものに、勝つのはやはり……」
「難しい」……そうローゼが言おうとした瞬間に、ベリーが言う。
「目には目を、歯には歯を、イレギュラーにはイレギュラーだね!」
「た、確かに、同じイレギュラー同士なら効果はあるかと思いますが……でもそんなものは」
「私がイレギュラーだよ!」
ベリーは胸を張ってそう言う。
「俺、自分でイレギュラーだって言うやつ初めて見たぜ」
「多分…皆そう……」
ソラとフィールはそう言う。だが全くその通りだ。
「私に任せなさーい! なんかリーダーっぽいし!」
「いやリーダーでしょ!」
アップルがそうツッコミを入れる。
「う、うん、それはそうだけど……いつも皆に頼ってばっかだったから、今は私がなんとかするッ!」
そう強く言うベリー。もちろん、どうするかなど考えてもいない。
「なるほど、それは良いけど……“皆で”、だからね?」
「もちろん! 私達の友情パワーを見せ付けよう!」
そうだ、ベリーたった一人でクリアなんて出来ない。だが皆が居れば出来る。こんなにも頼もしすぎる仲間達だ。
「さあ! やろう! 皆!」
「「「「「「おーーーーー!!!」」」」」」
もう勝ちは譲らない。何がなんでも勝利する。そして祝勝会をする。それだけを胸に全員は握り拳を天へ掲げて気合いをいれた。
ベリーのネーミングセンス…
……コラそこ、お前のネーミングセンスだろとか言わない!!!(メタい)




